エピローグ
呪災を解決したあとは、いろいろとあっけなかった。
まずは聖都の街並みについてだけど、これはマーズがどこをどう動かしたか全て頭に入れていたおかげで、すぐに元通りにすることができた。
次に、マーズとラヴリアの処遇については……。
「許すわ?」
聖都の街並みを元通りにする直前。
結界越しに謝罪に来たラヴリアたちに対して、フーコさんはそんな一言を返した。殺されかけたとは思えないほど、あっさりとした言葉に、マーズもラヴリアも目に見えてうろたえていた。
「い、いや、ダメだよ……! そんなあっさり……!」
「……そうだ、考え直したほうがいい。世の中には信賞必罰という言葉があってだな」
なぜか罪人サイドが許すなと説得しだすが、フーコさんは揺らがない。
「楽しかったからいいのよ?」
心なしかほくほく顔だった。
そういえば、フーコさんはゲームが好きなんだったか。今回の事件についても、楽しそうだから“呪い持ち”を聖都に招き寄せたと言ってたしな……。
最初からこうなることがわかっていたのか、それとも自分が死んだら死んだでいいと思っていたのか……いや、考えても仕方がないか。
「ただ、あなたたちへの罰として……ノロア・レータには部屋の片付けをしてもらうわ?」
「……なぜ、僕なんですか」
「だって、この2人は部屋に入れないでしょ?」
「まあ、最初から片付けさせられるとは思ってましたが……」
というわけで、現在……僕はフーコさんの部屋を絶賛片付け中だ。
魔物との戦いで、フーコさんの部屋は足場もないほど散らかっていた。
とりあえず、魔物の死体は死這イ冠で操るための駒として、暴食鞄に回収させる。
そこからは地道なモップがけ作業だ。
「それで、あの……呪災を解決したわけですが」
「片付けを終えるまでが呪災よ?」
「遠足ですか」
「来たときよりも美しくよ?」
「片付けさせる側の言葉じゃないです、それ」
溜息を1つ。
「あの、約束しましたよね。呪災を解決すれば、僕の過去や“彼女”について教えてくれるって」
「そんなことも言ったかも?」
「言いましたよ」
「そう……?」
フーコさんが、膝に視線を落とした。そこにいるのは、お昼寝中のジュジュだ。
なぜか、フーコさんはジュジュをじっと見つめたあと。
「やっぱ、教えないわ?」
と、首を横に振る。
「え、なんでですか」
「代償よ?」
「くっ……代償なら仕方ないですね」
“呪い持ち”あるあるだ。
「だけど、“彼女”については、あなたはもう名前を知っているはずよ?」
「……え?」
「だって、“彼女”は――――」
*
呪災解決後。
僕たちは3日間、聖都に滞在した。
呪災の後始末と観光のためだ。聖都に入ってからはずっと仕事ばかりしていたため、まだ観光名所などを回れていなかったのだ。ただ、呪災のおかげで観光客がおらず、観光名所が貸し切り状態だったのはうれしい誤算だった。
そうして、しばらく聖都を堪能したあと。
僕たちは聖都から出ることにした。
一応、しばらく一緒に行動していたよしみからか、審問官たちが見送りに来る。
「……ようやく、いなくなるのか。せいせいするな」
「こら、セインくん。別れ際に言うことじゃないよ」
「ぐ……」
ミィモさんにたしなめられて、セインさんが渋い顔をする。
『ぷくぷくぷく! いい歳して怒られてるわ!』
「君、急に笑い方のバリエーション増やしたよね」
『キャラ作りのためよ!』
「素直だね」
「ちっ……とっとと聖都から消えろ、目障りだ」
「と、セインくんはこんなことを言ってるけど、なんだかんだで君たちには感謝してるみたいだよ。一番に見送りに来ていたしね」
「いや、違っ……俺は、ラヴたんを見たくて……!」
『やっぱり、金髪はツンデレね』
「まあ、君たちには入市許可証もあるんだ。いつでも戻ってくるといいよ。ノロアくんがいると、いい訓練ができるしね」
「なんか、いろいろ研究されそうで怖いんですが」
「もちろんするさ。そして、いつかは君に勝ってみせるよ」
「……ほどほどにお願いします」
そんなこんなでミィモさんたちとも別れて、船に乗り込んだ。
「でも……本当によかったの、ラヴリア?」
「へ?」
同じ船に乗り込んだラヴリアに声をかける。
結局、ラヴリアは僕たちと一緒に旅をすることになった。
彼女に帰る場所がなかったというのも1つの理由だ。
しかし、一番の理由は――。
「僕がラヴリアの呪いの装備を奪えば、君は自由になれるのに……」
そう、ラヴリアが呪いの装備を手放さないことを選んだのだ。
“呪い持ち”じゃなくなったマーズなんかは、罪滅ぼしもかねて聖都で働くことにしたようだったが、“呪い持ち”のラヴリアには選択肢がほとんどない。
一生、人にも魔物にも襲われ続ける不自由な人生を強いられるだろう。
「でも……ラヴはこのままでいいよ。これ以上、ノーくんに迷惑かけられないしね」
「いや、迷惑だなんて。呪いの装備もらえるなんて、僕たちの業界ではご褒美だけど」
「ご褒美? よくわかんないけど……とにかくね、たくさんの人に迷惑もかけちゃったから、この呪いはラヴが背負おうと思うんだ」
「そっか」
奪えるなら奪っておきたかったけど、呪いの装備を受け入れた人から無理やり奪うのはポリシーに反する。
「それに……呪われてたら、ノーくんが守ってくれるんでしょ?」
「え? まあ、そのつもりだけど」
ラヴリアの呪いの装備――魔界ノ笛の代償は、『常時、魔物を引き寄せる』というものだ。寄生宮のような装備を持っていない限り、1人で対処しきれる代償ではない。かといって放っておけば、彼女の行く先々で被害が出てしまう。
誰かを傷つけながらも、誰かに守られないと生きられない呪いだ。
「君の呪いはやっかいだからね。引き続き、僕が護衛をさせてもらうよ」
「じゃあ、自由よりも絶対そっちのほうがラブリーだよ♪」
ラヴリアが、ぴょんっと抱きついてきた。
「ら、ラヴリア!?」
これには、さすがにドギマギする。
「あ、当たってるから……SSSランク装備(魔界ノ笛)が当たってるから!?」
「当ててるんだよ♪」
「ありがとうございます!」
「……ラヴちゃん? なんか、ノロア様との距離が近くないですか?」
「えー、そんなことないよー? あ、シルちゃんもノーくんに装備当ててみれば? その頭についてるやつ」
「私の場合、頭突きにしかならないじゃないですかぁ!」
『……うるさいわね』
僕のフードの中で昼寝していたジュジュが、もぞもぞと動きだす。
『なんで、わたくしたちの旅には……こう騒がしいやつらが集まるのかしら』
「君がその筆頭だけどね」
ラヴリアが加入したことで、より騒がしい旅になりそうだ。
ただ……そういえば、前にフーコさんが言ってたな。もともと、僕とラヴリアは一緒に旅をしているはずだった、と。
巡り巡って、本来の形に落ち着いたということかもしれない。
『で、次はどこへ行くの?』
ジュジュが耳元で尋ねてくる。
『しばらくは、ここに来ることを目指して旅してたわけだけど……』
「目的地は決めてないけど、旅の目的はあるかな」
『目的?』
フーコさんから“彼女”についての手がかりを得たし、ラヴリアたちがいたという“呪い持ち”の組織についても気になる。
やりたいことは、たくさんある。
「でも、とりあえず今は、ゆっくり呪いの装備を集めたいかな。僕の装備枠はまだ1万近く余ってるしね」
『ダンジョンでも行くの?』
「そうだね」
地図操作と魔物操作――この2つの力があれば、おそらくどんなダンジョンも難なくクリアできるだろう。
そんなことを考えつつ、僕はこれからの旅について思いをはせるのだった。
というわけで、聖都編完結です!
また作品としてもこれにて完結とさせていただきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
個人的に生まれて初めて誰かから評価してもらえた作品でして、とても思い入れのある作品となりました。本当にここまでお付き合いいただきありがたかったです……。
鷹嶋大輔先生のコミカライズ版も完結しましたので、そちらもぜひチェックしていただければなと!(クオリティーもかなり高いですし、書籍版準拠ですのでWeb版とは違う展開もたくさんあります)