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世界よ、これが小物キャラだ

「ん……その声、どこかで」


 チェスターがはっとしたように目を見開き――いきなり胸ぐらをつかまれた。

 品定めするように、僕の顔をじろじろと眺めてくる。

 そして突然。


「――ラムにもなでなで」


 ドスのきいた声が、僕の耳をなぶった。


「え?」


 よく聞き取れなかったけど、なんか変な言葉を聞いた気がする。

 思わず、チェスターを見返すが、彼の表情に変化はない。すごい真顔だ。

 チェスターは、もう一度、口を開く。


「――テンションアゲアゲ」


 ……え、なに? 意味がわからなすぎて、怖い。


「えっと、なんですかそれ?」


 尋ねるが、返事はない。

 全然、テンションアゲアゲじゃない。

 いや、これでも彼なりにテンション上がってるのか?

 なにか、いいことでもあったんだろうか。装備な彼女ができたとか。


「ふむ」


 チェスターはあごをさすりながら、ゆっくりと視線を下げた。

 僕のダミーの装備――鉄の剣と木の盾に、しばらく目を留める。


「ちっ……見当違いか」


 チェスターはそう言い捨てるなり、僕を胸をどんっと突き飛ばしてきた。

 いや、突き飛ばそうとした――らしい。


「……?」


 チェスターが怪訝そうな顔をする。

 ……まずい、油断してた。

 とっさのことで、リアクションを忘れてしまった。

 チェスターは装備枠4の実力者。そんな彼に体を押されてノーダメージなのは不自然なのだ。

 すぐに挽回しなければ。

 僕は慌てて、その場でぶっ飛んだ。


「ぐわあああっ! 時間差で来たぁぁっ!」


 宙を回転しながら舞う。

 本当は地面を転がるべきなんだろうけど、シルルの洗濯の手間を考えると、あまり服は汚したくない。代わりに近くにあった壁にぶつかり、「うっ」とうめき、苦しそうに咳き込む。最後は、「くそぅ、時間差なんて卑怯だぞ!」と一瞬だけ反抗的に睨んでから、びくっとしたように目を伏せてフィニッシュだ。


 ――圧倒的、小物臭。


 世界よ、これが小物キャラだ。

 長年の経験と実践から編み出された僕の小物演技に、隙はない。


 さて、相手の反応はどうか。

 ちらり、とうかがってみると。

 チェスターは呆然としたように、しきりに瞬きしていた。


「ちょっと! なにも、そこまですることないでしょ!」


 リッカ先輩がとっさに僕に駆け寄り、チェスターを睨みつける。

 チェスターは少しうろたえたあと、ふんっと鼻を鳴らした。


「……もう用は済んだ。消えろ」


 そう言い捨て、ずんずんと歩み去る。ただ、『やばいやつと関わっちゃったよ……』とばかりに、少し早足になっていた。


「ノア、大丈夫!?」


 リッカ先輩が、僕の顔を覗き込んでくる。

 本気で心配してくれている表情だ。


「大丈夫ですよ。さっきのは演」


「……ごめん。先輩なら守るべきだったよね」


「え、いや」


 なんだか、シリアスな空気になってしまった。

 やばい、迫真の演技すぎたか……?

 とりあえず、慌てて立ち上がってみせる。


「も、もう心配しすぎですって! あれぐらい、どうってことないですよ!」


「あれぐらいって……10メートルは吹っ飛んでたけど」


「10メートルぐらい、故郷では毎日飛ばされてましたから」


「いや……よく生きてたね、それ」


「なんだか懐かしくなっちゃいましたよ。たまには、こうして飛ばされるのもいいですね」


「よ、余裕だね……」


「ええ、余裕です。だから」


 リッカ先輩の頭の上に、ぽんっと手を置く。


「先輩が気に病むことはないですよ」


「って、ちょっ!? 頭撫でるなぁ!」


「あ、つい。撫でやすい位置に、頭があったので」


「あたしの身長が低いって言いたいの!?」


「すいません……癖になってるんです、子供の頭を撫でるの」


「先輩なのに子供扱いされた!?」


「あ、言葉の綾です。はい」


 うぅ~っ、と恨みがましく睨みつけるリッカ先輩。


「ほんっと! 心配して損した!」


「あ、心配してくれたんですね」


「してない!」


 ぷいっ、と顔をそむけられる。


「ふん……ちょっと身長高いからって、調子に乗って」


「いや、僕もそれほど高いわけでは」


「言わないで! 聞きたくない!」


「あ、はい」


 とりあえず、黙っておこう。


「それより、今日の仕事はなんですか?」


「えーと……」


 リッカ先輩は、ウエストポーチに丸めて突っ込んでいた指示書を取り出した。

 それから、なぜか顔をしかめて告げる。


「――幽霊屋敷の調査、だってさ」


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