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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
蛇の少女と未来街の幽霊魔導師
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新たな誓い

 ソルガから解放され、クロエとの自己紹介を済ませた後、ソラを癒した湖の場所がある洞窟に向かう。


 その間、ソラ達は誰1人として話すことは無かった。


 ソラ達を案内する為に、前を歩くクロエにどうしてあんな事になったのかを少しずつ理解し始めているソラと隣を歩くコレットが続く。


 アンノーンはまた居なくなり、ソラの手には、いつのまにか握られていた怪物が描かれたクリアプレートがあった。


 隣を歩くコレットは魔装を解き、元の服装に戻っている。その手には布に包まれたお父さんと呼ばれるレインの折れた魔剣が握られていた。


 コレットは、何かを話す事はなく、俯いてただソラの隣を歩いている。ベッタリとくっ付いているわけではない。しかし、少し手を動かしてしまえば簡単に振られる程近くで、ソラと同じ歩幅で歩いた。


 ソラは何を話せばいいのかわからずに、コレットの顔を見ては、コレットも同じ様にソラに顔を見る。そして互いの視線が重なると両者共に顔を赤くして顔を晒していた。


(……若いわね……)


 前を歩いてるクロエは、そんな事を思いながら温かく見守るのであった。



 *



 洞窟に辿り着いたソラ達は、まずはコレットやクロエから説明をしてもらう事にした。


「私達は、倒れているソラを見つけたの」

「……そこの記憶はないな……」

「ほんとに! 死んだと思ったんだから!」

「ご、ごめんなさい」

「心配したんだから!」

「は、はい! すみませんでした!」


 そんな会話もあったが、どうやってここまで運んだのを聞くと、


『私が説明します』


 そんな声が聞こえると、コレットが光に包まれ、それが球となってコレットから分かれると、その輝きが増して人の形となった。


「ユニ?! お前、コレットから…へ?」

「それについても、これから説明するわ」


 コレットから現れたユニの話では、ここまで運んだのはユニらしい。それと何故か服を脱がしたのはコレットだという事も話した。その事にコレットは大変慌てていたが…ソラにはその理由がわからなかった。




 大体の説明が終わり、ソラは悔しさのあまり、手を強く握りしめる。


 自分の「死ぬ訳にはいかない」という思いが、自分自身の暴走に繋がってしまった事が、ソラにとって腹立たしい事なのだ。


「私がこうやってコレットちゃんの体から現れる事ができるのは、コレットちゃんとの信頼関係にあります」

「……信頼関係?」

「体外から私を取り込む事は余程の恐怖があります。それはもう、私の事を本当に信頼していなければね」

「……君を取り込んだってことは、もしかしたら、君も死ぬ可能性があったってことだよね?」

「……ええ。ありましたね」

「?!」

「ですが私は、コレットちゃんならそうしてくれると信じていましたから」

「ユニさん……」


 ユニは微笑みながら、今にも泣き出しそうなコレットを優しく抱きしめ、頭を優しく撫でた。


 その光景に暖かで和やかな雰囲気となった。


「……さて! 今日はみんな疲れたでしょうから、しっかり休んで、明日からの事は、明日考えましょ」


 クロエのその言葉と共に御開きとなり、ソラやコレットは余程疲れたのか、あっという間に眠ってしまった。



 *



 目の前、ガキが泣いていた。


 女性を強く抱きしめながら、涙を流していた。


 俺はガキの最も近くに居たはずだ。


 それなのに、それなのに!


 俺は雄叫びをあげる。怒りのまま、強く声をあげる。


 こいつがこんなに悲しむのなら、俺が代わりに生きてやろう。こいつが悲しむ前に、俺がこいつを……。






『覗いてんじゃ、ねぇぞ!!!』




 *



「うわぁ?!」


 突然の咆哮に驚いて、変な声をあげながら目を覚ますソラ。すぐに回り確認するも、周囲には誰も居ない。


 コレットやユニ、クロエはソラから離れて眠っており、ソラの声では目を覚ます事はなかった。


『次に俺を覗いた場合、すぐにお前の息の根を止める! いいな!』


 ソルガのそんな声が頭に響き、あの夢がソルガのものだとソラは知った。


 あの夢で出てきた女の子の姿を見る事は出来なかったが、女性を抱きしめいていた男性。姿は少し違えど、あの姿に見覚えがあった。


 あの姿は……


「アンノーン?」


 布を被っているアンノーンの時折見せる素顔だった。


「なあ。ひょっとしてお前って、アンノーンの魔核だったのか?」


 ソルガに対してそう尋ねてみるも、返事はない。というか、もうソルガの気配を感じなくなっていた。


 その事に気付いたソラは、再び眠ってしまおうと考えていたが、立ち上がり、洞窟の外の向かって歩き始めた。



 *



 現在は地上の方も本当に朝なのか、いつもより冷え込み、寒く感じてしまう程冷え切っていた。


 寒さに体を震わせながらも、軽く柔軟体操を行う。


 そしてその柔軟体操を終わらせると、ソラはリボルバーを取り出した。


 ソラはしばらくそれを見つめた後、片手でバレルを開き、クリアプレートをリボルバーの差し込み口挿入しようした時、手がガタガタと震え出した。


 カチカチと差し込み口の周りと、クリアプレートがぶつかり合い、ソラは徐々に息が荒くなり始め、嫌な汗が流れ始める。


 ソラはソルガがしていたことを全部覚えていた。


 魔物の体を、命を喰らい、さらにはその体を引き裂いた事への懺悔の気持ちと、それ以上にその残虐な事に対して、()()()()()()事に、強い嫌悪感と恐怖を感じていた。


 もしまた、同じような事を繰り返しまったら、どうなってしまうんだと考えてしまい、その事がソラの体を蝕んでいた。


 ソラは魔装を断念し、地面に腰を下ろす。


 呼吸を整えながら、流れ出てる汗を拭おうとした時、何か柔らかいものが、そっとソラの汗を拭った。


 驚いて振り返ってみると、ソラの背後で膝をつき、汚れるのも気にもせず、タオルを差し出しているコレットの姿があった。




「隣…いい?」

「あ、ああ。構わないよ。後、タオルありがとう」


 コレットからタオルを受け取ると、コレットはソラの隣まで移動して、腰を下ろした。


 ソラは受け取ったタオルで汗を拭う。コレットも何かを話すではなく、ただ隣に座っている。


 しばらく2人の間に沈黙が続く。そしてやがて、コレットからポツポツと何かを話し始める。


「ソラ…ごめんね」

「え?」


 コレットの最初の言葉は、謝罪であった。


「私の我儘で、ソラを巻き込んでしまった。私と関わらなければ、死にかける事は無かったし、ましてやそんな辛い思いをする事は無かったのに……」


 コレットの言葉には深い後悔と悲しみが含まれていた。それは、自分のせいでソラを傷つけてしまった事への後悔に他ならない。


 だからこそ、コレットは、「もう、こんな辛い思いをしなくていいんだよ」と、言うつもりだった。


 コレットはソラが沢山の痛い思いをすれば、それを見ているコレット自身にも、ズキズキと痛くなってしまうようになっていた。


 その痛みが何なのか、コレット自身には()()わからなかった。


「だから、もう……」

「その言葉を続けるなよ」


 言葉を言おうとした瞬間、ソラがその言葉を遮った。


「僕がここにいるのは、何も巻き込まれたからなんて、思っちゃいない。そう思っているのなら、早い段階で逃げる事だって出来たんだから」


 コレットを助けた事、王城での特訓時、そしてここに来ると決めた時、ソラには何もしない。逃げるという選択肢だってあった。


 だが、それをしなかった。


「僕は、自分で選んでここにいる。自分の為に、僕はここにいるって決めたんだ」


 ソラはタオル首にかけて、正面を見つめる。


 そうだ。僕は自分の意思でここに来たんだ。あんな後悔をしない為、もっと強くなるって!


「コレット!」

「は、はい!」


 ソラは隣いるコレットの両肩を掴み、無理矢理視線を合わせる。コレットはソラのその真剣な瞳に見つめられ、どんどん心臓の鼓動が加速していく。


「コレット。誓わせてくれ。今度こそ、僕は君を守る。だから君は心から笑っていてくれないか?」

「わ、笑って?」

「君の笑顔に救われる人がいる」


 ()()()()()……。


「だから、君は笑っていてくれ。ダメかな?」


 コレットはうるさく鳴り響く鼓動の音が漏れていないかと心配になりながら、嬉しい気持ちを込めて、


「……うん……」


 そう応えた。


 そして、自分の行動に気付いたソラは、顔を赤くして離れようとするが、逆にコレットはゆっくりと自分の瞼を閉じた。


 ソラは鳴り響く鼓動に合わせてゆっくりと、コレットに顔を近づけていく。そして後数センチと言ったところで、


『……ゴホン!』


 突如コレットからユニの声が聞こえ、2人は驚いて距離を取る。


 やがて、自分は何をしていたんだと頭を混乱させて左手で口元を隠す。それはコレットも同様で顔を手で覆い、顔を隠すようにソラから顔を晒した。


 そして、コレットからユニが現れ、ゴホンと咳き込みながら、


「そういうのは、もう少し大人になってからしなさい」


 2人はその言葉に返事を返す事は無かった。

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