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屋敷探索

「ひっ、おばけ!」

「絵ですよ」


「うわ、人骨が!?」

「花瓶です」


「なんか足音が!?」

「それは先輩のです」


『ふわぁ~、わたくしが起床――むぎゅ!?』

「今、女の子の声が!?」

「……僕には聞こえなかったですね」

「マジで!?」


 幽霊屋敷の調査を始めてから、10分後。

 勇み足で探索を始めたリッカ先輩は、すでに僕の後ろに隠れていた。

 というか、もはや後ろからしがみつくような格好になっている。

 ついさっき、「調査員は、離れて歩くのが基本」って言ったの、リッカ先輩なんだけどな……。


「あの、歩きにくいんですが。もうちょっと離れてくれませんか?」


「は、はぁ!? それじゃあノアが後ろに倒れたときに、誰が体を支えるの!?」


「受け身ぐらい取りますって」


「なんで、そういうこと言うの!? そんなに受け身がいいの!? あたしより受け身を選ぶの!?」


「そういうわけじゃないですが」


「そんなに受け身が好きなら、もう受け身と結婚すればいいでしょ!」


「そう言われましても」


 恐怖ゲージが振り切れてるのか、リッカ先輩がどんどんおかしくなっていく。

 もはや、自分でもなにを言っているのか理解できてないんだろう。


「くっ、幽霊め……! 精神攻撃なんて、なんて卑怯な!」


「9割方、自滅ですけどね」


 やっぱり、一人で調査したほうがはかどったなぁ。

 ただでなくても、この屋敷――寄生宮の代償の“抜け道”については、一人で調べたいところなのに。

 そんな僕たちの様子を面白がっているのか。


 ――くすくすくすくす……。


 少女の笑い声が、ほの暗い廊下に響きわたった。


「……! どこ!?」


 リッカ先輩は腐ってもプロなのか、とっさに僕から離れると。

 ウエストポーチからゴーグルを取り出し――装備した。

 怨視おんしゴーグル。

 呪いの装備を見つけるためのDランク鑑定装備か。

 以前、『月刊・装備マニア』の鑑定装備特集で見たことがある。たしか呪いの装備を数秒間見つめ続けると、だんだん赤く見えてくるというものだった。

 Dランクだから精度はそこまで高くないし、着けていると周りの景色がほとんど見えなくなるという欠点もあるらしいが……。


「あっ! 今、ちょっと赤いの見えた! やっぱ、ここに呪いの装備がある!」


「へ、へぇ」


 うっかり視界に入り続けていると、やっぱり反応してしまう。

 暴食鞄グラトニー・ミミック虐楽首輪ドゥ・エムなどをマントで隠しつつ、僕は慌ててリッカ先輩の背後に回った。


「ノア、気をつけて! たぶん相手は“姿を隠す呪いの装備”を持ってるよ!」


 幽霊だと怯えていたわりに、なんだかんだで分析はしていたらしい。いや、幽霊じゃないと納得するためか。まあ、どっちにしろ見当違いではあるけども。


「くそっ、どこ行ったの!」


 リッカ先輩がぶんぶんと首を回す。

 あ、まずい……こっち向く。

 リッカ先輩の首を、僕は反射的にキャッチした。

 そして――。


「あっちです」


 ――ごきり。


「はぅわ!」


 ……予想以上に、いい音がしてしまった。

 リッカ先輩がゴーグルを外し、涙目でつめ寄ってくる。


「ちょっ、なにするの!?」


「い、いえ……へし折りやすい位置に首があったので、つい」


「サイコパス!?」


「すいません、冗談です」


「もう、真面目にやってよ!」


「あ、あはは、すいません」


「へらへらしないでよ、もう……! ノアのせいで逃げられちゃったじゃん!」


 リッカ先輩がぷりぷりと怒る。

 いや、もう本当に申し訳ないです……。

 それからしばらくして、リッカ先輩も怒りが収まったのか。


「にしても、この屋敷……広すぎじゃない?」


 周囲を見回しながら、首をひねった。


「たしかに、広いですね」


 玄関ホールを見たときも思ったが、この屋敷の中はあまりにも広い。

 もはや、広大とも言える。廊下をいくら歩いても、果てが見えないのだ。

 外から見たときは、もっとこぢんまりした屋敷だったんだけどな……。

 いくら大きな屋敷だとしても、この広さはさすがに異常だろう。


『これはダンジョンね』


 ジュジュが腰鞄から、ひょっこりと顔を出した。

 昼寝から覚めてしまい暇になったのだろうか。


「なんか女の子の声が……」


「あ、先輩の耳ふさぎますね」


「急になんで!?」


 先輩の耳をがっちりホールドしながら、ジュジュに小声で返す。


「ダンジョンって、あの……?」


『ダンジョンが装備って、前にも話したでしょう?」


「たしかに、まあ」


 ダンジョンとは、この世の理とはかけ離れた空間だ。

 魔物が無限にわくなどの不思議現象が起こるダンジョン。

 その正体が呪いの装備であることは、以前、ジュジュから聞いていた。それに寄生宮の効果を確認してみれば、たしかに『防具(ダンジョン)』と表記されている。

 とはいえ、実感がわくはずもない。こんな大きな装備、聞いたこともないし。


『まあ、未装備のダンジョンが落ちてるって、かなりレアだけど』


「でも、装備っていえば、基本的に持ち歩けるものじゃないの」


『持ち歩けるわよ。装備なんだから』


「へ?」


『ダンジョンって、たいてい形を自由に変えられるし。核があればだけどね』


「核……?」


『ダンジョンの本体みたいなものよ。核といってもいろいろあるけど』


「へぇ」


 ダンジョン事情はよくわからないけど、そうか。

 核を持ち歩き、ダンジョンを設置したい場所で使用する。

 そうすると、そこに自分のダンジョンができるといった感じか。


「とすると、やりようはあるね」


 屋敷から出たら死ぬという代償に、ダンジョンを操作できる核……。


「なるほど……()()がこの呪いの装備の“抜け道”か」


 呪いの装備には厳しい代償がつきまとう一方、その代償には多くの場合、“抜け道”がある。製作者の想定していない使い方をすることで、代償を打ち消せるということだ。

 でも、今回の抜け道は、かなり単純だな。

 核さえ見つければ、なんとかなるだろう。


『どうやら、ジュジュさんの知恵袋が役立ったみたいね』


「うん」


 珍しいこともあるんだね。近いうちに、空から炎でも降るんだろうか。


「まあ、とにかく核を探すとするか」


 探すといっても、迷路のような屋敷の中をむやみに探索する必要はない。

 羅針眼ラ・シンガンを使えば、それで事足りる。


「“寄生宮の核”を示せ」


 そう小声で指示を出すと、左目の羅針盤の模様がカッと輝いた。

 視界の中に針の模様が現れ、くるりくるりと上下左右前後に回りだす。

 ほどなく、針は一点を指して止まった。

 この針が指す方向に――“寄生宮の核”がある、ということだが。


「……後ろ?」


 今しがた通ってきた道だ。なにかを見落としていたんだろうか。

 とにかく引き返したほうがいいか。このまま奥に進み続けるのも、なんか危険そうだし。


「ね、ねぇ、ノア……そろそろ耳、放して……」


「あ、すいません」


 そういえば、リッカ先輩のこと忘れていた。慌てて耳を解放する。


「いったい、なにがしたかったの……?」


「趣味なんです。他人の耳ふさぐの楽しい」


「その趣味、直したほうがいいと思う」


 真面目に諭されてしまった。


「それより、いったん引き返しませんか? この先にゴールがあるわけでもないですし」


「うーん……まあ、深入りするのも危険そうか」


 さすが、仮にも先輩。引き際はわきまえている。

 というわけで、来た道を引き返そうと、後ろを振り返って。

 思わず――絶句した。


「……え」


 壁が、あった。

 僕たちのすぐ後ろに、頑丈そうな壁が。

 幻というわけでもないらしく、リッカ先輩も呆然としている。


「なに、この壁……」


「さっきまで、なかったですよね」


 というか、あったはずがない。

 ついさっきまで、この壁のあったところを歩いていたんだから。


「ていうか、この壁……近づいてきてない?」


「あ、気が合いますね。僕も同じこと思いました」


 ごごごごご……と、こちらに迫ってきている壁。

 廊下に飾られていた高価そうな置物たちが、容赦なくなぎ倒され、粉砕されていく。さらに壁は、まだまだ破壊し足りないというように、速度を増してきた。

 明らかに、僕たちをプレスする気満々だった。


「は、走るよ!」


「はいっ」


 慌てて壁から逃げる。

 それを見計らったように、壁の動きがさらに加速する。


「もぉぉ……どうなってんのぉ……!」


「先輩、もっと速く走れませんか?」


「無理! 素早さ上げる装備ない!」


「そうですか。なら、ちょっと失敬」


「はぅわ!?」


 リッカ先輩の手を引き、そのまま肩に担ぐ。

 先輩の体が小さくて助かった。この程度の荷物なら、抱えたままでも余裕で走れる。

 僕の荷物持ち経験を活かすときが来た!


「せ、先輩を荷物みたいに運ぶなー!」


 リッカ先輩がぎゃーぎゃーわめいているけど、気にしてる余裕はない。

 ひたすら廊下を疾走する。

 一直線の道だ。逃げも隠れもできはない。前にしか活路はない。

 走って、走って、走って……やっとのことで、廊下の突き当たりに差しかかる。

 助かった! と一瞬だけ思ったが。

 曲がり道が――ない。袋小路だ。

 後ろを見ると、壁はもう目前まで迫ってきている。


「はわわわ……!」


「くっ」


 仕方がない。リッカ先輩の頭を抱きしめ、右手の腕輪に意識を集中させた。

 手の中に、すらりと水色の剣が現れる。

 スライムソード。変幻自在の攻撃力2000の剣だ。


 僕はその剣を握りしめ、壁に向かって――。

①斬る ②斬らない

あなたはどっち派?


とりあえず、なんかゲームブックみたいな中途半端な切り方になってすいませんm(_ _)m

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