寄生宮にご招待
「――わぁ、広ーい♪ ラブリー♪」
寄生宮に入るなり、ラヴリアが興奮したように走りまわる。
「すごい豪邸! ラヴ、今日からここで暮らしてもいいの!?」
「まあ……そのほうが護衛するのに都合がいいしね。ここなら安全だから」
ラヴリアの護衛依頼を受けたあと、僕はラヴリアを寄生宮に招き入れていた。
ラヴリアは聖都で起きている呪災の最重要人物だ。聖都に魔物を招き寄せている原因の1つでありながら、“呪い持ち”
を見つけるための重要な手がかりでもある。
そして、審問官側としても“呪い持ち”の手がかりを手放したくなく、ラヴリアとしても聖都の外はより危険だという事情から、ラヴリアは神聖国が正式に保護することになり、彼女の護衛を僕がすることになったわけだ。
とはいえ、さすがに常に守っているのは無理がある。毎晩、寝ずの番をするのも難しいし。
というわけで、聖都の空き区画を借りて、寄生宮を出させてもらったのだ。
携帯式のマイホームともいえるこの寄生宮は、もともとはダンジョン。相手が人間でも魔物でも、絶対的なセキュリティを誇っている。
「……あいかわらず、すごい呪いの装備をぽんぽん出すね」
ミィモさんが呆れたような顔をする。
「いったい、いくつ呪いの装備を持ってるのかな?」
「10個以上は装備してますね」
「……装備枠の最高は7だと言われてるのに、さらっと限界突破してきたね。というか、よく生きてるね、それで」
「最近は、なるべく代償を選んで装備するようにしてますからね。本当はどんな代償でもウェルカムなんですが、やっぱり命は1つですから、そうもいかなくて……でも、せめて代償が少ない子だけでも装備してあげたいなって」
「なるほど…………変態なのか」
「はい?」
「なんでもないさ」
なんだか、いわれのない暴言を吐かれた気がするけど、きっと気のせいだろう。
「では、私は仕事があるから帰るが……ラヴリアくんのことは頼んだよ?」
「はい、お任せを」
ミィモさんがそそくさと出ていく。
審問官の長だけあり、やっぱり忙しいのだろう。
うん……やっかいごとを押しつけて逃げたとかじゃないはず。
と、ミィモさんと入れ違いで。
「……また、新しい女連れ込んでる」
家主(?)であるククが床からご登場だ。
神出鬼没の幽霊ガール。今日も寝起きなのか、パジャマの袖で目元をぐしぐしこすっている。
「の、ノーくん!」
いきなりラヴリアに肩をつかまれた。
「ノーくんって……僕のこと?」
「ノーくんはノーくんだよ! それより、このラブリーな子、なに!?」
「……っ」
さっそく、ククに食いつくラヴリア。
急につめ寄られたククが、珍しくぎょっとする。
「床から出てきたし、体も透けてるから、幽霊なんだよね? ラヴの目はごまかせない! といっても、ラヴは幽霊見るの始めてなんだけどね! それより、幽霊ちゃん、はじめましてのラブリーしよ! ほら、ラブリー♪ あー、違う違う、そのラブリーじゃなくて、こっちのラブリー! うん、そうそう、なかなか見込みのあるラブリーになったよ! これでラヴたちは友達! 死が2人を分かつときまでズッ友だよ! といっても、すでに片方は死んじゃってるわけだけども! てへ♪」
「…………すぅぅ」
「……クク。気持ちはわかるけど、いきなりフェードアウトしないで」
「……なんなの……この人、怖い」
ククがドン引きしている。
『幽霊(?)を初対面でビビらせるとはやるわね……』
「普通、脅かす側ですしね」
ジュジュとシルルが変なところで感心する。
「で、ノーくん、この子なにかな?」
「この子はククだ。この屋敷の主みたいなものかな」
「そうなんだね、よろしくククちゃん!」
「ん……」
「あ、今日からラヴもここに住むから、もう友達というか家族みたいなものだよね。そうだ、幽霊ってクッキー食べるかな? さっき屋台で買ってきたやつだけど……そうだ、ジュジュちゃんに全部食べられてたんだっ、きゃは♪ で、なんの話してたっけ? あ、自己紹介か! ラヴの名前は……と、自己紹介で思い出したんだけど、面接なんかでは最初の2秒でその人の評価が決まると言われててね、つまり自己紹介のコツは……」
「……で、クク。この子はラヴリアだ」
「……これ、よろしくしないとダメなやつ? 義務?」
「まあ、一応、しばらく一緒に暮らすわけだし……」
「……世知辛い」
ククが渋い顔をした。
「あ、そうだ、ククちゃん! これから、ちょっとうるさくしてもいいかな?」
「ま……まだ、これ以上うるさくなると言うの……?」
「あ、うるさくって言っても、嫌なうるささじゃないよ? ラヴは実は歯ぎしりがすごいのだぁ! とか、そういうのじゃなくてね? ただ、ほら、ラヴって音楽やってるでしょ? つまり、クリエイティブな騒音というか、うるささのアートみたいなもので、でもそういうの嫌がる人がいるのは確かだから、いい子のラヴはそういうところきちんと確認を取ってから演奏したいわけなんだけど、それでどうかな? うるさくしてもいいかな?」
「ん、我が家は防音完備……あと、たぶん、楽器演奏してたほうが静かになりそうだし……」
「ククちゃん、愛してるぅ! ラブリー♪」
「……っ」
抱きつこうとするラヴリア。回避するクク。
「決めた! ラヴ、一生ここに住む♪」
「…………やめて……やめて……」
ククが切実な目で助けを求めてくる。
でも、ごめん。僕には彼女を止められそうもない。
「ラヴちゃん、一生は無理ですよ。ラヴちゃんにも王女って身分がありますし、ノロア様も旅をしてる身なんですから……」
「じゃあ、ラヴ、ノーくんと結婚する♪」
「…………へぇ?」
シルルの声がかつてないほど冷たくなった。
なぜか笑顔が怖い。そして、空気が重い。
僕は空気を切り替えるために、ごほんと咳払いする。
「と、とりあえず、少し早いけど夕食にするか……」
*
聖都に入って初日はあっという間に過ぎ、すでに窓の外は黒幕がかかったように暗くなっていた。
「~~♪」
シルルが自室のベッドに腰かけながら、鼻歌交じりに髪をブラシで梳いていると――いきなり、ばんっと扉が開いた。
「シルちゃん、一緒に寝よー!」
「ひんっ!?」
ラヴリアだった。
シルルの返事を聞くこともなく部屋に飛び込むと、そのまま遠慮なくベッドへダイブ。
「ふっかふかー♪」
気持ちよさそうにシルルの枕に頬ずりをする。
「あの、ラヴちゃん、そこは私のベッドで……」
「あ、見て、トカゲいた!」
「ひぃん!?」
「冗談だよー! てゆーか、まだ苦手なんだ、トカゲ」
「だ、だって、ドラゴンっぽいですし……」
「きゃは♪ シルちゃん、やっぱラブリー♪」
「あ、ちょっと、急に抱きつかないでくださいよ」
「よいではないか、よいではないかー♪」
「うぅ……」
スキンシップが激しくて、少し戸惑う。
かと思えば、ラヴリアは急に大人しくなって。
「んー……なんか、こうやって話すの久しぶりだねぇ」
と、しみじみと話しだす。
「たしかに、そうですね。5年ぶりぐらいですか」
「5年かぁ。もうそんな経つんだ」
ちょうど聖王からサンプールの聖女に選ばれたのが、5年前。
それからは忙しくて、サンプールを離れることができなくなった。
でも、こうして会ってみると……ラヴリアの仕草がいちいち子供っぽいせいか、何年も会っていなかった気がしない。
「まさか、シルちゃんが聖都にいるとは思わなかったよ。サンプールに行ったら、ドラゴンにさらわれたって言われたし……」
「あー……」
「そういえば、ラヴ……ドラゴンの討伐隊にも参加したんだ。実際にドラゴンとも戦ったんだよ? 逃げられちゃったけどねー」
「……そ、そうなんですね」
さらっと言うが、もはや一国の姫の行動力ではない。お転婆にもほどがある。
「ほんと、無事でよかったよー。でも、なにがあったの?」
「……えっと」
少し、言葉に迷う。
「本当は……ドラゴンにさらわれたというのは嘘なんです」
「嘘って?」
「それは……」
自分が“呪い持ち”になったと言うべきだろうか。
でも、言ったら、きっと今の関係が壊れてしまう。
だから。
「……実は、ノロア様と駆け落ちしたんです」
「駆け落ち!? ってことは、ノーくんと結婚してるの?」
「はい。してます」
断言した。
「今は絶賛ハネムーン中です」
「そ、そんな……シルちゃんが大人の階段を……」
はわわわ、とラヴリアの顔が赤くなる。
「シルちゃんよりは先に結婚すると思ったんだけど……」
「私よりは、ってなんですか」
「だってシルちゃん、恋とかしそうじゃなかったし。理想が高すぎるというか……永遠に白馬の王子様を待ち続けるタイプかなって」
「う……」
「しかも、理想の相手を見つけたら、今度は執着して相手をドン引きさせそうだし」
「うぅ……」
「でも、ノーくんは、シルちゃんの理想をクリアしたんだねぇ。いいなぁ、白馬の王子様。妬けちゃうなぁ」
「ま、まあ……いいじゃないですか、そんな話は」
なんだか、むずがゆい。
「そういえば、シルちゃん……なんか変わったよね。それも、ノーくんと会ったからかな?」
「そ、そうですかね?」
「昔はあんなやんちゃだったのに……今じゃ、丸くなっちゃって」
「む、昔のことはいいじゃないですか。それにラヴちゃんだって、人のこと言えないですよ」
昔は、どちらかというと大人しい子だった。いつも人目を気にして、おどおどしていた。
音楽が好きなのは、昔と変わらないけど……。
「……ラヴは、なにも変わってないよ。変わったのは、ラヴ以外」
「え?」
「んー……」
ラヴリアがうとうとしだす。
今日はいろいろあったし、さすがに疲れてるんだろう。
「ねぇ、シルちゃん」
寝ぼけたような声で呟く。
「今、幸せ?」
「……はい」
「そっかぁ」
にへー、とうれしそうに笑う。
「……いつか……ラヴも、そうなれるのかな?」










