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装備枠ゼロの最強剣士 でも、呪いの装備(可愛い)なら9999個つけ放題(Web版)  作者: 坂木持丸
墓庭編 第1章 装備狩りと略奪者

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チェスター・ヴィル

 夜がうごめくように密度を増し、街が死んだように寝静まった頃。

 一人の男が、街を歩いていた。街の臭気に顔をしかめながら、滑り止めの金具が打たれた靴底で、かつかつと苛立ったような音を立てている。


「おい」


「ひっ、申し訳ありません、チェスター・ヴィル司令官!」


 彼の進路にいた審問官たちが、慌てて敬礼して道を開ける。

 男もそれを当然のことだと受け入れる。


 チェスター・ヴィル。

 彼は、若くしてこのレイヴンヤード教区における審問官のトップに立っている男だった。彼の機嫌を損ねれば、審問官といえども首が飛びかねない。この街において、チェスター・ヴィルに逆らう者はいないのだ。

 いや……いなかった、というべきか。


略奪者ファントムめ……」


 その名を思い出し、チェスターは苦々しげに歯噛みする。

 略奪者ファントム――それは、近頃レイヴンヤードに現れた存在だ。

 調査によれば……夜、カラスのようにふらりと現れては、呪いの装備をなんらかの方法で奪っていく市民のヒーロー、とのこと。

 目的はわからないが、審問官の真似事でもしているのだろう。呪いの装備を悪用したということは聞かないあたり、審問官の代わりに“呪い持ち”を裁いているつもりなのか。


 呪いの装備がなくなれば、たしかに街は平和になる。

 一見、審問官の目的とも一致しているように思われる。

 しかし、それではダメなのだ。ただ、呪いの装備がなくなるだけでは……。


「くそ……くそが……」


 先ほどの略奪者ファントムとの一幕を、嫌でも思い出す。

 略奪者ファントムをようやく追いつめることができたのだ。あと少しで、略奪者ファントムを狩ることができたのだ。

 略奪者ファントムはチェスターの装備に、()()()()()()()()()

 それはチェスターの強さが、略奪者ファントムを上回っていたなによりの証拠だ。

 まともに略奪者ファントムと戦うことさえできれば、今頃その首を土産に酒盛りでもしていただろう。

 それなのに、無能な部下たちのせいで逃してしまった。


 ……あと2週間もすれば慰霊祭だというのに。

 それまでに、略奪者ファントムを狩らなければ、()()()()()()()()が台無しになってしまうというのに。

 チェスターがいらいらと指を噛みながら、通りを行ったり来たりしていると。


「司令官」


 背後から、事務的な女の声が聞こえてきた。

 副官のロレイス・ヴァレットだ。

 鉄面のように感情のない表情で、ぴたりと敬礼している。職務柄、生傷が絶えないのか、袖口から覗く腕には血のにじんだ包帯が巻かれていた。

 真面目だけが取り柄の仕事人間――それが彼女に対する、チェスターの評価だった。


「尋問の結果は?」


「はっ。たしかに、装備狩りの呪いの装備が()()()()ようです」


「奪われた、か……ふん、どんな手品を使ってることやら」


 呪いの装備を奪うなんて不可能だ、とチェスターは一蹴する。

 呪いの装備は外せない。それが神の創った絶対的な真理だ。

 なにかしらの小細工があるのだろうが……些末なことだろう。


「他に情報はないのか」


「あるには、ありますが」


 珍しく、ロレイスが言い渋る。


「言え。これは命令だ」


「……はっ」


 ロレイスは怯えたように姿勢を正し、報告する。


「近隣住民の証言によると、犯行当時、現場からは少女の声が聞こえたようです」


「ほぅ」


 有力な情報だ。そうだ、こういうのを求めていたのだ。

 チェスターはわずかに前のめりになる。


「どんな声だ?」


「……爆笑です」


「は?」


「少女が、爆笑していたようです」


「……なぜだ?」


「不明です」


 そんなに楽しいことがあったのか?


「それと、2つの言葉が聞き取れたそうです」


「それはなんだ?」


「“ラムにもなでなで”……そして、“テンションアゲアゲ”」


「ふむ」


 チェスターはあごをさすりながら思案する。


「なにか、心当たりはありますか?」


「あるとも」


 思わず、そう言ってしまったが。

 ラムにもなでなで? テンションアゲアゲ?

 ……まったく意味がわからない。

 いや、言葉の意味はかろうじてわかる。しかし、言葉通りの意味だとも思えない。少なくとも、犯行中に大声で叫ぶセリフではないことは確かだ。

 あの“略奪者ファントムのことだ、なんらかの意味があるはず。


「おそらく、暗号の類だな」


「そうでしょうか……?」


 日常会話に見せかけて仲間と連絡を取っていた、といったところだろう。

 これは略奪者ファントムにつながる重要な情報だ。間違いない。


「くくく……略奪者ファントムめ、ついに尻尾を出したな」


 飄々と逃げまわる略奪者ファントム

 追いかけても、手を伸ばしても、かすみのように消えてしまうヒーロー。闇に溶け込むようなカラスの仮面とマントのせいで、外見の特徴もつかめない。

 まるで本当にカラスのようなやつだった。

 だが、この不毛な鬼ごっこも、もうじき終わるだろう。


「ロレイス、“ラムにもなでなで”と“テンションアゲアゲ”について探れ。速やかにだ」


「はっ」


 ロレイスが敬礼し、待機させていた部下に指示を出す。

 それを横目に、チェスターは不敵に笑った。


「――略奪者ファントムめ、もう邪魔はさせんぞ」

これにて、墓庭編の1章終了です!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

お時間があれば、ポイント評価をしていただけると励みになります!


次回から、ノロアが審問官の下で働きます。

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