姫の護衛依頼
「――さて、ラヴリアくん。先ほどの件について、話を聞かせてもらおうか」
広場での魔物襲撃事件のあと。
僕たちはラヴリアをつれて、近くの喫茶店へと入っていた。
“先ほどの件”というのは、もちろん魔物たちが明らかにラヴリアを狙っていた件だ。いつ魔物たちがまた襲ってくるかわからないため、店の周囲では審問官たちが物々しく警戒にあたっている。
「現在、この聖都で魔物が大量発生しているのは、君も知っているだろう? そして、その魔物たちが、君を特別狙っているんだ。なにか、心当たりはないかね?」
「へぇ~、ジュジュちゃんってしゃべれるんだね! ラブリー♪」
『ふんっ。なに見てるのよ、このぶりっ子女。言っとくけど、そんな作られた可愛さでわたくしに勝とうだなんて1000年早いわよ? ま、わたくしぐらいになると可愛いは作れるんだけど』
「え、本当に! 可愛い作れちゃうの? さすがジュジュちゃん! 一目見たときから、なにか違うと思ったんだぁ! あ、やり方とかあったら教えてよ! ラヴのパンケーキ分けてあげるから」
『……し、仕方ないわね。わたくしの弟子1号にしてあげてもいいわよ』
「はい、師匠! これから一生ついていっちゃうよ!」
「……あの、君たち私の話を聞いてるかね?」
「あ、このパンケーキ、本当に美味しいですね。ちょっとハマりそうです」
「でしょー? シルちゃんなら気にいると思ったんだぁ! シルちゃんって、いつもろくなもの食べてなかったから……あ、こっちのも食べてみる?」
「いただきます!」
「ラムにも一口!」「……スイにもプリーズです」
「もちろん、双子ちゃんたちもウェルカムだよぉ! ほら、おいでおいで~♪ うーん、2人ともぷにぷにぃ! ラブリーだねぇ♪」
『こうなったら、みんなで食べ合いっこしましょ! いろんな味食べたいわ!』
「その手があった! 世界がラブリーになるアイディア♪」
「…………」
きゃぴきゃぴとはしゃぐ女子たち。
置いてけぼりになるミィモさん。
「……あ、あの……私の話を……聞いて……」
「ぼ、僕は聞いてますよ! ミィモさんの話、すごく楽しいっ!」
「……あ、ありがとう」
ミィモさんが、がっくりと肩を落とす。
しかし、ラヴリアは命が狙われた直後だというのに、あいかわらずマイペースだ。今この瞬間にも襲われるかもしれないというのに、胆力があるというか、切り替えが早いというか……いや、単に危機感を持っていないだけか。
「ん、ミィちゃん、どしたの? 落ち込んでるの? 元気出して、ラヴがなんでも話聞いてあげるから。ほら、ラヴお姉ちゃんになんでも言ってごらん?」
「……お気遣い感謝するよ。とりあえず、話を戻してもいいかね?」
「話? なんの話だっけ? ニワトリにお米をあげると卵の黄身が白くなるって話? ラブリーな話だし、ラヴ的にも一度見てみたいって思うんだけど……あ、卵といえばね、昔、シルちゃんが夏休みにヒヨコ飼いたいって泣きだしちゃって……」
「ちょっ……! そ、その話はいいじゃないですか!」
「シル姉、泣いたの?」「……泣いちゃったんですか?」
『なにそれウケる! さっそく街中に広めましょ!』
……いっこうに話が進まない。
「あの……君が魔物に襲われていた件について話をしたいのだが」
「あ、なんだ、その話?」
「ああ。なにか心当たりはないかね?」
「うーん、心当たりといっても……ちょっとよく襲われるなー、ぐらいにしか思ってなかったし。それに毎回、審問官の人がなんとかしてくれたから」
「そんな状態でライブなんてやってたんですか……」
シルルが呆れる。
たしかに、すごい度胸だ。
「あ、そういえば……最近、ストーカーさんがいるかなぁ」
「へぇ……ストーカー」
「最近、ずっと後ろをついて来てるの。ファンがラヴを見守ってくれてるのかなって思って、あんまり気にしてなかったけど……」
「それは気にしないとダメだと思いますが……」
ストーカーか……一応、重要な情報なのかな? ラヴリアの場合はただのストーカーって可能性のほうが高そうだけど。
「ひとまず……彼女からは、これ以上の情報は出そうにないね」
ミィモさんが、がっくりと肩を落とす。
「……せっかく、呪災の核心に近づけたと思ったのに、たいした情報は得られなかったな」
「まあ、一歩前進したのは確かですよ」
「たしかに、そうだね。これまでは敵の標的すらわからなかったから」
魔物を大量発生させている敵。
その敵が狙っているのは――ラヴリアだ。
「我々はずっと聖王陛下を狙っているとばかり思っていたが……しかし、考えてみれば、陛下は大聖城の最上階から出てこない。魔物がいくら結界を無視できるからって、水棲の魔物では聖王のもとまでたどり着くことはできないだろう……」
「でも、ラヴリアを狙う動機はなんでしょうか」
「考えられるとしたら3つかな。個人的な恨みか、権力争いがらみか、それとも……神聖国を攻める口実作りか」
「えーっ、1番目のはないよ! ラヴはみんなから愛されるラブリーアイドルだもん! たぶん3番目だよ!」
『そうかしら? 名探偵ジュジュさんは、女の嫉妬が原因だと推理するわ』
「じゃあ、僕は間を取って2番目で」
「綺麗に分かれましたね……それでは、公平にくじ引きで決めましょう!」
「賛成♪ さすがシルちゃん、あったまいい~!」
「いや……クイズではないのだが」
うん……ダメだ、わからない。
動機を考えれば犯人を絞れると思ったんだけど。呪いの装備が関わる場合はとくに、手段の面はどうとでもなるわけだし。
となると、やっぱり直接犯人を調べるのが手っ取り早いか。
僕は左目の羅針眼にこっそり手を当てる。
「“聖都内にいる、ラヴリアを殺そうとしている人物”を示せ」
こっそり羅針眼を使ってみる。
しかし……反応はなし。
これは、少し予想外だった。
犯人は聖都内にいないということか? でも、装備の効果にも有効範囲はあるだろうしな……。
「……ノロアくん、聞いているかね?」
「え?」
と、思考にふけっていたせいで、反応が遅れてしまった。
「な、なんの話でしたっけ?」
「……君まで話を聞いてくれなくなったら、さすがに切ないのだが」
「すいません……」
「まあいい、今後についての話だ。ラヴリアくんが、今起きている魔物の大量発生と関わりがあるのは間違いない。つまりは最重要人物というわけだ。だから――」
ミィモさんが僕を指差して、告げる。
「――君に、ラヴリアくんの護衛を任せたい」
これにて2章終了です!
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