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添い寝

「…………あれ?」


 朝起きたら、ラヴリアが隣で寝ていた。

 僕にぎゅっと抱きつき、胸に顔をうずめている。


「おかしいな……」


 ラヴリアの部屋は、隣だったはずだけど。

 護衛のために一緒の部屋で寝るか、と提案したこともあったけど、ラヴリアが「プライベートは大事!」と断固反対したのだ。

 そんなラヴリアが自ら僕のもとへ来ることもないだろうし。

 寝ぼけて部屋を間違えたのだろうか。


「うーん……」


 ……動けないし、暑い。

 相手が装備だったらドキドキしてただろうけど、ただの人間が相手じゃなぁ……残念感がすごい。

 とりあえず、ラヴリアを起こそうと体を揺さぶると。


「……やっ」


「え?」


 ぱしっ、と勢いよく手を振り払われた。

 そして、ぎゅっと抱きつく力を強めてくる。

 起きているのかと思ったけど、違う。眠ったままだ。

 ただ、悪い夢でも見ているのか、その固く閉じられたまつ毛には小さな水粒が光っていた。


「…………嫌だよ」


 泣いていた。


「…………誰か、ラヴを……守って……」


 普段のラヴリアとの雰囲気の違いに戸惑う。

 いつもは気丈に振る舞っていたが……魔物の襲撃やら疲労やらで、やっぱり精神的にだいぶ参っているのかもしれない。

 悪夢なら、覚ましてあげたほうがいいだろう。


「ラヴリア、起きるんだ」


「…………ん」


 しばらく体を揺すっていると、目蓋がうっすらと開いた。


「ノーくん……?」


 目をぐしぐしこすりながら、ぽやんとした目つきで僕を見る。


「ふわぁ……おはよう……おはようございまふぅ」


「うん、おはよう」


「……らぶりー」


「イエス、ラブリー」


「…………んー?」


 そこで、目がぱっちりと開く。

 意識もはっきりし、状況の把握ができてきたのか。


「ぇ……ぁ……?」


 みるみるうちに、ラヴリアの顔が赤くなっていった。


「な、ななな、なんで、ノーくんが、ラヴのベッドに!?」


「いや、ここ僕のベッドだけど」


「なんで一緒に寝てるの!? しかも、この密着具合!? なんで!?」


「うん、不思議だね」


「あ……待って! やっ、ダメ! あんまラヴのほう見ないで!」


 布団を引っかぶって、顔を覆うと。


「で、出てって!」


「うわっ」


 ベッドの側にあるものを、ぽんぽんと投げてきた。

 枕に、暴食鞄に、ジュジュ……。


『ふぎゅっ』


 ぽてり、と床に落ちたジュジュが潰れた声を上げる。


『ねぇ……なに、これ?』


「おはよう、ジュジュ」


『おはよう、じゃないわよ。今、わたくし史上最高にアクロバティックな起こされ方したんですけど?』


「聖都の思い出がまた1つできたね」


『こんな思い出ごめんよ』


「まあ、文句ならラヴリアに言ってくれ」


『はぁ?』


 とりあえず、僕はジュジュに事情を説明してみた。


「……というわけなんだ」


『つまり、あの姫が寝起きにノロアを見て、パニックになって、わたくしをオーバースローで投げたと?』


「そんなところかな」


『あんたのせいね』


「なんでだ」


『ふぅ……あんたは乙女心がわかってないのよ』


「君にもわかるとは思えないけど」


『いい? 乙女っていうのはね、男の前では綺麗な自分しか見せたくないものなの』


「ああ……そういえば、シルルも寝顔見られるの嫌がってたね」


 レイヴンヤードにいたときはシルルと一緒の部屋で寝てたけど、彼女は僕より遅く寝て、早く起きることが多かった。

 僕が起きる頃には、髪型とかばっちり決めてたし。


「でも、ラヴリアはそういうこと、もっとさばさばしてるかと思ってたけど」


『これが普通よ。あんたが人間に対してさばさばしすぎなだけ』


「僕って、そんなさばさばしてるかな?」


『さばっさば、よ』


「さっばさば、か」


『とゆーか、さばさば言ったら、サバ食べたくなってきたんですけど』


「すごくどうでもいいよ」


 自室がラヴリアに占拠されてしまったため、仕方なく食堂へ行く。

 すでにシルルが起床し、食卓にお皿を並べているところだった。ククと双子たちの姿は見えない。ククは今から寝るところで、双子はまだ寝ているところなのだろう。


「あの、上からラヴちゃんの叫び声が聞こえましたが……なにかあったんですか?」


「いや、たいしたことはないよ」


「それならよかったで……」


「うん。昨日はラヴリアと寝たんだけどさ、朝になったらラヴリアが予想外に恥ずかしがってね」


「………………はい?」


 シルルの手から、皿がぽろりと落ちる。


「べつに寝起き姿なんて何度も見てるわけだし、今さら恥ずかしがることもないのにね……って、どうしたの? お皿落としてるよ? 大丈夫?」


「あ、いえ……ちょっと、お皿を割りたい気分でして」


「どういう気分なの、それ?」


「うふふふふふ、お皿割るの楽しい……ッ!」


「お、落ち着いて、シルル! 君とお皿の間に、いったいなにがあったの!」


 なんとかシルルをなだめるのに、10分ほどかかった。

 お皿に対して、よほど鬱憤が溜まっていたんだろう。

 ひとまず事情をくわしく説明すると。


「なるほど……ラヴちゃんが間違ってノロア様の部屋に……」


 どうやら、シルルはなにか誤解をしていたらしい。


「…………なるほど、その手がありましたか」


 おや、なにかを閃いたようだ。


「でも、僕……ラヴリアのこと怒らせちゃったかな」


 護衛という立場上、良好な関係を築きたいんだけど。

 やっぱり、人付き合いは難しい。


「怒らせたわけではないと思いますよ」


「え?」


「ラヴちゃんって、ああ見えて、人見知りなところありますから。昔のラヴちゃんも殻に閉じこもってる感じで、あまり人と接することもなかったですしね」


『あんま想像できないわね。それより、パンおかわり』


「最近のラヴちゃんは、昔からすごい変わりましたからね。でも、うなされていたんですか……」


『ちょっと、パン。パンおかわり』


「悩み事があるなら、相談してくれればいんだけど」


「そうですね……ただ、ラヴちゃんは自分の素顔を見せることを怖がっている印象もあります」


「怖がってる?」


『おかわり。ねぇ、おかわり。シカトしてるんじゃないわよ』


「本当の自分が、他の人には受け入れられないって、そう思ってるのかもしれません。私たちに対しても、理想的な自分を演じて、仮面をかぶって接していると言いますか……」


『おかわり……あれ、わたくしの声、聞こえてない……?』


「仮面か……」


 ふと、先ほどのラヴリアの寝顔を思い出す。

 あのときのラヴリアは、なにかに苦しんでいる様子だった。しかし、起きているときのラヴリアは、悩みとは無縁そうな顔しか見せてくれない。


「みんなー、ラブリー♪」


 と、噂をすれば、ちょうどラヴリアがやって来た。

 服も髪型もばっちりとキメて、るんるんとした様子で食卓につく。

 どこから見ても、いつものラヴリアだ。先ほどの取り乱しようが嘘だと思えてくるほどに。

 ただ、どうしてか僕とは目を合わせてくれない。


『ちょっと、あんた。さっきはよくも、わたくしをオーバースローで……』


「ジュジュちゃんは今日もラブリーだねぇ♪」


『わかってるじゃない』


 ジュジュがご満悦の表情だ。


「あれ……どうしたの、シルちゃん? なんかラブリーな顔じゃないけど……」


「え? あ、えっと」


 シルルが目線をさまよわせる。ラヴリアの話をしていたとは言いにくいのだろう。


「ちょっと口内炎が痛くて、ですね」


「……こ、口内炎!? そんな、シルちゃんが……どうして……! お、お医者さん呼ばなきゃ……!」


「お、お大げさですよ、ラヴちゃん」


「あ、口内炎には蜂蜜がいいって言われてるんだった! 誰か蜂蜜持ってない?」


『蜂蜜ならここにあるわ』


 ジュジュが服の中から蜂蜜の小瓶を取り出す。

 なんで、そこにあるんだ。


「あ、あの、口内炎というのは嘘で……」


「シルちゃん、じっとしてて! オペを開始するよ!」


「ん……んむむ……!?」


 かくして、シルルの口内炎手術が始まった。


「……様子を見に来てみれば、君たちはいつもにぎやかだね」


「ん……?」


 振り返るが、誰もいな……あ、いた。

 ミィモさんだ。背が低くて一瞬見えなかった。


「いたんですね、ミィモさん」


「……悪かったね、見にくくて」


「い、いえ……それより、どうしてここに」


「呼び鈴を鳴らしても誰も出てこなかったからね。仕方なく幽霊の子に通してもらったよ」


「あ、なんかすいません」


「いや、かまわないさ」


「それで、こんな朝早くからなんの用ですか?」


 審問官のトップが、直々に寄生宮までやって来たのだ。

 なにかあったのかと少し身構える。


「もしかして、緊急事態ですか?」


「……ああ、そうだね」


 ミィモさんが苦々しい顔をして。

 ちらっ、とラヴリアのほうを見てから続けた。


「聖王陛下が君をお呼びだ。至急来るように、と」


「……! なにか、あったんですか!?」


「……行けばわかる」


「わかりました」


 僕は急いで制服に着替えて、大聖城へと向かった。

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