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装備枠ゼロの最強剣士 でも、呪いの装備(可愛い)なら9999個つけ放題(Web版)  作者: 坂木持丸
旅立ち編 第6章 滅びた街と暴食鞄

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呪いの装備の討伐依頼

六章は書籍版とは完全に別物ですが、ラストの展開を近づけてあります。

 虐楽首輪を手に入れた三日後。

 僕はエムド伯から食事に招かれていた。

 目の前のテーブルには、見るからに豪勢な料理が並んでいる。今まで僕が食べてきたものとは違いすぎて、頭がなかなか食べ物だと認識してくれない。美味しい料理であることは匂いからなんとなくわかるけど、緊張のせいかあまり喉を通らない。


『きゃっほぅっ! 宴の始まりよっ!』


「宴だぁぁぁっ!」「……宴です」


 一方でジュジュたちは、元気よくテーブルの上を駆け巡っていた。

 もともとグルメ好きだからか、ジュジュのテンションはいつもに増して高い。あいかわらず、自由気ままでうらやましいなぁ。恥ずかしいから大人しくしてほしいけど。


「あの、王子様」


 と、なぜか僕の膝に座っているレイシャさんから声をかけられる。ちなみに、なぜ〝王子様〟と呼ばれるのかは謎だ。とりあえず、レイシャさんにはずいぶん懐かれてしまったらしい。


「えっと、どうしました?」


「あそこにある熱々のスープを……」


「取ればいいんですか?」


「いえ、私の顔に押しつけてほしいのです。できれば、冷たい目で罵りながら」


「……それによって、なにか得られるものが?」


「私の長年の夢が叶います」


「叶っちゃいますか……」


「はい……」


 レイシャさんは、もじもじと恥じ入るように面伏せる。


「ずっと、夢だったんです。憧れの人から、熱々スープの具材を顔に押しつけらるのが……や、やっぱりおかしいですよね、こんな夢……」


「はい、おかしいです」


「あっ、そのぞんざいに扱われてる感じ、すごくいい」


 レイシャさんが頬を染めながら、くねくねと身をよじらせる。

 投げやりな返答をしたら、逆に喜ばせてしまったようだ。

 ちょっと、この人の思考にはついていけない。

 助けを求めるように隣にいるシルルを見るが、


「……ぷい、です」


 と、なぜか頬を膨らませて、そっぽを向かれてしまう。どうにも機嫌が悪いようだ。

 なんだろう、この居心地の悪さ。


「――うぉっほん」


 そこで、エムド伯が威厳たっぷりに咳払いした。

 食堂の緩んだ空気が一転、真面目なものへと変わる。


「さて、ノロア殿。挨拶が遅れてすまなかったね。もう他の者から聞いていると思うが、私はエムド伯、モートブッテ・ミン・イタイノスキーだ」


 苦悩の陰が濃い顔のわりには、穏やかな声だった。というより、覇気がない。どこか疲れきっているような印象だ。


「ノロア殿、このたびは世話になったな。君がいなければ、レイシャはずっと部屋から出られなかっただろう。どれだけ感謝しても足りんよ」


「いえ、そんなたいそうなことは……」


「なに、謙遜することはない。他の誰にもできなかったことだ。私自身、娘をどう扱っていいのかわからず、酷なことをしたと思う……」


 エムド伯が沈んだ顔つきになる。

 きっと、悪い人ではないのだろう。ただ、優しくはあっても、それ以上に不器用だった。それがレイシャさんを傷つけてしまった。


「さて、レイシャの件について、ノロア殿には報酬をわたそうと思うが……」


「――王子様っ! 王子様っ!」


 エムド伯が話を続けようとしたところで、レイシャさんがずいっと顔を寄せてきた。


「えっと、なんですか?」


「ふふ、呼んだだけです」


「そ、そうですか」


 なんで、このタイミングに……?


「それで、報酬の話だが……」


「王子様っ! 王子様っ!」


「こ、今度はなんですか?」


「ふふ、呼んだだけです」


「……」


「――うぉっほん!」


 空気を切り替えるように、エムド伯が咳払いする。


「話を戻すがいいかね?」


「あ、はい。なんかすいません」


 エムド伯が仇を見るように睨んでくるけど、僕に非はないと思う。


「さて、このたびの報酬だが……」


「王子様っ! 王子様っ!」


「……なんですか?」


「ふふ、呼んだだけです」


「……」


 うん、そろそろエムド伯に続き言わせてあげて。

 エムド伯もさすがに放置できなくなったのか、いったんレイシャさんと向き合った。


「レイシャや、少しいいかね」


「なんですか、お父様?」


「パパ、ノロア殿と真面目な話がしたいんだ。少しの間でいいから、大人しくしていなさい」


「はい。では、話が終わるまで、王子様と別室でケツを叩き合ってますね」


「いや、その王子様と話がした……」


「王子様っ! 王子様っ!」


「……」


 エムド伯がいろいろあきらめた表情をする。


「……仕方ない。ノロア殿、今からレイシャに話しかけられても無視してくれ」


「はぁ」


「王子様っ! 王子様っ!」


「それで、なんの話でしたっけ」


「きゃあ、王子様がシカトしてくれてる! レイシャうれしい! きゃあ! きゃあ!」


 余計にうるさくなった気もするけど、これでいいんだろうか。エムド伯を見ると、なんだか目が虚ろになっていた。


「えっと……そうだ、報酬の話だ。なにか欲しいものがあったら言ってほしい」


「報酬というと、たとえばなにが?」


「金銭や土地や職位などは用意できる」


「なるほど」


 装備がOKならよかったけど、あえて言わなかったということはダメということか。まあ、高ランク装備なんかは戦争における重要な兵器みたいなものだしね。

 正直なところ、命助けられたわけだし、それでチャラでよかったんだけど……。


『じゃあ、この屋敷欲しいわ!』


 ジュジュが言うが、それは却下だ。というか論外だ。


「えっ!? 王子様は、私が報酬として欲しいのですかっ!?」


「うん。なにも言ってませんが、急にどうしました?」


「い、いかんぞ! レイシャも報酬から除外だ!」


「はぁ」


 エムド伯って、レイシャさんからむと地味にキャラ崩れるね。


「じゃあ、とりあえずお金で」


 せっかくもらえるなら、もらっておこう。

 ジュジュの代償のせいで、あまりお金は手に入らないしね。正直、資金はほとんどないのだ。それに、お金が一番後腐れなくていい。


「そうか、すぐに用意させよう」


 エムド伯はそう言ったところで、なぜだか目線をそらした。決まりが悪いのをごまかすように口髭をいじりだす。


「それで……ノロア殿は呪いの装備を破壊できる、ということでいいのだよな?」


「え、まあ」


 一応、そういう話で通していたな。呪いの装備を奪ったとは言えないし。


「そうか」


 エムド伯は短く頷くと、なにやら思案するように目を閉じた。


「恩人にこんなことを言うのは気が引けるのだが……一つだけ頼みを聞いてくれないだろうか」


 顔中に苦悶のしわを寄せながら、躊躇うように言葉を押し出す。あまり頼みたいことではないのかもしれない。しかし、切羽つまっているから頼まざるをえない。そういう感じだろうか。

 やっかいごとの匂いがぷんぷんするな。


「まあ、僕にできることなら……」


「おそらく、ノロア殿にしかできないだろう」


「僕にしか?」


「そうだ」


 エムド伯は大きく頷く。


「ノロア殿に頼みたいのは、呪いの装備の討伐だ」


「呪いの装備を、討伐?」


 聞き慣れないフレーズだ。思わず聞き返してしまう。


「ああ。つい先日、隣町が壊滅したのだが……どうも、呪いの装備の暴走が関わってるようでな」


「誰かが呪いの装備にさわったということですか?」


「いや、それはわからない。目撃者によると、装備者はいなかったらしい」


「え?」


 装備者がいない装備。それが暴走することなんて、ありえるんだろうか。装備というのは人間に力を貸す一方で、人間からエネルギーをもらわなければ力を発揮できないはずだ。ジュジュだって、僕が装備するまでは身動きができていなかった。


「たしかに、にわかには信じがたい話だな。ただ、それが呪いの装備だということは、複数の鑑定装備者の言葉からも確かだと思う」


 疑念が顔に出てしまったのか、エムド伯が苦笑する。


「証言によると、その呪いの装備は、魔物のように自ら動きまわり、周囲にあるものを見境なく消していたという話だ。現在も、隣町周辺を徘徊しているらしい」


「……本当に魔物みたいですね」


「ああ。このまま野放しにしていては、この領都も危ないだろう。討伐したいところだが、呪いの装備を破壊するのは難しいしな……」


 たしかに、下手なSランクモンスターよりもやっかいだな。もしもSSSランクの呪いの装備であるなら、破壊は不可能なはず。倒すこともできずに暴れ続ける魔物など、どうしようもない。

 エムド伯が疲れたような顔をしているのも、おそらくそれが原因だろう。


「ジュジュ、どう思う?」


 ちらっとジュジュのほうを見ると、なにやら珍しく考え込むような顔をしていた。


『今言われたことが可能な装備を、一つだけ知ってるわ。ただ……』


「ただ?」


『……いえ、たぶん考えすぎね』


 言葉が濁されてしまう。


『で、どうするの?』


「そうだね……引き受けてもいい、とは思うよ」


 いろいろやっかいそうな依頼だけど、呪いの装備が手に入るし、人助けにもなる。それに呪いの装備を愛用してる身としては、呪いの装備で傷つく人が少ないほうがいい。断る理由はあまりない。

 だから、僕の返事は初めから決まっていた。


「エムド伯、その依頼受けますよ」


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