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実践訓練(という名の殺し合い)

「よければ、君たちも訓練に混ざってくれないかね?」


 審問官たちへの顔見せも済み、さっそく呪災調査へ向かおうとしたところで、ミィモさんからいきなり提案された。


「僕たちが訓練に……? 邪魔になりませんか?」


「まさか。“呪い持ち”と訓練ができるなんて、またとない機会だよ」


「それは、たしかに」


 呪いの装備への対処は慣れが必要だ。呪災の非常識さに混乱していては、一方的にやられるばかりになってしまう。


「それに呪災への対応は、基本的にチームプレイになる。審問官とともに呪災解決にあたるのなら、できるだけみんなと仲良くしてほしい」


「はぁ……」


『チームプレイって、ノロアの一番苦手な分野じゃない。ノロアって協調性に欠けるし』


「君に言われるとイラッとするけど、その通りだね」


 チームプレイ。僕の一番苦手な言葉だ。

 そもそも、集団行動にいい思い出がないしな……冒険者としてパーティーに参加することは多かったけど、他のみんなが僕をからかうときに、かつてないほどの連携を……いや、その話はいいか。


「やつらが訓練に参加するんですか?」


 セインさんが眉をひそめながらやって来た。


「“呪い持ち”との実戦の機会だからね」


「なるほど」


 セインさんがしばらく考えてから。


「ミルナス長官。模擬戦の相手は、俺がやります」


 と、立候補した。


「俺の実力はミルナス長官に次ぎます。やつらの実力を測るうえで、ちょうどいいのではないかと」


「なるほど」


 たぶん、僕たちを叩きのめしたいだけだよな……。


「だが、模擬戦はやらないよ。もっといい方法があるからね」


「え……しかし、実戦のいい機会になると」


「だから、その言葉の通りだよ。これからやるのは“実戦”だ」


 ミィモさんが嗜虐的に笑う。


「ここにいる審問官全員で、この2人の“呪い持ち”と戦いたまえ。もちろん装備ありでね」


「えっ、全員とですか?」


「えっ、私も参加するんですか!?」


 いきなり無茶ぶりを……。

 というか、あれ? 僕たちが訓練に参加する目的って、仲良くなるためじゃなかったっけ……?


「……いいんですか? ここにいる者は皆、装備枠3以上かつBランク以上の装備をつけています。死人が出ますよ?」


「実戦なんだから、もちろん殺し合いだ」


「……!」


 審問官たち全員の顔に、緊張が走る。

 いや、こちらに殺す気はないけども。

 しかし、面倒なことになったな。今さら訓練に参加したくないとは言いにくいし……。


『やったわね、ノロア! やつらを合法的にぶちのめせるいい機会よ!』


「君のポジティブさは美徳だよね」


 とりあえず、適当に済ませるか……。

 審問官たちが、ぞろぞろと散開して隊列を組んでいく。

 穴のない包囲陣形。けっして逃さないという意思表示だろう。


「まさか、いきなりお前たちを殺すことができるとはな」


 セインさんが身の丈以上もある突撃槍ランスを構える。

 青白い雷をまとった、機械的なフォルムの槍。

 この槍は、もしかして……。


「聞いて驚け、この槍はな……」


「あ、雷槍ランスボルトですよね。ランクはAで、攻撃力は410。属性武器としては珍しい雷属性。装備すると円錐状の槍身が放電することが最大の特徴で、攻撃を防いだ相手に追加ダメージや麻痺状態を与える効果があります。これは一撃必殺を主体とする突撃槍ランスの弱点をカバーする画期的な発想でして、実際に古代装備文明でもっとも栄えたとされるペネケスス朝においては……」


「……も、もういい。というか……なんで装備者よりくわしいんだよ」


「そんな、くわしくなんて。普通ですよ」


 ちなみに、雷槍ランスボルトは、個人的に抱き枕にしたい装備トップ10にランクインしている。太さや長さがちょうどいいし、ひんやりしてそうなので寝苦しい夜のお供に最適だろう。


「まあいい。お前たちをこの雷槍の錆にしてくれる」


 うわぁ、る気満々だ……。

 他の審問官たちも殺気立っている。殺されるぐらいなら殺してやるという感じだ。

 一方、こちらの仲間はというと。


『ふんっ、ふんっ、ふんっ!』


「うぅ……なんで私まで……」


 なぜか、やる気満々でシャドーボクシングをしているジュジュと。

 びくびくしながら、ぴたりと僕の背後にくっつくシルル。

 なんだろう、不安しかない。


「お互い、準備はできたかな?」


「ミルナス長官、こちらはいつでもいけますよ」


「僕たちも、一応」


「では、さっそく始めようか」


 ミィモさんが鐘を鳴らす。試合開始の合図だ。

 審問官たちは思ったよりも慎重に、こちらの出方をうかがってくる。

 たしかに、審問官は“呪い持ち”と戦う前に、必ず調査をするからな。情報がない敵と戦うことに慣れていないのかもしれない。

 しばらく膠着状態が続く中、真っ先に動いたのは――予想外にも、シルルだった。


「ノロア様、あとは任せます!」


 素早く祈りの姿勢を取り、白竜へと変身するシルル。

 もっとも恐れる存在に変身することができる呪いの装備――獣ト薔薇。

 その装備者であるシルルは、いつでもどこでも白竜に変身することができる。


「ドラゴンだと……!?」


 突如現れたドラゴンに、審問官たちがどよめく。

 その隙にシルルは一気に羽ばたき――飛び上がった。


「気をつけろ! 空から攻撃してくるつもりだ!」


 セインさんが叫ぶ。

 でも……たぶん、あれは逃げただけだ。シルルはまともに戦ったことないし。

 仮にもドラゴンだから潜在能力は高いはずなんだけど……その辺りはシルルのポンコツさというか、壊滅的な運動センスのなさで相殺されているらしい。


『……あいつ、ドラゴンのくせにチキンすぎない?』


「まあ、僕としては1人で戦ったほうが楽だからいいけど」


 シルルのほうも、それを見越して離脱してくれたんだろう。

 一番の理由は、ただ怖いからだろうけど。


「くそっ、まずは地上にいる“呪い持ち”から片付けるぞ!」


 セインさんの指示とともに、審問官たちが一斉に迫ってきた。1対多なら有利だと判断したのか、速攻をかけることにしたらしい。


「スイ、自動防御モード」


「……はい」


 腕輪に変形させていたスライムシールドから、水色の枝が伸びる。

 そして――ぱっ、と。

 僕の周囲に、無数の盾が展開された。

 宙を飛び交う盾たちが、審問官の攻撃を全て防いでいく。


「な……!」


 一番槍のセインさんが、驚いたように飛び退く。

 まさか、Aランクの槍がこうもあっさり防がれるとは思わなかったんだろう。それも追加ダメージを与えるはずの雷ごとだ。

 審問官たちの攻撃が、僕に届くことはない。

 これで戦意喪失してくれればよかったけど、さすがにそう都合よくはいかないらしい。


「かくなる上は、防御が間に合わない速度で――!」


 審問官たちの攻撃がいっそう苛烈になってくる。


「うーん、やっかいな敵だな……」


『そう?』


「うん、手加減が難しそうだ」


 審問官たちは練度が高く、数も多い。

 正直、手加減する余裕はないだろう。かといって僕の武器の攻撃力では、かなり繊細な力加減をしないと、うっかり殺してしまうだろうし……。


「今回は、いつもとは違う装備を使うか」


「えー、ラムの出番ないの?」


「あ、あとで出番あるから……ね?」


 腕輪ラムをなだめつつ、僕は思索を巡らせる。

 今回は、僕の主戦力となる呪いの装備が使えない。

 ただ……ちょうど()()があったか。


「ミミちゃん、今から言うものを出してくれるかな?」


「ぐぉぇ!」


 僕が指示を出すと、暴食鞄ミミちゃんは元気よくお返事して。

 どばばばっ――! と、口から勢いよく水を噴射した。


「うおおおお!?」


 水というより、もはや波だ。小さな鞄が出せる水量ではない。審問官たちは意表をつかれたのか、もろに波を浴びて吹き飛ばされる。

 その隙に、僕はさらに暴食鞄にしまっていたものを取り出す。

 どしゃっ、と大きな水飛沫を上げて、鞄から吐き出されたのは――。


「なっ……!」


 ――クラーケンだ。


 海に生息する、Sランクの魔物。

 いきなり現れた巨大な魔物に、審問官たちが絶句する

 といっても、これはあくまで道中に狩ったクラーケンの死体だ。体は真っ白に染まり、触手は力なくしなだれている。だが……死んでいるほうが都合がいいこともある。

 こういうときのために、あの呪いの装備があるのだから。



「――死這イ冠(リゲイン・ヘリア)をもって、死者に命じる」



 死者の王の証――死這イ冠(リゲイン・ヘリア)

 悪魔の頭蓋骨を思わせる、死者を支配する王冠。

 僕はその王冠をかぶりながら、クラーケンの死体の上に飛び乗った。



「――戦え」



死這イ冠は墓庭編の中で活躍シーンを入れる予定だったんですが、気づけばまともに使ったのは今回が初に……。

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