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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
蛇の少女と未来街の幽霊魔導師
99/246

霊感主人公は逃亡する

前回から半年程時間が進みます。

 これは夢。よくあることだ。


 その光景には夢の中にだけ現れるある女子と同じ人だが、知っている姿より、少し若い…いや、小さいと言った方が妥当だろうか……。


 そんな彼女と真っ暗な場所で見つめ合って、ゆっくりと目を閉じた。


 俺はそんな彼女の唇にゆっくりと近づけていった。



 *



「…さ…。そ…様。…空様。目をお覚ましください」


 俺は体を揺らされて目を覚ます。


 目の前には金色の長い髪の何故かメイド服を着ていた俺から2、3歳年上の女の人が視界に飛び込んできた。


「空様。朝食の準備が整っております」

「ああ……。毎朝、ありがとうございます、レオナさん」

「いえ。私が好きでやらせていただいておりますから。準備が出来次第、降りてきてくださいね」


 レオナさんが扉に向けてくるりと回転すると、スカートがふわり浮かび、その光景は正直役得である。


 そしてレオナさんが部屋の外に退出すると、俺はすぐに悔しさに顔を俯かせる。その理由は……、


「後数センチだったのに!!!」


 夢の中で、あと少しで彼女とキスが出来そうだったのに、いいところで現実に引き戻されて、出来なかったことへの悔しさであった。



 *



 レオナさんが作った朝食を食べ終え、学校に向かう為に、()()()()()()()()を冬の寒さを感じながら、下っていく。


()()()()()。レオナさんに何かしたの?」

「何かって?」

「怒らせるようなこと」


 空の隣を一緒に歩くのは、義妹(いもうと)である大空(おおぞら) アイリス。


 アイリスは穢れのない真っ白な髪と綺麗な真っ赤な瞳の女の子で、空とは()()()に、家事や人付き合い、勉強など、なんでもでき、した特徴を除けば、美しいと呼ばれる程の才女。


 容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能と三拍子揃っており、当然の如く人気も高い。


 対して空は普通の人だ。


 成績は精々赤点回避出来る程度、スポーツもある程度出来るだけ。容姿は中の中ぐらい。なんとも平均的な男である。


 故に比べられる。出来る妹と、ダメダメな兄。周囲や学校の評価はそんなものだった。


 しかし空はその評価にまったく動じず、それどころか、「確かにな。その通りだ」と何故か納得していた。


「怒らせるようなこと…か……。特に思いつかないけど……。何かあったのかな?」

「ああ、なるほど。つまり()()()()()()からか」

「???」


 アイリスは何かに納得し、うんうんっと頷いていた。空はその言葉の意味がわからず、頭にいっぱいの?を浮かべた。


 するとアイリスは何かを考えるように腕を組んだ。それを見ていた空は、アイリスの肩に何かが乗っていることに気付いた。


 アイリスはそれに気付いていない。いや、気付くことは()()にないだろう。


 空は肩に乗っているものを、ヒョイっと持ち上げると、側に茂みに()()()、何事も無かったかのように歩み続ける。


「とにかく! 今日帰ったら、レオナさんのことをちゃんと褒めてあげるんだよ!」

「褒めるって…一体何を」

「いい!?」

「は、はい……」


 空はアイリスの迫力に負けて頷いた。


「それじゃあ私、友達を待たせているから先に行くね。遅刻なんてしないでよ、()

「はいはい、わかりましたよ」


 アイリスは空の名前を呼んで山道を早足で下っていた。空はそれを見守った後、後ろを振り返り、ある場所を見つめる。


 そこは、空が何かを下ろした茂み。その茂みを見つめていると、その茂みの上には未だにそれはおり、空の視線に気付くと、その()()()()から手を上げてこちらに手を振り始めた。


 空もそれに向けて手を振って山道を下っていった。


 空に手を振ってきた小さいものは『小霊(しょうれい)』と呼ばれ、人に取り憑くが、何かをするわけでもなくただ見守るだけという変わった“()”である。



 *



 学校に近づくにつれて、学校に向かう生徒たちが増えていく。


 そんな中、空が進む通学路の先に、2人の女子生徒が誰かを待つように佇んでいた。空はそれに気付かないように過ぎ去ろうとしたが、


「あ! 大空くん!」


 2人のうちの1人に気付かれた。


 片方の声にもう1人も空を発見し、駆け寄ってきた。空はその駆け寄ってきている2人、雪村 里美と桜井 曜に向かって歩を進める。


「おはよう、大空くん」

「遅いじゃないのよ」

「悪い悪いって…というか、待ち合わせなんかしてなかったよな?」

「べ、別に待ってないよ! ただなんとな〜く立っていただけだよ!」

「空がいつまで経っても来ないからそわそわしていたのよ」

「里美ちゃん?!」


 空の疑問に曜は慌てて否定をするが、里美の裏切りにより、曜は顔を真っ赤にする。


 その後、曜は少し涙目を浮かべながらポコポコと里美を叩き、叩かれている本人は、笑いながら曜を落ち着かせていた。


 それを見ている空だったが、正直居心地が悪い。


 空の目の前にいる2人は容姿もよく、性格もいい。可愛く明るい性格の曜とクールで落ち着いた雰囲気の里美。当然この2人は人気があり、男子から好意の視線を向けられる。


 そんな2人の近くにいれば、当然目を付けられる。嫉妬や恨みといった視線を。


 空は背後からの刺さるような視線を受けながら2人を諭し、学校に向けて歩みを進めるのだった。


 ……同時に刺さる視線が強まったのも理解しながら……。



 *



 学校の校門に着くとちょっと意外な人物に出くわした。


「金剛先生? どうしたんですかこんなところで?」

「大空か。いや何、明日から冬休みだからな。少しでも犯罪を減らそうと、校門の前で立っているのだ」

「派遣教師なのに…ご苦労様です」


 空は、この寒空の下に立っている立っている派遣教師・金剛 力也に向けて敬礼する。

 金剛先生は、それに呆れながら教室に向かうように指示をした。そんな空の視界には、金剛の肩に乗っている半透明な真っ黒な猫が飛び込んできた。


 その猫は先生のあたりをうろちょろしているのをよく見たことがある。肩に乗っているのに金剛も気付いてない辺り、やはり幽霊なのだろう。


 金剛を見ていても、特に害があるわけではないのでただ憑いているだけだろうと判断し、空は指示された通りに教室に向かった。その途中で、里美とは別れ、曜と2人で教室に向かう。


 下駄箱に着き、外靴から上履きに履き替えている時、奴らは再び現れた。


「待っていたぞ! 大空 空!」

「オ、オマエタチハ」


「「我ら! 敬愛する曜様の部隊、『ようよう団』!」」

「「そして我らが、『男の娘・優雅団』!」


 もうほとんど説明しているようなものだが、曜と優雅のファンクラブだ。


 空は今の前にいるようよう団と優雅団に親の仇のように標的にされている。


 理由は極々簡単な理由、嫉妬だ。


 この2団体は、その団体が崇拝する人達が自分達ではなく別の男、さらにはダメダメで有名な空と一緒にいるのが羨ましいのだ。


 故に、この2団体は空に対して敵意を剥き出しにしている。


「なあ。いつもいっているけど、なんで坂本の方には襲いに行かないんだ? あいつだって、俺と変わらない程一緒にいるだろ?」

「馬鹿野郎! あいつを襲って後で女子からなんて言われると思う!」

「……なんて言われるんだよ?」

「穀潰しの変態と言われるんだぞ!」

「大差ねぇじゃねぇかよ!」


 2団体の者達に質問し、その理由を尋ねると、なんともひどい理由であったことに空は思わずツッコミを入れる。


「やかましい! 女の子に嫌われることがどれだけ苦痛なことなのか、お前なんかにわかるか!」

「そうだそうだ!」

「いや、それを俺に言われても知らないのだけれど……」


 血の涙を流しながら空を睨め付けるようよう団と優雅団の人達。今にも襲いかかってきそうな2団体に空を頭を抱える。


 そんな時、空の背後から1人の生徒が声をかける。


「おはよう空。……今日も彼らに絡まれているの?」

「おう、神田。おはよう。見ての通りだよ……」

「アハハ……。た、大変だね」

「ああ、全くだ」


 空達に話しかけたのはクラスメイトでもあり、友達でもある神田 優雅。優雅団が敬愛する男の娘だ。


 優雅が空に話しかけたことで、優雅団の殺気がさらに高まる。それを確認した空は、


「桜井さん、神田。俺の荷物任せた」

「え? う、うん、いいけど」


 隣にいる曜に空が持っている荷物を預けると、「エスケープ!」と言って、その場から全速力で逃亡した。ようよう団と優雅団は逃亡した空を追跡、サーチアンドデストロイと声を上げながら空の後を全速力で追撃した。


 その場に残された2人は目を点にして、逃亡した空の背中を見守るのであった。

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