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ラヴリア脱走

 聖都に入ってから2日目。

 今日から本格的に、ラヴリアの護衛が始まる。

 ラヴリアは今回の呪災における最重要人物。彼女の護衛は、呪災解決のためにも重要な任務だ。そして、呪災解決のあかつきには、可愛い呪いの装備も手に入る……。


「よし!」


 僕はやる気をみなぎらせながら、審問官の白制服に袖を通した。

 そのまま意気揚々と玄関ホールへ向かい――。



「……ノロア様、ラヴちゃんがいなくなりました」



「…………え?」


 さっそく護衛失敗の可能性が出てきた。


「え、どういうこと……? さらわれたとか? いやでも、この寄生宮の中にいれば安全なはずだけど……」


 魔物に襲われることも、誘拐されることもないはず。

 だからこそ寄生宮で寝泊まりさせているわけだし。


「命を狙われているときに1人で出歩くというのも、考えにくいですよね……」


『1人かくれんぼとかじゃないの?』


「そんな、君じゃあるまいし」


『あれ? さりげなく馬鹿にされてる、わたくし?』


「それより……クク、いる?」


「……呼ばれて参上」


 床から飛び出す幽霊少女。まだ寝る時間ではなかったようで、心なしか目元がシャキッとしている。


「ラヴリアはこの屋敷にいる?」


「いない。さっき1人で脱走してた」


「……嘘だろ」


 まさか、一番ありえないと思っていたものが答えだとは。

 思わず頭を抱えたくなる。フリーダムな性格だとは思ってたけど、さすがにここまでとは想定外だ。


『護衛初日から、いきなり前途多難ね』


「そうだね……ジュジュが2人になった気分だ」


『両手にわたくしとか、夢のようなシチュエーションじゃない』


「……本当に悪夢みたいだよ」


 とにかく、ラヴリアはいつ魔物に襲われてもおかしくないのだ。

 一刻も早く見つけ出さないとな……。



   *



「“ラヴリア・フォルティ”を示せ」


 聖都を駆けながら、羅針眼に指示を出す。

 左目の針は、くるくる回ったあと一点を指した。羅針眼が反応したということは、ラヴリアはまだ存在している――つまり、無事だということだ。

 しかし。


「やっぱり街中だと弱いな、羅針眼……」


 太陽はすでに高くまで昇り、街には人気ひとけが増えてきている。ただでなくても建物などの障害物が多いのに、こうも人が多いと、どうしても捜索が難航してしまう。


「あ……」


 と、そこで見知った顔を発見した。


「セインさん!」


「……ん? って、なんだ貴様か」


 金髪の審問官副長、セインさんだ。

 目が合うなり、清々しいぐらい嫌そうな顔をされる。


「俺は忙しい。貴様などにかまっている暇はない」


 ちょうど市内をパトロール中だったのだろうか。

 それにしても、部下を1人も引き連れていないのは気になるけど……。

 いや、今はそれどころじゃない。


「セインさん、ラヴリアがいなくなりました!」


「……は?」


 セインさんが目を見開く。


「……さらわれたのか?」


「いえ、脱走です。1人でどこかに出かけたみたいで」


「……嘘だろ、この状況だぞ」


『残念でしたぁ! 真実でぇす! ぴーすぴーす!』


「なぜ君は得意げなんだ」


「貴様はなにをやってたんだ。彼女の護衛なんだろ……くそっ」


 いらいらしたように頭をかきむしる。


「まあいい。貴様、ノロマ・ペーターとか言ったな」


「言ってません」


「彼女の権限レベルはE。レベルD以上の区画には結界のせいで入れないはずだ。俺は部下たちとレベルFまでの区画を探すから、のろりひょんは……」


「ノロアです」


「……貴様はレベルEの区画を探せ」


「あ、はい」


「いいか……命に代えても、彼女を見つけ出せ!」


 セインさんが言い終わるなり走りだす。


『あいつ、やっぱツンデレね。金髪キャラは腹黒かツンデレだと相場が決まってるのよ』


「それは、すごい暴論だと思うけど」


 とにかく、人手が増えたのは助かった。時間をかければかけるほど、魔物に襲われるリスクも高まるし。


「よし、僕たちも急いで探そう!」


『それより、わたくしウニ食べたい』


「君は空気読もうか」


 と、そこで。


「あるじー、こっち!」「……標的発見です」


 僕と分かれて行動していた双子が、戻ってくる。


「よくやった、2人とも」


『ご苦労だわ』


「ラムが見つけたんだよー」「……第一発見者の座は譲りません」


「とりあえず、案内してもらってもいいかな」


「らじゃー!」「……了解です」


 双子の案内で、ラヴリアのもとまで駆けつける。


「あれだよー」「……あれです」


「あ、本当だ」


 通りにできた謎の人だかり。

 その中心に……ラヴリアがいた。

 なんか、めちゃくちゃ普通にいた。旅の吟遊詩人かなにかのように、路上でノリノリで歌っている。


「じゃあ、次の曲いっくよー♪ 『猫のゲロ、踏んじゃった』!」


「ラブリィィィッ!」「待ってましたぁぁぁ!」「ゲーロ! ゲーロ!」


 ……なんだこの盛り上がり。

 突発的な路上ライブみたいなノリなのに、どこで嗅ぎつけたのかファンたちの集まり方がすごい。むしろ、なぜ僕はこれを見つけられなかったのか。

 なにはともあれ、大事になる前に見つかってよかった。


「ラヴリア!」


「……げ」


 声をかけると、悪戯が見つかった子供みたいな顔をする。


「もう見つかった!? 早いよ、早すぎるよ! まだ2曲目なのに!」


「それより、1人で行動するなんて危ないじゃないか……」


「おい」


 ラヴリアに近づこうとする僕に、ファンたちが立ちふさがる。


「審問官様が、我らのラヴたんになんの用だ」


「え、いや、僕は彼女の護衛でして……」


「なにを言うか! ラヴたんをお守りするのは我らの役目だ!」


「そう言われても」


 気づけば、周囲に集まっていたファンたちが、僕を取り囲んでいた。怯えている様子ながらも、静かにこちらを睨みつけてくる。

 審問官って、やっぱり嫌われ者なんだな……。

 仮にとはいえ、いざなってみると苦労がわかる。


「よくわかんないけど、歌の時間はこれでおしまい! みんな、ラブリーでね♪」


「あ、ちょっと!」


 くそっ、ラヴリアが逃げだした。

 黙って脱走した時点で、もしかしてとは思ってたけど……どうも、僕と一緒に行動することを避けているようだ。

 僕も慌てて追いかけようとするが。


「逃げるのか、貴様!」


 ダメだ、ラヴリアファンたちがすごい邪魔だ。


「ラム」「あいあいさー!」


 ラムを鞭状に変形させ、建物の出っ張りに引っかけた。そのまま一気に縮め――その勢いで屋根の上まで飛び上がる。屋根の上なら、さすがのラヴリアファンも追ってはこれない。


「“ラヴリア・フォルティ”を示せ」


 羅針眼でふたたびラヴリアの居場所を補足しながら、屋根の上を走る。

 やがて、針が指している方向に1つの樽を見つけた。めちゃくちゃ不自然な場所に置かれている樽。よく見ると、もぞもぞと動いている。


「ラヴリア、出てくるんだ! 樽に入ってるのはわかってる!」


「えっ、もう見つかった!? てゆーか、えっ……? なんで家の屋根に乗ってるの? どうやって登ったの? そこから見える景色は何色なの? ラヴ、気になる!」


 いや、そこに食いつかれても困る。


「君は魔物に狙われているんだ! 1人で出歩いたら危ない!」


「で、でも、1人になる時間ぐらい欲しいもん。ラヴは自由に生きたいの」


 ……わがままなお姫様だ。


『これは年頃の乙女心ってやつね。わかる』


「……? なんで、君がわかるの?」


『え……乙女だし』


「あははは」


『べつに冗談言ったわけじゃないんですけど……』


 まあ、ジュジュの戯言に付き合ってる暇はない。

 とにかく、今はラヴリアだ。彼女は今まで無事に済んできたせいで、事の重大さに気づいていないのだろう。


「とにかく話し合おう。僕はラヴリアの自由を奪うつもりはない」


 僕は家の屋根から飛び降りて、ラヴリアに歩み寄る。


「な、なんで近づいてくるの?」


「君を護衛するためだ」


「で、でも……ラヴといると危ないよ? 魔物に襲われちゃうかもだし……」


「それなら問題はない」


 僕は手にしていたスライムソードを長刀に変形させた。

 そのまま、ラヴリアに向けて振るう――。


「…………え」


 血飛沫が上がり、へたり込むラヴリア。

 その彼女の背後で――ぼとぼと、と。

 一度に両断された魔物たちが水路に沈んでいく。

 ちょうど今、ラヴリアを襲おうとしていた魔物たちだ。


「こう見えて、魔物を倒すのは少し得意なんだ」


「…………っ」


 自分が襲われていたことに、ようやく気づいたのか。

 今になってラヴリアの顔から血の気が引く。やっぱり、どこか楽観視していた部分があったのだろう。


「これで、君が今どれだけ危険な状況にいるか、わかったんじゃないかな」


「……う、うん」


「君は命を狙われてるんだ。今まではタイミングよく審問官の人たちに助けられてたみたいだけど、今後もそうなるとは限らない。だから、護衛が必要なんだ」


「…………」


「とにかく、僕のことは心配いらない。君のプライベートについても、できるだけ干渉しないようにする。だから……」


 ――君を守らせてほしい。

 そう続けようとしたところで。



「……ほぅ、見事だ。ノロア・レータ」



「……っ!」


 突然の拍手の音に、言葉が遮られる。

 ばっ、と振り向くと、人気ひとけのない路地の奥に、陰気な男が立っていた。

 フードの影に隠れた顔には、片眼鏡のレンズの光だけが見て取れる。

 手には1冊の本を開いて持ち、そのページ上には――仕掛け絵本のように浮かび上がる街のパノラマ模型のようなもの……。


『な、なんて、怪しさMAXなやつなの!?』


「うん……申し訳ないけど、それ僕も思った」

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