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裏装備ギルドと共同戦線


「き、騎士団長……」


 思ったよりも身分の高い人だった。

 とくにエムド伯の騎士団といったら、国でも随一の精鋭集団だと聞く。そんな騎士団の長というと、かなりの実力者であり権力者だと思ってもいいだろう。


「あ、僕はノロアです。冒険者やってます」


『そして、わたくしがジュジュよ!』


「え? しゃべるのか、それ……」


「はい。だいぶしゃべりますよ、これ」


『ちょっと! 〝それ〟とか〝これ〟とか、ありえなくない!? レディーに向かって失礼しちゃうわ!』


「うわ、またしゃべった……」


『むきぃぃっ! この女、ジュジュパンチの錆にしてくれるわ!』


「やめなよ」


 とりあえず、ジュジュを取り押さえる。

 ちなみに、ジュジュパンチがどう錆びるのかは謎だ。


「しかし、そうか……ノロア殿というのか。ドラゴンを使役しているうえに、先ほどの凄まじい攻撃……まるで神話の英傑のようだな。さぞ高名な冒険者なのだろう」


「まあ、一応Sランクみたいです」


「Sランク……! なるほど、どうりで強いわけだ」


 と、納得しつつも、セラさんはどこか釈然としない顔をする。


「いや、しかし……周囲一帯を消滅させるようなSランク冒険者は聞いたことがないが……一応、人間ではあるんだよな? ご両親が戦術兵器だったりしないよな?」


「はい。まごうことなき、人間です」


『いいえ、それはわからないわ!』


「うん。無駄に話をややこしくしなくてもいいんだよ?」


 それにしても、まさか人間だと疑われる日が来るとは。僕からしてみれば、セラさんぐらいの実力者でも充分に人外だと思えるんだけど。


「しかし、ここまで大型の竜種を使役するとはな。Aランクの調教装備を使っても不可能と言われてたんだがな。王都の近衛竜士隊でさえも、小さな飛竜が精一杯だというのに……」


 セラさんが興味深そうにシルルのほうへと顔を向ける。

 シルルがびくっと全身を震わせた。借りてきた猫のように大人しくなっているが、それには理由がある。

 竜化しているときは、人前で人語は話さないようにと取り決めをしたからだ。

 サンプールでの一件からもわかるように、人語を話す魔物というのは、人食いが多い。ネガティブなイメージを持たれるし、どちらにせよ悪目立ちしすぎる。

 そもそもドラゴンがしゃべるとか、人形がしゃべるのと同じぐらい意味がわからないし。

 そんなわけで黙っているシルルだったが。


「ふむ……大人しいな、このドラゴンは」


「しっかり調教してるので」


「ほぅ、たいしたものだ」


『……ノロア様に、調教……なんでしょうか、この胸の高鳴りは』


「あれ、今しゃべったか?」


『え、いや……しゃ、しゃべってないがおーっ!』


 シルルがおかしくなった。


「いや、今しゃべったよな? 絶対しゃべったよな?」


「そ、そうですか? 僕には聞こえなかったですが?」


『そうですよ! ドラゴンはしゃべりませんっ!』


「そうか。やはり聞き間違いだったか……って、ん? あれ……?」


 ボロが出そうになったので話題を変えることにする。


「それより、エムド伯の騎士団がこんなところでなにを?」


 たしかに、ここは領都の近辺だけど、騎士団がわざわざ出張るということは、よほどの事情があるはずだ。様子を見ていた感じ、タートルレオンの討伐が目的でもなさそうだし。


「ああ、それなんだが……どうも、この辺りに裏装備ギルドの根城があるようでな」


「裏装備ギルド?」


『わたくしも聞いたことないわね』


「違法な装備取引を専門にしている犯罪組合だ。主に盗品や規制品の装備を売買している。時には、呪いの装備の取引もしているらしい」


「なるほど……それは興味深いですね」


 表には出回らない装備か。これはもう、わくわくが止まらない。

 ちょいワル系の装備というのも、それはそれで趣深そうだ。

 って、それより、呪いの装備の取引もしてるって言ったか……?


「ちなみに、その裏装備ギルドの根城はどの方向にあるかわかりますか?」


「え? ああ、あっちだが」


 とくに軍事機密でもないのか、セラさんがあっさり教えてくれる。

 セラさんが指をさす方向にあるのは、街道からは外れた森。


「……やっぱりか」


 薄々予想はついていたけど、羅針眼の針の方向と一致していた。

 つまり、僕が追っていた呪いの装備は、今は裏装備ギルドの根城にあるということだ。おそらく追っていた馬車も、裏装備ギルドのものだったんだろう。

 参ったな……予想以上にやっかいな状況になったぞ。


「ただ、根城の場所はわかるんだけどな……」


 と、セラさんが苦々しい声を出す。


「今から攻めるのは厳しそうですか?」


「……ああ。正直、道中にAランクの魔物と遭遇するのは想定外でな。予想以上に損害を受けてしまった」


「たしかに、この辺りでAランクの魔物なんて出ないはずですよね」


「ああ、そのはず……だった。運が悪かったとしか言いようがない」


 本当に運が悪い。そもそも、マハリジの町近くにいたイービルベアもそうだけど、Aランクの魔物が、こんな人里に近いところに生息しているわけがないのだ。人が暮らせるような土地は、Aランクの魔物にとっては魔力の源となる魔素が薄すぎる。そのため、ダンジョンの中ぐらいでしかお目にかかれることはない。たまに人里近くにひょっこり迷い込むことはあるが、それはごくごく稀なことだ。

 そんなAランクの魔物への対策なんてしているはずもない。


「それでも、回復薬はかなり多めに用意してあったんだ。だけど回復薬では、骨折や部位欠損までは治せない。戦力ダウンは、免れん……」


 荷馬車の周りにいる騎士たちには、たしかに重傷者も少なからずいる。回復薬でHPは戻っているらしいが、骨折や部位欠損みたいな状態異常は治せない。Aランクの回復装備を持っている人でもいなければ、すぐに戦える状態にはならないだろう。


「正直言って、参ったよ。裏装備ギルドは早く潰さないとマズいのに……私がふがいないばかりに……こうしている間にも、お嬢様のような被害者が……」


 セラさんの張りつめていた表情が、一瞬だけひび割れた。その一瞬、〝真面目で頼もしいリーダー〟という仮面の裏にある、怯えている少女のような素顔が垣間見えた気がする。


「いや、すまない。こんな愚痴みたいなことを聞かせてしまって……」


「セラさん……」


『あ、ノロア! 耳糞たまってるわよ! うわ、でっか! ウケる!』


「……」


「……」


 ジュジュのせいで、なんとも言えない空気になってしまった。

 ……どうするんだよ、この気まずい空気。

 なにはともあれ、今のセラさんは見てられないな。


「あの、僕も一緒に行ってもいいですか?」


 思いきって提案してみる。


「えっ、ノロア殿が……?」


「はい」


『わたくしも、いるわよ!』


「あ、この人形はどうでもいいんですが」


『よくないわよ!』


『がお……ぷっ……』


『今、笑ったわよね!? このドラゴン、絶対笑ったわよね!』


「とりあえず、これが僕の冒険者カードです」


 セラさんに冒険者カードを見せる。


「この通り、僕の素性はしっかりしています。Sランクというのも本当です」


「いや、ノロア殿を疑っているわけではない。我々に害をなすつもりなら、とっくにやっているだろうしな。ノロア殿が仲間になってくれるなら心強くもある……が」


 セラさんがそこで少し躊躇うような間をあけて。


「だが、いいのか? 危険も多いぞ?」


「大丈夫です。荒事にも慣れてきたので」


「そうか……なんと感謝したらいいか」


 セラさんがうつむき、僕の手を取った。その手は小刻みに震えていて、彼女の肩にどれだけの不安や恐怖がのしかかっているのか伝わってくるようだった。


「……ありがとう」


「い、いえ、そんな感謝されることでもないですよ」


「そんなことはない。君と出会わなければ、どれだけ部下を失っていたかもわからない。裏装備ギルドだって、潰すのは後回しになって……」


『ノロア~、耳糞取れたけど見る? すごいわよ、これ!』


「……」


「……」


『あれ、見ないの? もしかして、耳糞見ないタイプ?』


「……」


「……ごほん。と、ともかく、ご協力感謝する」


「あ、はい」


 身分の高い人からここまで感謝されると、なんとなく罪悪感もあるな。

 セラさんに協力するのは、こちら側にもメリットがあるのだ。僕はまだ耐久面が弱いから、裏装備ギルドの根城に単独で攻め入るのはリスクが大きい。不意打ちで攻撃をもらえば、致命傷になりかねないからだ。

 だから、仲間がいてくれるだけでも心強い。

 もっとも、セラさんの力になりたいと思ったのも嘘ではないけど。


「一緒に頑張りましょう」


「ああ。必ずや、裏装備ギルドを壊滅させよう」


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