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聖都の危機

「――死這イ冠(リゲイン・ヘリア)をもって、死者に命じる」


 死者の王の証――死這イ冠(リゲイン・ヘリア)

 僕はその王冠をかぶりながら、クラーケンの死体の上に飛び乗った。


「――戦え」


 その一言で、クラーケンは生気を取り戻したかのように、うねうねと蠢きだした。大木のような触手をくねらせて、審問官たちを襲いだす。


「ぐ、ぉ……!」


 セインさんがすかさず雷槍をクラーケンに突き立てるが、そんなことでは触手は止まらない。

 動いているとはいえ、あくまで死体だ。痛みも感じず、急所をついたところで動きを鈍らせることもない。


『ちょっと、食べ物は大切にしなさいよ!』


「まだ、これ食べるつもりだったんだ」


 ジュジュはやっぱり大物だ。


「にしても、さすがに死体だとパワーは落ちるね」


 死這イ冠(リゲイン・ヘリア)のテストもかねてクラーケンを操ってみたけど、船を襲ったときほどの力強さはない。

 魔物の死体を操るというのは、いい案だと思ったんだけどな。うまくいけば、いつでもどこでも最強の魔物軍団を呼び出すことができるわけだし。


 とはいえ、さすがに元Sランクの魔物だけあり、審問官たちを圧倒することぐらいはできていたが。

 すでに、ほとんどの審問官は触手に吹き飛ばされ、昏倒していた。


「やっぱり、審問官って魔物相手は専門外みたいですね」


「ずいぶんと余裕そうだな……この卑怯者め!」


「これが“呪い持ち”の戦い方ですよ」


「くそ……っ!」


『ポップコーン美味しいぃ! もぐもぐもぐもぐ!』


「くそぅ……くそぅ……!」


 セインさんが悪態をつきながら、雷槍をふるう。

 しかし、その槍は雷をまとっていない。ただ攻撃力が高いだけのデカブツ(可愛い)と化している。


「ちっ……! 最初に訓練場に水を張ったのは、雷槍を封じるためか……!」。


「あー、そうですね」


 円形闘技場のような形状が容器代わりとなり、この訓練場にはくるぶしが浸かる程度まで水が溜まっていた。

 もし、この場で雷を放てば、自分も味方も巻き添えになる。かといって、自滅覚悟でクラーケンに雷を浴びせたところで、その程度ではクラーケンは止まらない。

 一番やっかいそうな装備だったから、真っ先に封じさせてもらった。


「ただ、もう1つ、理由があるんですよ」


「……もう1つだと?」


「はい」


 悪戯げに笑ってみせる。



「――スライムを隠すためですよ」


 

 僕がそう言った瞬間――。


「ぇ……?」


 セインさんたちの体が、一斉にぐらりと傾いた。

 なにが起こったのかわからないという顔のまま白目を剥き、水の中に倒れ伏す。

 倒れた審問官たちの背後には――それぞれスライムの触手。

 形質自在のスライムソードだ。


 審問官たちがクラーケンに気を取られている間に、こっそり水中にスライムソードをセッティングさせてもらった。スライムは水と見た目が似ているため、目をこらさなければ気づけない。だからこそ、セインさんたちに悟られずに罠を張れたわけだ。

 ちなみに、手加減が難しいと言ったが、それはあくまで最初の状態。

 敵の数が減り、注意もそれているなら問題はない。

 とりあえず、審問官は全て昏倒させたし……。


「僕の勝ち、でいいですよね?」


 ミィモさんに確認を取ると、彼女はしばらく唖然としていたようだが。


「あ、ああ。そうだね」


 と、かくかく頷いた。


「いや、勝つだろうとは思っていたが……まさか、手加減された状態で傷1つもつけられないとはね」


「あ、ちなみに、対“呪い持ち”用の訓練だということで、いろいろな呪いの装備を使ってみましたが、参考になりましたかね?」


「そうだね、ご配慮感謝するよ。ただ一応、全力で戦ったということにしてほしい。たぶん、みんなの心が折れるからね」


「はぁ」


 とにかく、無事に終わってよかった。

 審問官たちとの親睦は深められただろうか。

 うん……たぶん、余計にヘイトを溜めただけな気もするな。


「お疲れ、スイ、ラム」


「にゅふふ」「……ふむぅ」


 人間の形に戻った双子たちを、頭を撫でてねぎらう。


『わたくしには頭なでなでないの? そういうの不平等って言うんだけど』


「いや、君……途中からポップコーン食べてただけじゃん」


 横でもしゃもしゃと、すごいうるさかった。


『無事に勝てたようでよかったです……』


 しばらくすると、シルルも帰ってきた。

 翼をはためかせながら、僕の側に着地する……と思ったら。


『はぅ!?』


 地面の水にすべって、すってーん、と転ぶ。

 こんなポンコツなドラゴンを見たのは、僕たちが史上初かもしれない。


「ふむ、ドラゴンにクラーケンか……君たちは、なにかと魔物と関わりがあるようだね」


 ふと、ミィモさんが鋭い目をする。


「もしかして、魔物を操るような呪いの装備を持っているのかね?」


『そうよ!』


「べつに、息をするように嘘つかなくてもいいんだよ?」


 死這イ冠(リゲイン・ヘリア)の命令を解除すると、クラーケンの死体はべたりとしなだれる。シルルのほうも口づけをして人間形態へと戻す。


「僕が操れるのは死体だけです。生きてる魔物はさすがに専門外ですかね」


「私もちょっとドラゴンになれるだけの、普通の人間ですので……」


「それだけでも、だいぶ異常だと思うが……まあ、それならいいんだ」


「……?」


「ちなみに、そのクラーケンはどこで?」


『さっき、この近くで釣ったわ。今夜の晩ご飯にするの』


「いや、釣ったわけじゃないけど……船に乗っているところを襲われたので、とりあえずゲットしました」


「そうか、ついにSランクの魔物まで出たのか……事態は思ったより切迫しているらしいね」


「事態? というと……まさか」


「そう、そのクラーケンもおそらくは……今起きている呪災の一部だ」


 ミィモさんが深刻な顔で話しだす。


「現在、聖都では魔物が大量発生している。それも、この辺りには生息しているはずのない魔物がね」


「魔物が……」


 なるほど、だから魔物を操れる呪いの装備を持っているのか聞いてきたのか。

 通常装備では説明のつかない現象――呪災。

 僕もその呪災の被疑者の1人だったらしい。


「魔物には聖都の結界は通用しない。今はなんとか審問官たちで対処できているが……君が看破したように彼らは対人戦が専門だ。どれだけ高ランク装備を持っていても、Sランクの魔物が1体でも出れば、先ほどのように手も足も出ない。このままでは、いつ聖都が沈んでもおかしくないだろうね……」


「な……」


 この何百年も栄えてきた美しい都市が――沈む。

 ……そうだ、呪災とはこういうものだ。

 たった1つの呪いの装備が、都市をあっさりと滅ぼしてしまう。

 そういった状況を、僕は何度も見てきた。


「だから、私からも頼む……」


 ミィモさんが神妙に頭を下げる。


「――君の力が必要だ。どうか、聖都を救うために協力してほしい」

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