連行されてみた
……聖都で世界平和について祈っていたら、呪装審問官に包囲されました。
まあ、本来ならば抵抗するべきだったんだろうけど、あまりにも状況がわからなすぎる。
というわけで、大人しく連行されることにした。
どうやら、聖王が呼んでいるというのは嘘ではないのか、聖王の居城である大聖城へと連れていかれる。
ちなみに、シルルは部外者だと思われたのか難を逃れていた。
「あの、それで……どうして、僕なんかが聖王に呼ばれてるんですか?」
尋ねてみると、金髪の青年審問官が不機嫌そうに振り返った。
「さあな。陛下の崇高なるお考えは、我々には推しはかることすらできんし、貴様なんぞにそれを知らせる必要もない。貴様はただ陛下の命に従えばいいのだ」
「はぁ」
「不満か? だが、そもそも貴様みたいな“呪い持ち”が、陛下に謁見を許されるなどありえないこと……そのことに感謝をすることは許可するが、反発するなどもっての……」
『あ、ノロア見て! あそこに野生のシーフードが泳いでるわ! さっそくゲットしましょ!』
「あ、うん。あとでね」
ジュジュがいきなり叫びだしたことで、審問官たちがぎょっとする。
僕もぎょっとする。
すでに僕が“呪い持ち”だとバレたためか、ジュジュも切り替えたらしい。というより、外に出る口実ができたとしか考えてないだろうけど。
『あとで、っていつよ? 何時何分何秒、この星が何度回ったとき?」
「いや、知らないけど」
「お、おい、人形。今は俺がしゃべって……」
『うるさいわね、今はわたくしのターンなの! そんなことも、わからないわけ? だから、あんたは2年以内にハゲるのよ』
「えっ……俺、ハゲるのか……?」
『というか、ノロアはなんで大人しく連行されてるのよ? 趣味なの? 楽しいの?』
「いや、楽しくはないけど……なんか、敵意もなさそうだしね」
声をひそめて言う。
審問官たちは僕を警戒しているようだが、攻撃する素振りは見せない。そもそも、もし敵対する意思があるのなら、話しかける前に不意打ちしてきていただろう。
下手に敵対するより、まずはどういう事情があるのか知りたいところだった。
「……すまないね、こんな歓迎になってしまって」
「え?」
と、苦笑しながら話しかけてきたのは、小さな審問官だった。
だぼだぼの白制服をまとった幼い女の子だ。
紫髪のツインテールに、口にくわえた棒付きキャンディー……その容姿にはなぜか見覚えがあるんだけど、どこで見たんだったか。
「ああ、自己紹介がまだだったね。はじめまして、ではないのだが」
「あっ、もしかして……」
『レイヴンヤードの祭りにいた迷子のガキね!』
ガキって。
「……迷子でもガキでもない。私は大人だ」
女の子が不機嫌そうに、くわえていたキャンディーをがじがじする。普通に子供っぽい仕草だった。
「私はミィモ・ミルナスだ。こう見えて、審問官の長を務めている」
「お、長……?」
「おい、“こんな子供が? まっさか~、ウケる~。ぷーくすくす”……という顔はやめたまえ」
「いや、してませんけど」
『なんで、そんな正確にわかるの!? エスパー!?』
「あ、君のほうか」
なんて顔してくれてるんだ。
一応、相手は権力者だぞ。ちゃんと媚びへつらわないと。
「それより、君についてだ。いろいろと予定が狂って、このようなユニークな歓迎になってしまってしまったのだが……本来は、国賓待遇で迎える予定だったんだよ」
「こ、国賓?」
「招待状は受け取っただろう?」
「招待状……もしかして、あの謎の怪文書のことですか?」
エムド伯邸にいたときに、いきなり送りつけられた手紙。
それに導かれて、ここまで来ることになったわけだが。
「その手紙を出した“ドールマスター”というのが、聖王陛下その人だよ」
「え……」
「陛下はゲームが好きでね。人に試練を課すことが趣味なんだ。招待状が怪文書のように見えたのなら、おそらく、それも陛下の遊びのいっかんだろうさ」
ミィモさんが苦笑いする。
「ま、それでも一応、君には案内人をつける予定だったんだがね。君が故郷から出たあとすぐに……ただ、うまく会うことができなかったらしい」
「案内人……」
『あ、森の中でクマさんに会ったわね! 言われてみれば、案内が得意そうな顔してたかも!』
「あれは、ただの一般通過クマさんだと思うよ」
一応、イービルベアというAランクの魔物だったが。
彼が案内してくれるとしても、天国か地獄のどちらかだろう。
「それから、君がレイヴンヤードにいるときは、私自身が迎えにいったんだが……ごたごたしている間に、気づいたら君がいなくなっていてね」
「……あー」
そういえば、火葬十字騒ぎのあと、審問官に捕まらないように急いで街から出たんだった。
「まさか、自力で許可証を手に入れて、聖都の中までたどり着くとはね。ことごとく予想外だったよ。そのうえ指名手配までされてくれていたものだから、こうして警戒対象になってしまったんだ」
「もしかして、僕……いろいろ余計なことしてました?」
「ま、たくさんの人が助かったわけだし、結果オーライではないかな」
たしかに、僕が立ち寄らなければ、レイヴンヤードは滅んでいただろう。
「なんにせよ、聖王陛下は君のことを歓迎している。そう心配することはないさ」
「……それならいいですが」
『歓迎というからには、それなりのごちそうを用意してるのよね? タコ料理がなかったらグレるわよ!』
「君はいつも元気だね」
まだ引っかかりはあるけど、聖王こそが僕の探し人……か。
となると、会わないわけにはいかないな。
「と、そんなことを話しているうちに、大聖城に到着だよ」
気づけば、大聖城の門まで来ていた。
とくに城壁などはなく、大聖城の全貌を見ることができる。
遠くで見たときも圧巻だったが、近くで見ると、さらに迫力がすごい。見上げていると首が痛くなりそうな大きさだ。そして、近くで見ても汚れ一つ見つからない。
幻でも見ているかのように壮麗な城だった。
「じゃあ、さっそく入ろうではないか」
ミィモさんが先導するように門をくぐり抜ける。
僕もそれに続こうとして。
「ぶふっ!?」
思いっきり障壁に激突した。
「あ……すまない。権限証をわたすのを忘れていた」
「…………」
「いや、本当にうっかりだったんだ。だから、そんな叩かれた子犬みたいな目で見ないでくれたまえ」
とりあえず、ミィモさんからカードをわたされた。
聖都の入市許可証と同じようなものだ。
「でも、こういう権限証って、装備しなくても機能するんですか?」
「それなら大丈夫だ。陛下が君用に作ったものだからね」
「はぁ……?」
何気なく受け取ると――。
「……っ!?」
――ばちっ、と全身に電流が走った。
『ノロア!?』
不意打ちだったせいで、思わず体が飛び跳ねる。
これは――強制装備か!?
・聖都レベルS権限証【呪】
……びっくりした? でも、危険なものじゃないのよ? 聖都における全ての区画に立ち入ることができる権限を与えるわ?
ランク:S
種別:アクセサリー
効果:権限レベルS付与
代償:聖王に対して、危害を加えることができなくなる。
「これは……」
いったいなんだ、これは?
これまでの呪いの装備と雰囲気が違いすぎる。
「……オリジナルの呪いの装備?」
そうとしか思えない。
でも、そんなものが存在するのか?
呪いの装備の製法は、すでにロストテクノロジーになっているはず。そもそも、呪いの装備を忌み嫌っているはずの聖王が、なんで呪いの装備を作ったんだ……?
わけがわからないことが多すぎるが……。
「――じゃあ、今度こそ行こうか。陛下に会いに」
とりあえず、聖王本人に問いただすとしよう。