王城へ呼んだ男
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「き、貴様は?!」
国王陛下に呼ばれ入ってきた者に慌てて後ずさる。
そして、入ってきた者も、グラトンがいることに対して驚きはするものの、なんだか納得したような表現に変わる。
「そういうことでしたか…相変わらずお人が悪い」
「ほほほ。まぁそう固い言うでない。キッド君よ」
現れた男・キッドと親しそうに話すクロスフォードの姿にいよいよ頭の回転が追いつかないグラトン。
それもそのはず。クロスフォードは今は亡き最愛の妻と娘を含めた家族達以外にはあまり心をお開きならないお方だ。そんな国王がたとえ国民を家族と思っていようと、一平民とここまで親しく話されることなど通常ではありえないことなのだ。
しかし、今目の前で2人は楽しそうに話を繰り広げている。さらにはその話に姫であるソフィまでも率先して話に加わる。
ようやく回り出した頭で現状を理解し始める。だが、それでも不可解なこともある。
「こ、国王陛下!何故この者がこんな所にあるのですか!?」
まさにそこだ。ここはクロスフォードが治る王都。国王であらせられるクロスフォードが一介の平民と親しくすることなどあり得ない!
「国王が平民と親しく話すことはありません!早くお離れください!」
国王の身を案じ、尚且つ国王にさらなる株上げをするべく、そう進言する。
これでさらに株が上がったと確信するグラトンだったが、そこで国王の言った言葉に衝撃を受けた。
「大丈夫じゃよモンテバーグ殿。彼は実のところ、娘の友人でな。昔、娘の命を救ってくれた者じゃよ」
「な!」
ということは、私は姫君のご友人のご友人に対して、酷い仕打ちをしていたことになる。そのことに次第に顔が青ざめていく。
そして、国王はさらに驚きの言葉を口にした。
「私もこの者を気に入っている。・・・実はまだ誰にも言っていないことなのだが…将来は孫のソフィと結婚させてやろうと考えておる」
その言葉にもう既に思考が追いついておらず、目の色を白黒させていた。
そんなグラトンの様子を見て、何かを思い出したように近づいていくキッド。
「いや〜、昨日はいきなり蹴ったりして悪かったな」
「へ?い、いや…」
「もう動いて大丈夫か?」
「あ、ああ…」
キッドに話しかけられたグラトンは余計なことを言ってしまわないか内心ヒヤヒヤな状態で歯切れの悪い返事を返す。
「キッド君よ。いきなり蹴ったとはどういうことだ?」
クロスフォードはキッドが謝罪したことを疑問に思い、問いかけるが、グラトンは逆に焦る。もし、それで今までのことがバレたりすれば大変なことになる。それを瞬時に理解したグラトンはどのように言葉を返すべきか悩み、言葉が出なくなる。
そんなグラトンのことに気づきもせず、
「ああ、実話ですね。きのふぐ!」
「ええい!少し静かにしていろ!」
あっさりと話そうとするキッドの口を急いで塞ぐ。
その行動に眉をひそめるクロスフォード。これは何かあると瞬時に理解する。
「いや、国王様!この者ことは気にする必要はございません!別に何かあったわけではないのですから!」
「・・・モンテバーグ殿。その手を離されよ」
「し、しかし!」
「私のいうことは聞けぬのか?」
クロスフォードから突然放たれる威圧に額から汗が滝のよう流れ始める。プルプルと震える手をキッドから離し、少し俯きながら後ろに下がる。
「そのまま少しその状態でいてくれ。・・・さて、キッド君。先程話そうとしていたことを話してくれるかな?」
「へ?あ、ああ、はい!」
キッドも、先程の威圧にビビったのかグラトンと同じく冷や汗をかいている。だが、グラトンと違い恐怖はそこまで感じることはなかった。
そして、キッドは昨日の店での出来事を事細かに説明していく。グラトンは倒れるのではないだろうかと思われる程汗を流す。
しかし、今動けば国王の命令に背くことになる。グラトンはキットが話している間、その場から一歩も動かず、見守るのだった。
「・・・なるほどな……」
キッドの話しを聞き終えたクロスフォードは思いため息を吐きながら、何か考えるように眉間を押さえる。
キッド達はそんな様子のクロスフォードを息を飲んで見守る。そして、クロスフォードの口が重く開き、
「グラトンよ。貴様に私は昨日あったことについて聞いた。かなり貴様との話に食い違いがあったようだが?」
「そ、それはそのものが嘘をついてるだけで!」
「ほう、嘘か?ならば、キット君が嘘をついていると?」
「そ、それは……」
クロスフォードの言葉に口を紡ぐグラトン。
「グラトン・モンテバーグ!貴様は我が国民を痛めつけ、さらには無理矢理金を払わせた!そんな者を許しておくわけにはいかん!」
クロスフォードは立ち上がり、強い威圧を放ちがら高々に言い放つ。
「衛兵よ!この者を牢にでもぶち込んでおけ!」
そう言って入ってきた3人の兵士が王宮の間に入り、グラトンを連れて行こうとする。グラトンは抵抗するが頭を強く殴られ、そのまま気絶し、2人の兵士に引っ張られながら部屋を出て行き、最後の1人が部屋の扉を閉めていった。
「・・・すまない。見苦しい姿を見せたな」
「い、いえ…かっこよかったですよ」
明日につきながら謝罪の言葉を口にするクロスフォード。それに素直な感想を返すキッドの言葉に不意に笑いが溢れる。
そして、その外を見て焦るような表情をするキッド。
「夕方!やっべ!そういえば途中できたんだった!それでは俺…私はこれで失礼します!」
そう言葉を残し、急ぎ足で部屋から出て行った。
「・・・相変わらず騒がしいのう」
「それがキッド様ですわ」
そう言って再び和やかな空気が流れた。
*
実は、グラトンを呼ぶように国王に頼んだ者がいる。頼んだ本人は、皿の破片で額から血を流してまで耐え抜いたソラが報われないのはおかしいと考えていた。
そのため、使いたくもない権力を行使してまでソラをあんな出来事から救い出そうそして奢ってもらったかりを返そうと。
作戦を上手く行き、この日からグラトンとソラが関わることはなかった。
それをした最大の功労者は……
「キリキリ動け!」
「早く運べ!」
「いや、あの!俺も色々あって忙しいんだけど!?」
「「さっさと働け、筋肉男!」」
「あんたらその言い草は酷いぞ!!」
今日も食堂の仕事をこなすだった。