孤児院
また切りが悪かったので短めですm(_ _)m
リッカ先輩の家は、孤児院だった。
食料を分けるとは言ったものの、予想外の子供の数にたじろぐ。
ざっと、数十人はいるだろう。
「俺の肉!」
「ちょっと、男子! 横入りしないでよ!」
「ち、ちゃんと列作って……」
痩せた子供たちが、鍋の前に群がる。
餓狼の群れのように目をギラギラさせながら、我先にと食料を得ようとする子供たち。
食料の数は問題なかったが、これだけの数の子供に食料を配るのが大変だった。
「こんなうまいの初めて!」
「カレシ、ありがと!」
「ど、どうも……」
僕の料理にむしゃぶりつく子供たち。
味わっているのかわからないが、美味しいと言ってもらえてなによりだ。
しかし、食事を配り終えた後も、子供たちが喧嘩を始めて大変だった。
リッカ先輩が必死に仲裁に入ったりしてるが、それでも収まる気配がない。
暴れる子供、笑いだす子供、泣きだす子供……孤児院の中は、カオスに支配されていた。
「ほーらほーら」
僕もジュジュをぶらんぶらんさせて、泣いている子供をあやす。
「変な人形! きゃっきゃっ!」
瞬殺で泣き止んだ。
「すごいぞ、ジュジュ」
『なんか心外なんですけど……というか、わたくしの分の料理は?』
「ない」
『あんた鬼ね』
ジュジュが萎えたように脱力した。
「ノア、悪いね……子供たちの面倒まで見てもらって」
と、リッカ先輩が頭を下げてきた。
「それはかまいませんが……ずいぶん人気者ですね」
「ま、まあ」
リッカ先輩の周りには、子供たちがたくさんくっついている。すごい懐かれようだ。
リッカ先輩も慣れた調子で、幼い子たちの世話をしていた。
「すごいですね。リッカ先輩は、毎日こんなことをしてるんですか?」
「いや……べつに、すごくないし」
なんだか歯切れが悪い。
同僚にプライベートを覗き見られて、気まずさを感じているんだろうか。
「本当は、もっといい孤児院にしたいんだけど……あたしだけじゃ、力不足で」
「そんな謙遜することないですよ」
だって、こんな明るい孤児院、他にはないのだから。
僕も小さい頃は孤児院で過ごしたけど、みんな暗い顔をしていた。
親に捨てられ、今日生きられるかもわからない。昨日まで遊んでいた友達が、翌朝には冷たくなっていることもある。仕事も汚れ仕事しか選べず、将来も真っ暗。そんな絶望的な世界。
希望なんて持てるわけもない。それなのに、この孤児院では笑顔が多い。
「……僕、初めて先輩を尊敬しました」
「今までしてなかったの!?」
そりゃ、尊敬する要素がなかったし。
「いい孤児院ですね」
「そう、かな……」
「はい」
痩せている子供が多いといっても、笑顔が多くて平和な光景だ。
未来にも希望を持っているように思われる。
なぜだか、懐かしい気分になる。
――一緒に遊ぼ、×××ちゃん!
――うぅ……返してよ、僕の装備……。
――もう! ×××ちゃんをいじめちゃダメったら!
「ノア?」
「…………」
「おい、ノア!」
「え?」
我に返ると、リッカ先輩が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「どうかしたの? ぼぉっとして」
「いえ、ちょっと白昼夢を」
「いきなり白昼夢……? 珍しいこともあるんだね……」
「僕もびっくりです」
今まで、脳裏に響いてきていた謎の少女の声。
その少女の姿が、少しだけ見えた気がした。
でも、どんな姿だったか思い出せない。
……忘れたくはない。忘れてはいけない。
そんな焦りだけを残して、夢は記憶の彼方へと消えてしまった。
「やっぱ、疲れてるんじゃない? 今日は仕事も大変だったし」
「そうかもしれません」
そろそろ帰って休むか。あまり遅くなると、シルルにも心配をかけてしまう。
「じゃあ、僕は帰りますよ」
「あ、うん」
「……?」
リッカ先輩がなぜか、ほっとしたような顔をしたけど……まあいいか。
僕は帰り支度を済ませて、玄関へ向かった。
そして、扉を開ける。
「――いい夜だ」
一瞬、扉のすぐ先に、黒い壁があるかと思った。
しかし、それはすぐに違うとわかった。
見上げんばかりの壮年の男が立っていた。
死臭を漂わせた不吉な男だ。
喪服のような黒い僧衣に身を包み、首から木の十字架を吊るしている。
彼は白手袋に包まれた手で、ちりぃん……と、手鐘を揺らす。
「……そうは思わないか、君も?」