謎の写真
「……あの、緊急事態だと聞いたんですが」
「真実よ?」
「はぁ」
大聖城に入った僕は、聖王の部屋へと通された。
そこで僕が見たものは、一言で言うなら……。
『……汚部屋ね』
「……うん」
フーコさんの部屋は、なんというか……ぐちゃぁ、としていた。
ちょっと前に来たときは、すっきりと片付いていたのに……今は足の踏み場もないほど人形やぬいぐるみが散らばっている。
その人形やぬいぐるみの山から、フーコさんがひょっこり顔だけ出していた。
どうやら、埋まっているらしい。
「抱っこ?」
フーコさんが両腕を、ぴんっと伸ばす。
「……1人で抜けられないんですか?」
「抜けられたら、あなたを呼んでないわ?」
「ミィモさんは?」
「逃げたわ?」
「逃げてたんですか、あれ」
とりあえず、フーコさんの脇を抱えて引っこ抜いた。
人形とぬいぐるみの山の上に、ぽすんと座らせる。
「いったい、なにがあったんですか」
『ハリケーンでも通ったの?』
「話すと長くなるのだけど……まず、いつも掃除を任せていた人形をバトル用にカスタマイズしたわ?」
「はぁ」
「そしたら、掃除をする人がいなくなったわ?」
「…………」
「以上よ?」
「……え、それだけですか?」
「部屋が散らかるのに、他にどんな理由が必要なの?」
「いや、それだけで、ここまでの惨状にはならないでしょう」
「なったわ?」
「たしかに、なってますが……」
『……こいつ、わりとダメ人間ね』
「……僕もそう思ってきた」
接しているうちに薄々気づいてきてはいたけど、こんなダメ人間いるんだ……。
下手に関わると、ろくなことにならないだろう。
「じ、じゃあ、用は済んだみたいなので、僕はこれで……」
そそくさと退散しようとするが。
ちょんちょん、と服を引っ張られる。
「部屋、片付けて?」
「…………」
言われると思った。
こういうとき、断りきれないのは僕の甘いところか。
僕は肩を落としつつ、床に散乱している人形やぬいぐるみを拾い始める。
「とりあえず、人形とかは種類ごとに壁際に並べておきますね」
「わかったわ? ぽいー?」
「……なぜ、片付けてる側から散らかすんですか」
「謎だわ?」
『……無自覚なの?』
とりあえず、1人では埒が明かない。
ここは僕の装備たちの出番か。
「スイ、ラム、協力して」
「らじゃー!」「……やれやれです」
双子を呼び出して人手増強。
さらに。
「ミミちゃん、ここの山を“ごっくん”して、壁際で“ぺっ”してくれる?」
「ぐるるるる!」
暴食鞄を使って、一気に物を移動する。
『わたくしは? ねぇ、わたくしは?』
「ジュジュ、君には一番重要な仕事を任せたい」
『……! なにすればいいの?』
「みんなの邪魔にならないところで、じっと息を潜めてるんだ」
『わかったわ!』
装備たちの活躍により、片付けの効率はかなり上がった。
みるみるうちに部屋の床が見え始める(すごい快挙)。
まさか呪いの装備を、部屋の片付けのために駆使する日が来るとは思わなかったけど……とにかく、僕も装備たちに負けないよう頑張ろう。
「あ、そこは……?」
「なんですか?」
「ただ散乱しているだけに見えて、わたし的に完璧に配置してあるわ? あまり乱さないでほしいものだわ?」
「へぇ、そうなんですね」
「あ……あ……?」
問答無用で片付けていく。
「あ、そこは……?」
「今度は、なんで……ッ!?」
「ワイヤートラップあるから気をつけてね?」
「……もう遅いです」
気づけば、天井に逆さ吊りにされていた。
「……なぜ、部屋にトラップが?」
「謎だわ?」
「…………」
最初からわかっていたことだけど。
だらしないってレベルじゃないぞ、これ……。
「あるじー!」「……レスキューします」
「……ありがとう」
双子に助け出されて、なんとか片付けを再開する。
その後も7回ほど地雷などに引っかかったが、とくに問題はなく片付けは進んだ。
そして……なんということでしょう。
さっきまでは完全にカオスに呑まれていた汚部屋が、一変。
普通の汚部屋と言えるほどに、綺麗になったではありませんか。
「こんなものでどうですか? ここまで片付ければ、車椅子でもギリギリ動けるんじゃ」
「ふぅ……」
フーコさんは優雅にティーカップに口をつけてから、一言。
「この程度で満足してもらっては困るわ?」
「……他人には厳しいんですね」
肩を落としつつ、床に散らばっているものを、さらに片付ける。
人形やぬいぐるみの海の下から出てきたのは、衣類や本など。衣類はあとでクリーニングに出す用にまとめておき、本は適当に本棚へ突っ込んでいく。
「……ん?」
と、1冊の本を拾い上げたとき。
ページの隙間から、ひらりと1枚の写真が落ちた。
ずいぶん古びた写真だ。ほとんど色がかすれてしまっている。
とりあえず本に戻そうと思って、写真を拾い上げようとしたところで……その写真に、なぜか目が吸い寄せられた。
どこかの施設の写真だろうか。
施設を背景に、数人の大人と――7人の子供たちが映っている。
ほとんどの顔はかすれて判別できないが……1人だけ顔がわかる。それも、ひどく見覚えがある顔だ。見間違えようもない。
その顔はまさしく――。
「…………ジュジュ?」