10 鉄壁
初級冒険者の身で、『鉄壁』の双つ名を付けられたギルガとリーリアだが・・・
ガンッと、石斧は盾に防がれた。
次から次へと襲い来るゴブリンどもを蹴散らしつつ、ギルガは進む足を止めない。
(この先にいるはずだが・・・)
背中の防御はリーリアと、今回パーティを組んだ仲間たちに任せている。
中級に昇格したばかりの戦士二人を中核に、中級への昇格目前の初級冒険者六名とで構成されたパーティに、戦闘支援を要請されたギルガとリーリアだった。
元々の依頼は、森の外れに住み着いたゴブリンの掃討だった。
たかがゴブリン、されどゴブリンだ。
人族の村の一つが滅せられ、ゴブリンはその数を一気に増やしていた。
街道に近いこともあり、たまさかゴブリンに遭遇した商隊の生き残りがリンゴールに何とかたどり着き、冒険者組合に討伐依頼が出されたのだった。
ゴブリン相手にも関わらず、敢えて防御を充実させて対応しようとするパーティの方針に共感を覚えたギルガとリーリアは、戦闘支援要請を快諾し、討伐に加わった。
闇雲に昇級を目指さず、いまだ初級に留まっているギルガたちだったが、その技量の堅実さは定評を確立しつつあり、今回の依頼でも、パーティに合流すると程なく、仲間の信頼を勝ち得ていた。
穏やかな物腰ながら、大柄な背中に背負った盾が、それを見る者の心に安心感を与えてくれる、ギルガ。
潤沢な天然成分が仲間を和ませつつ、防御に治癒に活躍し、仲間たちの生存率を飛躍的に高めてくれる、リーリア。
二人が戦闘支援に加わったパーティメンバーの生存率は、九割を超えているという。
そう、唯一、彼らが初めて参加した依頼で失った仲間たち以外に、失われた命はない。
(来る!)
ゴウッと、風を切る轟音とともに迫り来る戦斧は、しかし、ギルガの盾により、しっかりと受け止められた。
ほぼ同時に、ギルガの長剣が翻り、敵の足元を薙ぎ払う。
「ぐふッ!」
敵-ゴブリンの上位種であるホブゴブリンの、熱く生臭い吐息がギルガの肌を舐めてゆくが、ギルガは意に介さず、さらに盾を前に出して、ホブゴブリンを押し倒す。
憤怒にかられたホブゴブリンの上腕を戦斧と一緒に盾で押さえつつ、長剣で急所を一突き。
ギルガの背中の盾に打ち付けていたホブゴブリンの足が止まるのを確認しつつ、ギルガは周囲の状況を窺がう。
中級と評価される魔物であるホブゴブリンをギルガが引きつけていたこともあり、危なげなくゴブリンどもは掃討されたようだ。
動いているものが味方だけと見て取ったギルガが、ようやく息をつくと、
「お疲れさま。
助かりました。」
パーティリーダーの剣士が、声をかけてきた。
「いえいえ、こちらこそ。
お役にたてたのであれば、幸いです。」
「いやいや、俺たちだけじゃ、大怪我や、最悪、死ぬ可能性があったかもしれない。
実際のところ、上位種は強さが読めないだけに、かなり厄介だ。
それに・・・」
リーダーは振り向いて、くつろいでいる仲間たちを見やる。
「さすがは『鉄壁』コンビ。
リーリアちゃん、俺らの仲間に入らないかい?」
パーティの一人が、リーリアに話しかけているが、
「お誘いはとても嬉しいですけど、曲がりなりにも神官職に就いている者としては、もっとたくさんの人をお救いしたいんですよ~」
「なるほど~
それじゃ、仕方ないかな。
でも、気が変わったら、いつでもおいでよ。
大歓迎するからさ。」
他の仲間たちも、うんうん頷いている。
苦笑いのリーダーが、
「彼女がいると、士気が上がる。
俺でさえ、少しは、格好いいところを見せたいと思ってしまうからな。」
「ええ、頼りになる相棒です。」
ギルガは、素晴らしくいい笑顔で、応えてみせた。
次回で本エピソードは終了です。