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聖都のアイドル

 悲鳴を聞きつけ、広場に向かった僕たちが見たものは……。


「――みんなー、ラヴリアだよ♪ みんなは今日もラブリーかなぁ?」


「うおおおおおおっ、ラブリィィィィッ!」


 ステージの上で、拡声装備マイクを握っているフリフリ衣装の少女と。

 その少女に向けて、雄叫びを上げている人々だった。


「じゃあ、さっそく歌うよぉ! ラブリー、ラブリー、ドレッシング♪」


「うおおおおおおッ! はいッ! はいッ! はいッ! はいッ!」


 演奏が流れ出し、少女がノリノリで歌い出す。

 その歌に合わせて、大声で合いの手を入れる群衆。


「……なに、これ?」


 ちょっと理解が追いつかない。

 というか、あれ……魔物は?


「……だから、待てと言ったのに」


 遅れて、ミィモさんが追いついてくる。


「ミィモさん。これは……呪災ですか?」


「混乱するのはわかるが、落ち着きたまえ」


 彼女が溜息をついた。


「これはアイドルのコンサートだよ。ステージで歌っている彼女はラヴリア・フォルティ……この聖都のアイドルだ」


「あ、アイドル……?」


『呼んだかしら?』


「呼んでない」


 改めて、ステージのほうを見る。

 拡声装備マイク片手に、歌って踊っているピンク髪の少女。

 そして、少女に熱狂するファンたち。


「我らが姫は今日も麗しい……」「ラヴたそ~」「……今、俺と目が合った。絶対に俺のほう見てた」「おい、後ろのやつ歌うな! ラヴたんの生歌が聞こえなくなるだろうが!」


 これがアイドル……。

 アイドルというのは概念だけは知っていたけど、実物を見たのは初めてだ。自称アイドル業の人形を除いては。


「というか、止めたりしなくていいんですか? 今、魔物がいて危ないですし……」


「……止めてないとでも思ったのかね?」


「あ、はい。ですよね」


「まあ、止めてはいるんだよ。ただ、こちらもあまり強く出られなくてね。彼女はあれでも……一応、隣国のお姫様だから」


「あれが、姫……?」


 改めてラヴリアという少女を見てみると、頭にティアラをつけていた。

 うん……申し訳程度の、お姫様要素だ。


「それに止めたところでゲリラ活動をされるだけだし、それなら許可を出すことで管理下に置いたほうがいいと判断したんだよ。市民が集まる場所を限定できれば、守る側としても楽ではあるしね」


「はぁ」


「それに、最近は呪災のせいで市民も暗くなりかけているし、ちょうどいい息抜きにもなるんじゃないかな」


 いろいろな思惑があるらしい。

 まあ、僕たちには関係のないことか。


「とりあえず問題がないなら、僕たちは呪災の調査に戻りしょうか」


 そう言って、この場を離れようとしたところで。


「……ラヴちゃん?」


 ふと、シルルが呟いた。

 なぜか、呆然としたようにラヴリアのほうを見ている。


「ん……んんっ!?」


 ラヴリアのほうも、シルルのほうに視線を留めるなり。

 いきなり、頬をひっぱたかれたように目を見開く。


「え、シルちゃん……?」


 歌うのをやめ、じっとシルルのほうを見る。

 演奏がやみ、ざわめく観衆たち。その中で、2人だけは時間が止まったかのように視線を交わらせていた。


「……っ! 道開けて!」


 突然、ラヴリアがステージから飛び降りる。

 とっさに道を開けるファンたち。

 そのまま、ラヴリアはシルルのもとへと駆け寄り――。


「シルちゃん!」


「ラヴちゃ……んぶっ!?」


 ラヴリアのタックルが綺麗に決まった。

 のけぞるシルル。抱きつくラヴリア。

 感動の再開シーン……なのか、これ?


「やっぱりシルちゃんだぁ♪ 久しぶりぃ! 元気してた?」


「う、うん。もうちょっと弱めに抱きついてくれたら、今も元気でしたが……」


「もう心配してたんだよっ! ずっと聖都にも来ないし、サンプールに行ったら行方不明になったって言われるし!」


「うん、心配してくれてありがとね……」


「あ、ラヴのこと覚えてるよね? 忘れてないよね? 夏休みによく遊んでたラヴリアだよ。シルちゃんはあいかわらずラブリーだねぇ♪ 一目でラヴちゃんセンサーにビビッときた! あ、そういえば、なんで審問官のコスプレしてるの? そういう趣味だったっけ?」


「こすぷれ? いえ、これは……」


「あ、隣にいるの彼氏さん? もう、シルちゃんってばやるねぇ! シルちゃんよりは先に恋人作れると思ったんだけど、まいっか! それより、シルちゃんの彼氏さん、はじめましてのラブリーしよ♪」


「は、はじめましてのラブリー……?」


「いぇ~い、ラブリー♪」


「あ、はい」


 ぱちんっ、とハイタッチされる。

 それから、ラヴリアは肩に座っていたジュジュに目を留めると。


「あ~! なにその人形、ラブリー♪ さわっていい? さわっていいよね? もう、さわっちゃうからね!」


「え? あ、ああ……」


『……ちょっ!?』


「わぁっ、見た目よりずっしりしてるぅ♪ 超ラブリー♪」


 ジュジュがさらわれた。


「この人形さんに名前ってあるの? あるよね? 肩に乗せて連れ歩くぐらいの仲なんだから、ないわけがない! と、名探偵ラヴちゃんは推理しているわけだけども! あ、ラヴの予想ではチャッキーかな。だから、チャッキーって呼んでいい? 呼んでもいいよね?」


「……いや、ジュジュっていうんだけど」


「きゃは♪ 鼻水すする音みたーい! でも、そこがラブリーポイント♪ あ、見て! このジュジュちゃん、目潰しするとピクピクして可愛い! そーれ、目潰し目潰しぃ♪」


『……の、ノロア、助けて……』


「ごめん、無理そう」


 ちょっとマシンガントークとフリーダムすぎるノリについていけない。

 だんだん、わかってきたぞ……この子、ジュジュみたいなタイプだ。


「……あの男、はじめましてのラブリーしてもらってるぞ」「……委員会に無断でのラブリー行為は規則違反だ」「……幹部である俺たちでさえ、まだラブリーされたことないのに」


 そして気づけば、その場にいた観衆たちの視線が、僕たちに集まっていた。というか、なぜか怨嗟の目で見られてる。

 ラヴリアは気にした様子がないけど、僕には正直きつい。


「あ、そうだ! せっかくシルちゃんたちと会えたんだし、これから再会記念に喫茶店でも行こーよ! それがラブリーだよ! やっぱ今日のラヴちゃん冴えてるねぇ! 思い立ったら即行動! ばびゅん、と猪突猛進! でも、聖都で走るのは危険だから、ちゃんと歩いていくけどね! ラヴってばえらい!」


 息継ぎなしに一気にまくし立てて、シルルの腕をぐいっと引く。


「え、あの……コンサートのほうは?」


「いいのいいの! どうせ毎日やってるし!」


「これ、毎日やってるんですか!?」


「うん♪ ちょっと最近、喉が枯れ気味だし、体の節々が痛いけど、こういうピンチのときがチャンス? てゆーか、神様が与えてくれた試練? みたいなノリで、毎日ラブリーにやってるよ♪」


「あの、それは普通に……体を休ませたほうがいいってサインでは……?」


「じゃあ、さっそく喫茶店にレッツゴー♪ あ、ラヴ、最近できた美味しいお店知ってるんだぁ! そこはパンケーキにアイスが乗ってるんだけど知ってる? 知らないよね? シルちゃんお店ができたときには聖都来なくなってたし……あ、そういえば、喫茶店で思い出したんだけど、“カナリア”って昔の言葉で“犬”って意味なんだって! やだ、ラヴってば賢い! ほら、みんなも一緒に言ってみようよ! せーの!」


「「「――ラヴたん、賢い!」」」


「みんな、ありがとー♪」


「……あ、聞いてないですね」


 どなどなと引きずられていくシルル。

 ちなみに、さりげなくジュジュもさらわれたままだ。


「あの、その人形は返してもらっても……」


 ラヴリアのもとへ駆け寄る。

 このとき、ラヴリアのインパクトのせいで忘れていた。

 今がどういう状況なのかということを……。


「……っ! ノロアくん、気をつけろ!」


 ミィモさんが叫ぶ。それとほぼ同時に、ラヴリアの側の水路から飛沫が上がった。

 水路から現れたのは――シーサーペント。

 先ほど、審問官たちが討ち漏らしていた魔物だ。


「……え」


 シーサーペントに睨まれたラヴリアが、目を見開いたまま硬直する。シーサーペントはそんな彼女に狙いを定め――口をがばっと開いた。

 まずい、襲われる……!


「くっ……!」


 ミィモさんが慌ててラヴリアの援護に走る。

 速い――しかし、間に合わない。


「ラム!」「わかった!」


 腕輪スライムソードを剣に変形させている余裕もない。腕輪から直接、剣身を伸ばす。射出されるような勢いで伸びる剣が、ラヴリアに飛びかかっているシーサーペントの頭に貫通する。


「きゃっ!」


 シーサーペントが地面に落下し、のたうち回る。

 僕はとっさにラヴリアを抱き寄せ、スライムシールドで守った。

 すでに致命傷ではあったのか、シーサーペントの動きはすぐに止まる。


「大丈夫?」


「え……? う、うん……」


 呆然としたように目をぱちくりさせるラヴリア。

 なぜか、僕の顔をじろじろ見ている。


「…………あれ……あなたは……?」


「ん?」


「……い、いや、なんでもないよ、うん。助けてくれてありがと」


 状況についていけてないのか、少し態度がしおらしい。

 それにしても、間一髪だった。たまたま、ラヴリアの近くにいたのが幸運だった。

 しかし……事はこれだけでは終わってくれなかった。


「……な」


 水路から次々と魔物が現れる。

 シーサーペント1匹なんて、まだ序の口だった。見たことのない水棲の魔物たちが、うじゃうじゃと広場へ這い上がってくる。


「うわあああ!」「魔物だぁ!?」「なんだよ、この数!?」


 観衆たちが逃げ惑う。


「くっ……私たちは観衆を守る! ノロアくんはそこにいる魔物を頼む!」


「わかりました!」


 改めて魔物と対峙する。そこで、ふと違和感を覚えた。


「ひっ……! な、なんなの……?」


 全ての魔物たちの目が、ラヴリアに向けられていたのだ。

 人間ならば広場にいくらでもいるというのに、魔物たちはラヴリアのことしか見ていない。

 明らかに、ラヴリアだけを狙っていた。


「……っ!」


 僕のことなどお構いなしに、ラヴリアに飛びかかってくる魔物たち。

 とっさにスライムソードの剣身を伸ばし、魔物を一掃する。

 シーサーペント以外は、魔物のランクは低い。さらに水棲の魔物は地上では弱いこともあり、倒すのには手間はかからないが。


「な、なんなんだ…?」


 次々とワンパターンに襲ってくる魔物に、さすがに首をひねる。

 まるで、さまざまな魔物が1つの目的を持って動いているかのようだ。同じ種の魔物というならまだしも、これだけの種の魔物が協力するなんてありえない。


「……操られてるのか?」


『ま、今は考えてても仕方ないわ』


 ジュジュがどさくさにまぎれて、僕の肩に戻ってきた。

 ここが定位置とばかりに、満足げな顔だ。


『とにかく、今は魔物を倒しましょ』


「……そうだね」


 僕はスライムソードを構え直した。

 そこから魔物を殲滅するまでに、たいして時間はかからなかった。

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