暗躍する者と空を駆ける馬車
少し短めです。
ソラとコレットが新たな誓いを立てていた頃、
「何故だ!」
とある場所で、1人のローブを着込んだ男が怒り、机を強く叩きつけた。
「騒がしいぞ。少しは落ち着いたらどうだ、タウロス」
「これが落ち着いていられるか! スコーピオンの奴が死んだんだぞ! いつもなら、次の世界まで死ぬはずのないあいつが、なんでこんな時期に!」
タウロスと呼ばれた男は、机を叩きつけた両手をグッと握りしめながら、悔しそうに言葉を噛み締める。
「そう荒れるな、タウロス」
「リブラ! しかし、」
「イレギュラーは今までも常にあった。今回はスコーピオンが死んでしまうというイレギュラーがあった。それだけのことだ」
「だが…これが最後なんだろ?」
「その事をお前が気にする必要はない。計画が失敗すれば、またやり直せばいい。それだけの話だ」
リブラと呼ばれた男は、タウロスを落ち着かせながら席を立つ。すると、天井から8つの光がリブラ達を照らし、タウロスやリブラ同様に黒いローブを着込んだ者達が現れた。
「皆、よく集まってくれた」
「仕方あるねぇさ。また一つ星が温まったんだからな」
「また落ちたの?」
「落ちたらしいわ」
「口を挟むでない、ジェミニ。今は大事な話をしているのだ」
「あら、それは子供は口を挟むべきではないないという意味かしら、ピスケス?」
光に照らされている2人の子供のうち1人が、大人びた言葉遣いで対面に座るピスケスと呼ばれた2人のうち、右側に座る男に対して問いかける。
「言葉通りだ。今は口を挟むな」
「あら、随分と上から目線ね。思わず食べちゃいたくなるわね、お魚さん」
その言葉で2人の間に沈黙が流れる。そして同時に立ち上がり、男は拳を、子供はその身長にはあっていない十字剣を抜き、机に足をかける。
「『第3の星は復讐に燃ゆる!』」
「『砕く12の水拳よ』」
「やめろ!」
大きく叫んだリブラの声に2人は静止する。
声のした方に視線を向けると、リブラが膝を付き、口元で手を組んでいる。
「我々が争った所で、なんの意味も持たない。それに半分も減ってしまった我らをさらに減らしたくはないのだ」
「……ッチ!」
リブラの言葉を聞いたピスケスの男は、拳を収めて席に着いた。ジェミニもピスケスが席に着いた事により、敵意を収めて席に着いた。
「それにしても、なぜ両姉は2人を止めなかったんだ?」
「貴殿がいるのに、止める必要があったか?」
「私も同様です」
「……まあいい」
今にも殺り始めそうな2人の隣に座っていた2人に非難の目を向けるが、2人はそれをあっさりと流した。
リブラはそんな2人に呆れながら、本題に移った。
「皆も気付いていると思うが…スコーピオンが死んだ。いや、死んだというより、突然消滅したと言った方が、近い言葉だろうか」
「気配からして、すでに瀕死の状態だったと思うが……」
「何かしらの理由で突然消えたと考えられるのが妥当だろうが…今はその事よりも、新たに現れた魔装についてだ」
リブラが全員を集めた理由の議題を口にすると、全員がリブラの方にに注目する。
「自然の魔素そのものである我々に、この世界の魔法が通じることはないが…魔導となると、話が変わってくる」
「あいつらの言う所の思いとか言うのが唯一、俺達をあっさりと殺してしまう武器になっちまうからな」
「それに魔装は、我々の戦闘力と同等、もしくはそれを上回る力を得てしまう」
「しかし、それもタウロスのパワーの前に無力だがな」
突然名前を呼ばれたタウロスは、大きく胸を張る。
そんなタウロスに、リブラの言葉が突き刺さる。
「だが、あれ程、高密度のエネルギーを考えると…遠距離系の技だと考えるのが妥当であろう」
その言葉にこの場にいる全員が大きくどよめく。
「遠距離……。スコーピオンが皇国でやられた事を考えるとつまり、あの裏切り者が?!」
「ああ。おそらく、コレット・フォン・ジェラードを上回るマスターと選びし者、第9の星、サジタリウスだと考えるのが妥当だろう」
リブラの言葉を聞いて1番早く反応したのは、タウロスであった。
タウロスは拳を作り、自分の手に強くぶつけた。
「チクショウ! まさか同胞であるサジタリウスが、スコーピオンを殺しなんて!」
「考えられる可能性の一つだ。サジタリウスは今まで一度も、魔装を表出した方がなかった。その情報を得ただけでも、よしとしようじゃないか」
リブラは机に手をついて立ち上がり、腕を組んだ。
「スコーピオンが死んでしまうという計算外の事が起きてしまったか…それ以外は特に問題なく進んでいる。我々の計画に狂いはない」
その言葉に全員が頷いた。
「……Ⅳ」
「……ここに」
リブラが、その名前を呼ぶと、暗がりに1人の仮面を付けた少年が姿を現した。
「計画は問題なく進める。貴様、予定通りチャリオットに接触しろ」
「は!」
命令を下すと、Ⅳは一瞬にして姿を消し、本日の会議は終了し、照らされている光が消えると、殆どのものが姿を消した。残ったのはリブラを含め、ピスケスとタウロスに挟まれて座っていた者だけが残り、光に照らされていた。
「彼女は今どうなっている。アリエス」
「……滞りなく、順調で御座います。あと数年…早くても、1年程度で目を覚ますことでしょう」
「そうか……。彼女も、あの男同様に我々の計画に重要な者なのだからな。丁重に扱え」
「……はい」
席に着いたリブラは唯一残ったアリエスに、あることを尋ね、順調であることを確認すると、光に照らされているアリエスも姿を消した。
「……もし、再び失敗してしまえば、我々にももう後はない。その時はあの男を殺し、彼女を人柱にしてしまえばいい。我々の計画が狂うことはないのだ。フフフ、フハハハハ!!!」
リブラは立ち上がりながら、大きく笑っていた。
*
プップー!!
夜なっても消えることない、ビルや街灯のネオンに照らされて、道の中心を走る大きな鉄の馬が大き音を鳴らして道を進む。
街の人達は楽しそうに言葉を交わすものもいれば、店の前で赤い服を着て客呼びしている若者達。そして黒いスーツに身を包む者や、肩を組みながら、覚束ない足取りで見るからに酔っている者達がワイワイと騒いでいる。
そんな遥か上空で、
「くっそ! なんなんだよあいつ!」
1人の魔族の男が翼を広げて飛んでいた。まるで、何かに追われているように……。
「あんな奴がいるなんて、聞いてねえぞ! この世界にはウィザードはいないんじゃなかったのか?!」
魔族の男がそう叫びながら飛行していると、
『ヒヒィーン!!!』
背後から大きな声と背後に迫ってくるようなが聞こえてくる。
背後を振り返るとそこには、月明かりに照らされながら手綱を引き、空気を切り裂き、空を駆ける馬の形をした塊が、馬車を引いてすぐそこに迫っていた。
魔族の男は必至に逃げようと、正面に顔を向けると、馬と馬車は容赦なくその魔人族のを轢き殺した。
魔族の男は、轢かれた時に魔核を破壊されたのか、光の粒となって空に消えた。
それを確認した馬車に乗り、手綱を引いていた男は、それを見届けると、再び鞭を打ち、誰も追いつけないような速度で、星が輝く空に消えていくのであった。
次回から4-1『暴走魔装と満たす思い』から4-2『霊感魔導師・チャリオット』に移行していきます。




