表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/113

対策会議

 マーズとの接触のあと。

 僕たちはミィモさんと合流し、寄生宮で話し合いをしていた。


「さて……」


 ミィモさんが重々しい表情で、話を切り出す。


「……議題は、新入りのセクハラ問題だったかな」


「違います」


「そうです! この男は、あろうことか護衛対象にみだらな行為を……!」


 セインさんがテーブルをばんっと叩いて力説する。


「ミルナス長官! 護衛の人選についてご再考を! この男よりも俺のほうが立派に護衛を務めてみせます!」


「落ち着きたまえ、セインくん。今話し合うべきは、そのことじゃないだろう」


「あなたが話を振ったんですけどね」


「それより、あまりゆっくりしている余裕はないよ。敵が動きだした以上、ここもいつ襲われるかわからないからね」


「そのわりに冗談を言う余裕はあったみたいですが」


「さて、先の“呪い持ち”襲撃の件だが……」


 ミィモさんは僕を無視して、お茶請けのお菓子をぽいっと口に放り込む。


「まず報告しておくと、“マーズ”という名も、“メガネビーム”という名も、入市記録からは確認されなかったよ」


「メガネビームも調べたんですね」


「彼の呪いの装備の力については、未知数な部分がも多いが……おそらく“地図操作”といった類のものだろう。建物や道といった人工物をパズルのピースのように綺麗に切り取り、前後左右に配置し直すことができるようだ」


「……地図操作」


 マーズと対峙したときのことを思い出す。

 あっさりと街をめちゃくちゃにした呪いの装備。

 そんな呪いの装備の力を、マーズは完全に使いこなしていた。


『だぶん、頭もかなり切れるわよ。眼鏡だし』


「眼鏡はともかく……これほどやっかいな敵は初めてだね」


 “地図操作”――人工物を自由に動かす。

 それは街中において、かなりのアドバンテージを持つ力だ。

 とくに聖都は水上に浮かんでいる。足場をなくされれば、こちらは動くことすらままならない。無策のまま戦おうとしても、また先ほどの二の舞になるだけだろう。

 それに……もしもマーズが自棄になれば、聖都そのものを沈めることもできるかもしれない。

 なんなら、この寄生宮も……下手したら、今すぐにでも水路に落とされるかもしれない。

 あまりにも、フィールドが悪すぎる。


「マーズは“地図操作”の力を使って、結界も動していたという話だった。となると、おそらくこの力で結界に隙間をあけて、聖都に侵入したのだろう」


「結界に隙間をあけるって……つまり、やつは結界の影響をまったく受けないということですか!?」


「いや、そうでもないよ、セインくん。彼はレベルGの権限さえ持っていないからね。街中を歩こうとするだけで、いちいち結界を動かさなければいけないが……そんな派手なことをすれば、私たちに居場所がバレてしまう。今まで隠れていたことから考えても、普段は聖都内で唯一結界が張られていない……船着き場か水路に潜んでいると思われる」


「なるほど……すぐに部下たちに、聖都内の船を調査させましょう」


「ただ、問題は……“魔物操作”の力だね」


 ミィモさんが言いながら、飴玉をころんと口に放り込む。

 というか、さっきからお菓子食べすぎじゃないだろうか。


「マーズの“地図操作”の力が、人工物だけでなく魔物を動かすことができるという感じなら、まだいいが……すでにマーズが侵入している以上、“呪い持ち”が何人入っていてもおかしくはない」


「そういえば、マーズが“俺たちの組織”という言葉を使っていた覚えも……」


『ぼろっぼろじゃない。難攻不落(笑)みたいになってるわね、この都市』


 700年も聖都を守ってきた結界が、こうもあっさり突破されるとは。

 呪いの装備が恐ろしいと言うべきか、敵が恐ろしいと言うべきか……。


「ただ……どうして敵は、ラヴリアくんを襲おうとするんだろうね」


 ふと、ミィモさんがラヴリアのほうを見る。スライムの双子と元気に遊んでいる少女。


「わざわざ聖都に侵入してまで殺そうとするような人物とは、とても思えないんだが……」


「敵が複数人だというなら……マーズたちはあくまで駒にすぎず、背後で権力者が糸を引いているという可能性もありますね」


「……そうだね」


 ミィモさんが物憂げに溜息をつく。


「ここにきて敵が増えるとは……まあ、考えても仕方がない。私たちがするべきことは、迅速に“呪い持ち”を殺すことだけだ」


「……殺す、ですか」


 そうだ……この国では、“呪い持ち”は問答無用で殺されるんだった。

 だけど、敵は本当に殺されるべき人間なんだろうか。少なくともマーズは話が通じたし、平和的な解決を望んでいるようでもあった。


「……どうかしたかね?」


 ふと、ミィモさんがこちらを、じっと見ていた。

 まるで品定めするような無機質な目線に、少しぞっとする。


「まさか……“呪い持ち”に情を移したわけではないよね?」


「……いえ」


 僕は慌てて、首を横に振る。

 どうも敵と実際に接触したせいで、迷いが生じてしまったようだ。

 審問官が“呪い持ち”を殺す理由はわかるけど、僕は“呪い持ち”の気持ちも理解できてしまう。

 審問官と“呪い持ち”が正面からぶつかったとき、僕はどちらの味方につけばいいんだろうか――。

 そんなことを、ふと考えてしまうのだった。

これにて3章終了です!

お時間があれば、ポイント評価をしていただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『世界最強の魔女』8/7、漫画9巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『ラスボス、やめてみた』7/7、漫画7巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『時魔術士』漫画3巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『レベルアップ』漫画5巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『装備枠ゼロの最強剣士』漫画7巻発売!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

漫画ページはこちら↓
i595023
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ