祭りの始まり
マンガUP!様にてコミカライズ版が連載中です!
そちらもよろしくお願いします!
……といっても、コミカライズ版から流れてきた方のほうが多いんですかね、今……?
――慰霊祭当日。
普段は気怠げなレイヴンヤードの街も、この日ばかりは活力にあふれているようだった。
街には花びらや紙吹雪が舞い、いつもより華やかな装いを見せている。
市民たちは仮装して、飲めや歌えやの大騒ぎ。
歌に、踊りに、大市に、パレード……。
この街一番の祭りというだけあって、やっぱすごい活気だな。
前夜祭もすごいと思ったけど、それを余裕で上回ってきた。
『ついに、祭りの日が来たわ!』
「どんどん!」「……ぱふぱふ」
そして、ここにもテンションの高い一団が。
ジュジュはあいかわらず腰鞄の中だけど、祭りのときは声も目立たないし、騒ぐことぐらいはOKにしてあげた。
『目指すは、屋台制覇よ!』
「せいはー!」「……制覇します」
『今日はわたくしのおごりよ! ぞんぶんに感謝するがいいわ!』
「おごるって、どうせ僕がお金出すんでしょ」
『ちっちっち、甘いわね』
「え?」
『今日のわたくしはプチリッチなの! 昨日、双子とギャンブルして巻き上げたから!』
「没収」
『あっ、ちょっと! なにするのよ! 返しなさいよ!』
じたばたするジュジュを腰鞄に押し込め、スイとラムにお金をわたす。
祭りの日ということもあって、少し色をつけて。
「お小遣い!?」「……臨時ボーナスです」
『ひどいわ! ノロアのバカ! この外道!』
「……わかったよ」
ジュジュが泣きそうになってきたので、こちらにもお小遣いをあげる。あまり甘やかしたくないけど、今日だけは特別サービスということで。
「でも、本当にすごいですね! これが、お祭り……!」
シルルも目を輝かせる。よっぽどうれしいのか、ぴょんぴょんと全身で喜びを表現していた。
「私、お祭りを回るのって初めてなんです!」
「え、サンプールって祭りとか多いよね」
シルルの故郷は、宗教都市サンプール。
宗教関連のイベントには事欠かないし、けっこう盛大にやっていたはず。
シルルは、「あー……」と暗い声を出して。
「いつも主催者側でしたので、お祭り=お仕事という感じでした。子供のときも聖歌隊でひたすら歌ってた思い出しか……」
『ぷっ、灰色の青春乙』
「シル姉の青春って灰色なの?」「……リア充かと思いました」
「……あぁぁぁぁあぁぁ」
「人のトラウマスイッチは押さないであげて」
まあ、シルルも悩み多き年頃のようだ。
「うぅ……エムド伯領にいるときも、夏至祭楽しみにしてたのに自粛になってしまいましたし」
「ああ、暴食鞄が暴走したしね……」
「それで今回! ようやく、お祭りを回れるんです! なんとしてでも楽しまなければ……!」
「そ、そこまで力まなくても」
シルルの目の輝きが、キラキラからギラギラになっていく。
『ていうか、ノロアも祭りとか出るタイプじゃないわよね』
「僕? まあ、祭りの日は部屋に閉じこもってたかな」
人混みとか嫌いだし、騒がしいのも好きじゃない。
「そもそも祭りって、知り合いとか友達とかいないと楽しくないよね。ぼっちが祭りに出て、なにを楽しめと? 孤独なグルメツアーとか?」
『……なんか、聞いてごめん』
「謝られると、余計に惨めになるんだけど」
よく考えたら、僕もシルルのこと言えないな……まともに祭りを回るのは今回が初めてかも。
『まあいいわ! とっとと回りましょ!』
「そうだね」
『むぎゅ』
さりげなく腰鞄から出ようとしたジュジュの頭を抑えながら、僕は歩きだす。
通りには、大勢の人が所狭しと行き交っていた。
いつもより装いを凝らした人々に、外からやってきたらしい人々。時期的に収穫祭とも重なるのか、農民たちの姿も多い。この街に収容できるのか疑問になるような数の人が、往来を闊歩している。
……焼菓子と、化粧と、汗の匂い。
祭りの賑やかさは、いつも妙な疎外感を与えてくるのだが。
今日は、どこか違った。
僕もそれなりに浮かれているのかもしれない。
しかし、心配事がないわけでもない。
「……あ」
ふと、と頭上を見ると。
今日もひらひらと紅い蝶が舞っていた。
頭上から、人々を俯瞰するように……。
「……蝶か」
血蝶の使い手――蟲使いについては、今のところ正体がつかめていない。
昨晩、羅針眼を使って探してはみたんだけど、相手がこちらの動きを察知したように、ひらりひらりと逃げてしまうのだ。ただでなくても人が多くなっている祭りの最中ということもあり、相手のいる方角だけわかっても仕方ない。捜索はあきらめざるをえなかった。
「今日くらいは……なにもしてこなければ、いいんだけど」
いまだに蟲使いのほうを指している左目の針。
それを見ながら、溜息をつく。
「どうかしましたか?」
「いや……」
『ちょっと、いきなりテンション低くない? うぇーい、の一つも言ったらどうなの?』
「それは言わないけど」
僕は深呼吸をし、胸の中にあるもやもやを換気する。
祭りだというのに、ずっと暗い顔をしているわけにもいかない。
今日は、慰霊祭を楽しもう。
*
それから、僕たちは屋台巡りを始めた。
レイヴンヤードは交易ルートが豊富なため、あちらこちらで異国情緒あふれる珍味や珍品を見ることができる。ぶらぶらと歩いて屋台をのぞくだけでも、充分に楽しむことができた。
『ポップコーンおいしい! ごくごくごくごく!』
「スイ、そっちの分けてー」「……拒否します」
「……っ……っ」
みんな食料を両手いっぱいに抱えながら、満足そうに頬を膨らめていた。
シルルだけは無言で、もきゅもきゅと食べ物を頬張っているが。
今まで薄味の教会食ばかり食べてきた反動か、シルルはだいぶグルメになっていた。刺激を求めているのか、新たな味覚の開拓に余念がないといったご様子。
まあでも……だんだんフードファイターみたいになってきたな。大丈夫だろうか。
「あるじー、あっちにお菓子ある!」「……実に興味深いです」
「ああ、お小遣いあげるから買ってきな」
「んー!」「……了解しました」
スイとラムが手をつないで、ぱたぱたと屋台のほうへ走っていく。
『ノロアー、あっちにお菓子ある!』
「そう、よかったね」
『……なんか、扱い違くない? もしかして、わたくし差別されてる?』
「うん」
だって、日頃の行いが悪すぎるし。
と、そこで、ふいに背中をつつかれた。
双子がもう戻ってきたのかと思って、振り返ると。
「……き、奇遇だね」
そこには、リッカ先輩がいた。
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