平和終了のお知らせ
聖都に入ってから、しばらく歩いたあと。
白い街並みを抜けて、見晴らしのいい広場までやって来た。
「うわ……」
この広場からは、聖都の中心に立っている巨大な城を一望することができた。
――大聖城。
大聖堂と城が混ざったような純白の城だ。
「大聖城は高さが200メートル以上あり、世界一高い城と言われてるんですよ」
すかさず、シルルの解説が入る。
「大聖城はこの聖都のランドマークであるとともに、聖王の居城としても有名ですね。なぜ立っていられるのかは、聖都がなぜ浮かんでいるのかと同じく、聖都七不思議と言われてまして……」
「あ、うん」
なんだか、シルルが観光ガイドみたいになってきた。
普段ポンコツさが目立つ分、ここぞとばかりに役に立とうとしてくれてるんだろう。
『それより、ノロア。あの噴水のとこにお金落ちてるわよ? 早く拾いましょ?』
「うん、拾わないよ?」
「あるじ、見て! いっぱいコイン拾った!」「……ボーナスステージです」
「だから、マナーの悪い観光客か、君たちは」
コインを元の場所に戻す。
「いい? このコインは願掛けのためのものであってだね」
『……? 知ってるわよ?』
「ジョーシキだよね?」「……スイは他人のお金で、ご飯食べたいです」
「うん、余計にタチが悪いね」
というか、あれ……おかしいな。普通に観光してないか、僕たち?
と、少し自己嫌悪していると。
「あの、もし?」
「はい?」
ふと、道行くおばさまから声をかけられた。
どうやら、聖都の住民らしい。
都市に同化するかのような白いローブをまとっており、権限レベルを記したバッジをつけている。
「あなたたち、今日が初聖都?」
初聖都って。
「まあ、そうですね」
「あらまあ、やっぱりぃ? ちょうどいいタイミングで来たわねぇ!」
「ちょうどいい?」
「そうよぉ」
おばさまが広場の一角を指差す。
そこにいるのは、なにやらひざまずいて祈っている一団。
「今日は、数年ぶりに聖王陛下がお顔出しされてるのよぉ。ほら、大聖城の最上階のバルコニーから」
「へぇ、最上階から」
見上げてみる。
うん……まったく見えない。
「あの、よく見えませんが」
「聖王陛下は見るものじゃないわ! 感じるものなのよ!」
「なるほど」
「そうよ、あなたも聖王陛下を崇めるべきなのよ! 今この場所にいるのは、きっと陛下の思し召しなのだから!」
ずいっと顔を寄せてくるおばさま。
気づけば、さっきまで祈っていたはずの一団も、じぃっとこちらに視線を向けてくる。
「兄ちゃん、陛下を崇めたてまつるの初めて?」「大丈夫、怖いのは最初だけさ」「すぐに宝くじとか当たるようになるぜ!」
「あ、はい」
明らかにヤバい集団だった。
聖王へのリスペクトが強すぎて怖い。なんか最近、グールもどきの群れに遭遇したけど、そのときよりも怖い。完全にヤバい宗教への勧誘だ、これ。
「し、シルル」
聖都に慣れているシルルに助けを求めるが。
「さあ、ノロア様! 一緒に拝みましょう、さあ! 聖王陛下には縁結びのご利益とかあるそうですよ! さあ!」
「…………」
ダメだ、完全にあちら側の人間だ。
そういえば、シルルは元聖女……普通に信心深いんだった。
『……宝くじ当たりますように』
「あるじに、いっぱいなでなでしてもらえますように」「……主様が幼女趣味に覚醒しますように」
そして、気づけば味方がいなくなっていた。
「は、はは……じゃあ1回だけ……」
結局、同調圧力に負けた。
まあ、これも思い出作りだと思おう。
ひざまずいて、それっぽく聖王へお祈りする。
「……世界が平和になりますように」
あと、装備な彼女ができますように。
個人的には、アダマンアーマーみたいなどっしりとした装備がタイプです。ランクはもちろんSSSで、まだ誰にも装備されていなければ、なおグッド。いかにも戦場慣れしてますよみたいな歴戦の雰囲気を出しながら、実は戦いとか不慣れで、ちょっとした攻撃で傷ついちゃうような繊細な感じがギャップ萌えというか……ね? その辺りのリクエストを踏まえていただけるとありがたいなー、と思います。
「よし、こんなものか」
うん、やっぱ平和が一番だよね。信じていれば、きっと祈りは通じる。
そう確信しながら、立ち上がると。
「――ノロア・レータだな」
気づけば、なぜか白い軍服のようなものをまとった集団に包囲されていた。
「へ?」
色は違っていたが、その制服には見覚えがあった。
“呪い持ち”を問答無用で殺す治安組織――呪装審問官の制服だ。
呆けている僕に、審問官たちは一斉に武器を突きつけてくる。
「聖王陛下がお呼びだ。同行してもらおうか」
……はい、いきなり平和終了のお知らせです。