さすノロです!
「そういえば、“お仕事”のほうはどうでした?」
食後。
皿洗いや湯浴みも済み、スイとラムも寝かせつけ、あとは寝るだけとなったところで。
櫛で髪を梳かしていたシルルが、思い出したように言った。
というより、夕食時は気を使って聞かなかったのかもしれない。
「うーん……まあまあかな」
声のボリュームを絞り、部屋の外の気配をうかがう。隣の住人に聞かれたい会話ではなかった。シルルが言う仕事とは……おそらく、“呪いの装備の収集”のことだろうから。
「うまくいかなかったのですか?」
「いや、呪いの装備の収集のほうはバッチリだったよ」
『でも、いつも通りランクはしょぼかったわ』
「いや、Sランクじゃ充分でしょ」
最高ランクより2つ低いといっても、通常装備の限界ランクは超えているのだ。
といっても……たしかに、この街にある呪いの装備のランクが低いのは確かだな。
今日手に入れたのはSランクだったけど、今までにこの街で見かけたのは、どれもF~Dランクだった。
もちろん低ランクの呪いの装備だって可愛いし、高ランクのものとは違って、緊張感のない身の丈にあったお付き合いができるわけだけど……実用性という面では、やっぱり今までの呪いの装備より劣ると言わざるをえない。
その分、代償も軽いし、コレクションが増えたから万々歳ではあるんだけど。
「たぶん、神聖国では高ランクのものが優先的に処分されてきたんだろうね。それで残ったのが、低ランクのものばかりって感じかな」
『ここにいても、雑魚いのしか手に入らないわけね。どれも毒にも薬にもならないし』
「まあでも、呪いの装備の収集だけが目的じゃないしね」
もちろん、それがメインの目的の1つではある。
この街――レイヴンヤードは、呪いの装備の処分場があるためか、呪いの装備の数も多い。この街にいれば収集も捗る。
ただ、もう1つ、目的があるのだ。
そもそも、ただ収集するだけなら、わざわざ規制が厳しい神聖国で収集する必要はないしね。
じゃあ、その一番の目的はなにかというと。
――“彼女”ノコト、知ッテルヨ?
――大罪人サン、教エテホシイ?
――ダッタラ、ワタシノトコロヘオイデ?
――アナタノ全テヲ、教エテアゲルヨ?
――来タクナイッテ、言ワナイヨネ?
――ダッテ、ソシタラ死ンジャウモンネ?
――楽シイ楽シイ■■ゴッコ、終ワッチャウモンネ?
先日、僕のもとに送られてきた謎の手紙。
その手紙によると、手紙の送り主である“ドールマスター”に会わないと、僕は死ぬとのことだが……神聖国に入った今でも、その人物の手がかりすらつかめていない。
ただの怪文書だったんじゃないか説もあるけど、そのわりには、こちらの事情に精通しているのが気になるし……無視するわけにもいかないだろう。
というわけで、ドールマスターについて目下捜索中でもあるのだ……一応。
ほとんど、呪いの装備の収集がメインになっているけども。
「あー……あっ、そういえば!」
シルルが一段階、明るい声を出す。
おそらく、暗くなりかけた空気を切り替えようとしたのだろう。
「ノロア様は“略奪者”の噂、知ってますか?」
「え……あー……」
「最近、街で噂の“謎のヒーロー”なんです! 夜のように黒いマントをまとい、月のように青白いカラスの仮面をつけて、悪い“呪い持ち”をやっつける! らしいです!」
「あ、うん」
そういえば、シルルには伝えてなかった。
だって……普通に恥ずかしいし。
「街では略奪者グッズが流行ってるんですよ! 略奪者まんじゅうとか、略奪者クッキーとか、略奪者ジュースとか! 子供たちも、略奪者ごっこに夢中で……」
「そ、そうなんだ。それで、その略奪者だけどさ」
「運動神経バツグン! 頭脳明晰! さらに、その仮面の下には、絶世の美男子の顔が隠されているそうです!」
「あ、うん。すごい」
やめて……伝えるハードルどんどん高くするの、やめて……。
「かっこいいですね! 一度、見てみたいです!」
シルルが童女のように目をキラキラさせる。
なんだか、子供の夢を壊すようで申し訳ないが……さすがに、教えておかないわけにもいかないだろう。
「……たぶん、シルルはもう見てるんじゃないかな」
「えっ、まさか」
「そのまさかだ」
「肉屋のハンナおばさん(46)が!?」
「あ、うん。ごめん違った」
「え? でも、ハンナおばさん(46)は、夜な夜な、仮面をつけて繁華街にくり出すという噂が……」
「なにやってんだよ、46歳」
仕方がない、と僕は肩を落とした。
「……略奪者は、僕のことだよ」
「へ?」
シルルは本気で気づいてなかったのか、ぽかんとする。
「そっか……街では、そんなことになってるのか」
あんま聞きたくなかった。なんか、変な汗が出てきたし。
なるべく、こそこそ動いてたつもりだったんだけどな……。
「でも、ヒーローなんて、さすがノロア様です! さすノロです!」
「さすノロって」
ジュジュの影響か? まあ、それはいいんだけど。
「いや、僕はヒーローなんてたいそうなものじゃないよ」
僕が動いてるのは、ただの私利私欲のためだ。その行動で、結果的に助けられたと感じている人がいるだけで。こんな見知らぬ街を、わざわざ救おうだなんて思ってるわけじゃない。
「変に期待されても困るのにな。こっちとしては目立ちたくないし」
『閃いたわ! ノロアのサインを高値で売りましょ!』
「あっ! 握手会のチケットもセットでつければ……!」
『それだわ!』
「……実は仲いいよね、君たち」
とにかく、目立つのはNGだ。
呪いの装備を持っていれば、死しか問わずなのが神聖国という国。
審問官相手に殺されることはないだろうけど、それでも素顔のまま指名手配されるのは避けたい。
少なくとも、この国ではかなり動きにくくなるだろうし。いくら戦闘力があろうと、街に入れなくなれば生活に困るのだ。情報収集どころじゃなくなってしまう。
「身バレだけは、なんとしてでも避けないとね……」
『それって、フリ?』
「違うよ」
僕は首を振ってから、ふわ、とあくびを一つ。
「そろそろ寝るよ。明日は早いし……」
僕の活動時間は夜だけではない。
昼には昼で、別の仕事が入っているのだ。
遅刻なんてしたら、リッカ先輩から大目玉を食らってしまう。
僕は毛布にくるまり、壁にもたれかかるように腰を下ろした。
冒険者としての性なのか、座っているほうが横になるよりリラックスできる。
目を閉じて、呼吸のペースを落としていくと、すぐに睡魔がやってきて……。










