あっ、枝毛だわ! ノロア見て! 枝毛!
2019/04/27 敵と出会うあたりの流れを少し変更しましたm(_ _)m
――ソノン神聖国。
それが今、僕たちのいる国だ。
教会が統治するこの国は、呪いの装備の規制が世界一厳しいことで有名だった。
呪いの装備に触れてしまえば、そこで人生は終了。
他国ならば、呪いの装備の所持が“違法”程度で済むけれど……この国では逃げも隠れもできないうちに、呪装審問官に殺されてしまう。その呪いの装備が危険かどうかとか、呪いの装備に触れたのが故意かどうかとか、そんなことはお構いなくだ。
裁判も取り調べもなしに、道端でいきなり首を刎ねられる。
“呪い持ち”は――死しか問わず。
それが神聖国のスタンスだった。
当然、僕にとっては厳しい地でもある。
「というわけだからさ、ジュジュ」
『なによ。今ちょっと、枝毛探すのに忙しいんですけど』
「枝毛はいいから、街中ではあんま顔出さないでくれるかな。誰かに見つかるとマズいし」
通りを歩きながら、腰鞄から顔を出してるジュジュを、やんわりたしなめる。塔の上なら人目がないから構わなかったけど、さすがに街中ではマズい。
この国は、おかしなものがあると、すぐに呪いチェックをしようとするし。この国の外では『こういう変な魔物なんです』で案外通せてきたけど……この神聖国で通用するかは微妙だ。
そんな事情をくどくどと説明したのだが。
『嫌よ』
ジュジュがばっさり切り捨てる。
『だって、暇なんだもの』
「暇、ってね……」
『わたくし、じっとしてるのが一番苦手なのよね』
「人形の専門分野のはずなのにね」
『それに、たまには顔見せしないと、世界中のわたくしファンが悲しむでしょ?』
「あはは、戯れ言を」
どうしたもんかな、この人形……。
『ちょっと、なにしょっぱい顔してるのよ。こっちまでテンション下がるんですけど』
「いや、これからどうしようって考えてね……」
『あっ、枝毛だわ! ノロア見て! 枝毛!』
「そう、よかったね」
『ええ!』
この人形、悩みがなさそうでうらやましいなぁ。
まあ、悩んでても仕方ないか。
今からやることについて考えたほうが、よっぽど建設的だろう。
「えっと……この辺りでいいかな」
僕は立ち止まり、周囲に視線を走らせた。
人の気配のしない、薄暗い裏路地。
通りのランタンの灯りがわずかに差し込み、紅い蝶がふわふわと舞っているだけの場所だ。
路地の両側にある民家の壁には、窓がない。
襲われるなら、絶好のポイントだろう。
「さて……」
僕は、呟き――瞬時に、地に伏せた。
刃がぶぉっと頭上を通り過ぎたのは、ほぼ同時だった。
僕の残像を真っ二つ切り裂き、髪が風圧で揺れる。
かすかな灯明かりを弾き、赤くきらめく刃の残光。
いっさいの迷いもない――襲撃。
「ちっ……」
たぶん一撃で仕留めるつもりだったんだろう。大振りした得物の重さで、足がもつれている。
その隙を見逃してやるほど、僕はお人好しではない。
地につけた手を軸に、足払いをかける。
「……っ!?」
予想外の反撃だったのか、男が大きくよろめいた。
低いうめき声を漏らしつつ、たたらを踏むように慌てて後ろへ下がる。
僕はその隙に立ち上がり、改めて装備狩りと対峙した。
死神のような男だった。
ぼろぼろの黒いローブをまとい、手には禍々しい大鎌(可愛い)をかついでいる。
いかにもおどろおどろしい格好だ。
大鎌は可愛い。
「念のため聞くけど……装備狩り、だよね?」
「ちっ……」
男はこちらの問いに答えない……が、それが答えみたいなものだった。
彼は忌々しげに、こちらを睨みつける。
「……なんだ、お前は」
『わたくしはジュジュよ! 体重はリンゴ3個分なの! これ豆知識!』
「自己紹介しなくていいから」
『むぎゅっ』
慌ててジュジュを腰鞄に押し込む。
「……今、どこから声が?」
「僕の裏声ダヨ!」
「なぜ今、裏声を……?」
「マイブームなんだ」
一応ごまかせたらしいが、装備狩りに不審者を見るような目をされてしまった。
まあいいか。それより……。
「悪いけど、君を狩らせてもらうよ」
僕は右腕につけた水色の腕輪に、思念を送った。
それを合図に、腕輪がうにょんと膨らみ――青水晶でできたような剣となる。
どこからともなく現れた剣に、装備狩りは一瞬たじろぐが。
「俺を狩る、と言ったか……?」
装備狩りが、ふっと笑う。
「はっ……できるわけがない。この大鎌……刀刈鎌のランクがわかるか? Sランクだ。世界最高のAランクよりも上だ。それがなにを意味してるかわかるか? つまり、俺が一番強くてすごいってことだ」
「…………」
「どうした? 驚いて声も出ないか?」
装備狩りは勝ち誇ったように、まくし立ててくる。
「この刀刈鎌があれば、どんな装備も紙きれみたいに切り裂ける。どんな装備でもだ。もはや、審問官すら敵じゃない。この最強の武器に選ばれた俺に……勝てる者など、いない」
そして、装備狩りは大鎌を構えると――前のめりに突進してきた。
一気に間合いをつめ、大鎌を振り下ろす。
狙いは、僕が手にした剣。
その一撃必殺の刃が、僕の剣をとらえ――。