悪いけど……僕の剣はSSSランクだ
「この刀刈鎌があれば、どんな装備も紙きれみたいに切り裂ける。どんな装備でもだ。もはや、審問官すら敵じゃない。この最強の武器に選ばれた俺に……勝てる者など、いない」
そして、装備狩りは大鎌を構えると――前のめりに突進してきた。
一気に間合いをつめ、大鎌を振り下ろす。
狙いは、僕が手にした剣。
その一撃必殺の刃が、僕の剣をとらえ――。
――微動だに、しなかった。
「は……?」
数秒ほど遅れて、装備狩りが間の抜けた声を出した。
呆然としたように彼の体が固まる。まあ、それも仕方ないだろう。自分が絶対の信頼を寄せていた大鎌を、小ぶりの剣があっさり受け止めているのだから。
「あー……その鎌、Sランクって言ったっけ?」
ちょっと言いにくい空気だったから黙ってたけど。一応、教えておくか。
「悪いけど……僕の剣はSSSランクだ」
Sランクでは、僕と戦うには少し力不足だ。
僕が、ちょいっと剣を振ると。
それだけで――がきんっ、と大鎌が弾き飛ばされる。
「え……」
理解できないことの連続のためか、完全にフリーズする装備狩り。
そんな彼に向かって、僕はさらに剣を振りかぶり――。
「当て身」
剣の柄で、とんっ、と首筋を叩いた。
「え……あ……?」
装備狩りが白目を剥いて……あっさりとノックダウン。
そして、静寂が訪れる。
「あ、終わり?」
『ざっこ……』
ジュジュが呆れたように言うが、僕も同じ感想だった。
「まあ、Sランクの武器じゃ、こんなものか」
審問官が苦戦してるっていうから、少しは警戒してたんだけど。
「むしろ、これに苦戦するレベルなのか、審問官って……」
『完全に名前負けしてるわね』
「まあ、僕も苦戦はしたか」
『そう?』
「うん。手加減するのが大変だった」
世界最強とされている聖剣の攻撃力が500なのに対して、僕の最高攻撃力は軽く3万オーバー。桁が2つも違う。ここまで強いと、軽く攻撃した余波《、、》だけで相手が爆発四散しかねないし、本気で攻撃しようものなら街の地図が変わってしまう。
普通の剣のように使うには、けっこう繊細な力加減が求められるのだ。
「と、そうだ」
僕は辺りに人がいないことを確認してから、仮面を外した。
「二人とも、お疲れ」
僕がそうねぎらいの言葉をかけるなり。
「ゲームクリアー!」「……ミッションコンプリートです」
仮面と剣がぽんっと膨らみ、双子の女の子の姿となる。
スライムソードのラムと、スライムシールドのスイ。
透明感のある水色の髪に、宝石みたいな水色の瞳、水色を基調としたワンピース……と、鏡写しにしたように、髪型から服装までそっくりな双子だ。
唯一の違いはといえば。
「じゃあ、あれやるよぉ!」「……あれ?」
「二人合わせてー!」「……えっ」
「スラ!」「……イム」
「決まったぁ!」「……恥の多い生涯です」
……この二人の性格だろう。外見の違いのなさを中身の違いでカバーしたかのように、二人の性格は綺麗に正反対だった。こちらもある意味では、鏡写しといえるけど。
「あるじー、今日はラムがMVP?」「……笑止。スイのが活躍してました」
「えー、スイなんもしてないじゃん!」「……縁の下の力持ちという言葉があります」
「まあまあ、二人とも活躍してたから」
「にゅふふ……」「……ん」
二人の頭を撫でると、ふにゃりと、とろけたような笑みを浮かべる。
『ねぇ、幼女キラー・ノロア』
「誰が、幼女キラーだ」
『さっさと呪いの装備を奪わなくていいの?』
「ああ、そうだね」
べつに、僕は装備狩りを倒しにきたんじゃない。
呪いの装備を奪いにきたのだ。
地面に転がっている大鎌を見る。いかにも、死神が持っていそうな大鎌だ。柄や刃などいたるところに髑髏の装飾があしらわれ、なんだか悪っぽい印象を与えてくる。だけど、そこがいい。こういう装備こそデレたときのギャップがすごそうだし。結婚しても幸せな家庭を築けそうだ。
Sランクとはいえ、やっぱり萌え度は高いな。SSSランクが可愛すぎるだけで、この大鎌もとりあえずナンパしたくなるぐらい可愛い。夜景の見えるレストランとかでデートしたい。
『……って、なに他の装備に、鼻の下伸ばしてるのよ』
「いてっ!」
ジュジュに脇腹をつねられる。僕はごまかすように咳払いを一つ。
「じゃあ、早くやっちゃおうか」
これからすることを、他人に見られるわけにはいかない。
世界の理に反した、神をも冒涜する行為だから。
『よし、ばっちこいだわ!』
ジュジュがふわりと浮かび上がり、愛する人の抱擁を待つように両腕を広げた。
僕の手のひらに、ぽっと点火するように光の針が現れる。
繊細でありながらも、荒々しく――。
神々しくも、禍々しい――。
そんな魔性と聖性が混じり合ったような……病的で、破滅的で、呪いのように美しい針だ。
僕はその針を握りしめ、導かれるように。
――人形の心臓を、刺した。
廃人vsエンジョイ勢










