グールの群れ
切りが悪かったので短めですm(_ _)m
「……“材料”」
その言葉とともに、グールたちがリッカ先輩に飛びかかってきた。
「え、ちょっ!」
「先輩!」
リッカ先輩に向けて突き出される十字架。
とっさに先輩をかばうが、そこで隙ができた。
「……ひ……っ!」
いくつもの生白い手が、リッカ先輩を死者の列へと引き込んでいく。
地面に組み伏せられたリッカ先輩に対し、十字架を振りかぶるグールたち。
まずいな……戦わずに、なんて言ってられる状況じゃないか。
戦うしかない。
かといって、略奪者に変装できる状況でもない。
となれば――僕は、鉄の剣を抜いた。
調査のときに身に着けている、ダミーの装備だ。
通常装備の力を引き出せない僕では、鉄の剣でグールを倒すことはできないけど。
鉄の剣を使っているふりぐらいならできる。
「……ラム」「任せて!」
腕輪にしていたスライムソードから、剣身へと根のようなものが伸びた。
うっすらと青くコーティングされる刃。
その刃を、グールの群れに向かって振るった。
グールの腕を斬り裂き、リッカ先輩の首根っこをつかむ。
「にゃあ!? ちょっ、どこつかんで!」
「いいから、早く立ってください」
剣の腹でグールをなぎ倒し、リッカ先輩の体勢を整える時間を稼ぐ。
あまり、このグールたちを斬りたくはない。ガスで膨れた死体を切ると、腐汁がすごい勢いで噴出するのだ。それが目くらましになってしまう。
「ノア、もう大丈夫!」
「じゃあ、逃げますよ」
リッカ先輩の手を引き、もう片方の手でグールの包囲を切り崩す。
グールはあっさりと倒れ、道ができた。
こちらに伸びてくる亡者たちの手を振り切りながら――走る。
幸い、グールたちの素早さは遅い。包囲を振り切れば、すぐにグールから遠ざかることができた。
グールも追いかけるのをあきらめたのか、やがて立ち止まった。
「なんとか逃げ切れたみたいですね」
「う、うん」
ようやく一息つく。
「ノア、その……助けてくれて、あり、ありが……」
「ん、なんですか?」
「あ、蟻が大好きなの、あたし!」
「なぜ、いきなり衝撃の告白を」
「ど、どうしても、この気持ちを伝えたくて……?」
「なぜ、僕に……?」
おかしな先輩だ。いや、わりといつものことか。
「そ、それより、ノア……ちょっと痛い」
「え? あ、すいません」
どうやら、強く手を握りすぎていたらしい。慌てて離す。
「ノアって……けっこう力強いんだね」
「火事場の馬鹿力ですよ」
「そういえば、ノアが戦ってるとこ見たの初めてだっけ。あんだけ戦えるなら、どうしていつも戦わないの?」
「えっと、普段は真面目に仕事してないので」
「いや、なんでよ……」
はぁ、とリッカ先輩が溜息をつく。
「せっかく、見直そうと思ったのに」
「あ、あはは……」
「もう、笑い事じゃないからね? まったく、ノアは……」
「ん……?」
ふと、そこで。
リッカ先輩の背後――グールたちの群れの中に、一瞬、おかしなものが見えた。
「ん、どうしたの?」
「いえ……」
言うべきか迷ったが、結局、黙っていることにした。
僕はふたたび、リッカ先輩の背後を忍び見る。
もうその場から消えていたが、たしかにそこにいたはずだ。
グールたちの奥に――異形の頭蓋骨をかぶった人間が。
じっと僕たちを観察していたその存在は、きっと――。