魔装
レインが消えて、ソラ達が無力さに打ちひしがれている時、
「うわあぁぁぁぁああ!!!」
壁となっていた氷をぶち破り、青い髪の男がソラ達の上を通過する。
それがキッドだと気付いた時には、キッドは地面に落下してうつ伏せになって地面に倒れる。
パキパキ、パリンッ!
すると俺達を守っていたはずの氷が突然砕け散り、ソラ達の姿が露わとなる。と、同時にいつのまにか戦っていたカンナの姿が視界に飛び込んでくる。
カンナはらしくもない息切れを起こし、ボロボロの姿となっており、視線をこちらに合わせることなく、目の前の男、スコーピオンから視線を晒さない。
スコーピオンも、ある程度体が汚れてはいるものの、まだまだ余裕そうな顔をしている。
「・・・? お、その様子からして…やっとくたばったか!」
スコーピオンはこちらの様子に気付き、何故か嬉しそうな声を上げる。
「何度も何度も、面白くもないゴミ掃除をする俺の身にもなって欲しいってもんだよ。だが今回は、ちょっと面白い贈り物を用意してくれたんだから、これは存分に楽しまなきゃ」
「黙れ」
スコーピオンの言葉にかぶせる様に何者かの声が聞こえる。その声はソラから発せられた声であり、今まで聞いたことのない異様な声色だった。
「・・・おい小僧。貴様、今何て言った?」
「黙れって言ったんだよ、この野郎!」
立ち上がっているソラに誰に向かってそんなことを言ってんの?という意味も含めて睨めつけながら尋ねると、突如ソラから強い威圧が放たれ、言葉を返す。
その威圧は今までソラ感じていたものとは比べ物ならない程大きく、その威圧は、どちらかというとスコーピオンが放っていた威圧に似ていた。
しかし、感じ取ることの出来る威圧は、スコーピオンとは比べ物にならない程優しく、暖かいものだった。
「レインさんは、お前なんかゴミ扱いできるよな人なんがじゃない! レインさんは自分の命を賭けて、大切な人を守れる強い人だ!」
ソラの目元には未だに薄っすらと涙を浮かべながらも、レインをゴミ扱いしたスコーピオンを睨め付ける。
「そんな人を、お前みたいな奴がゴミ扱いしていい様な奴なんかじゃ無いんだよ!」
ソラから湧き上がってくる威圧が徐々に高まっていく。
その異様さに妙な汗が湧き始めるスコーピオン。
(この威圧の感じ…似ている。俺達にとって、最大の裏切り者に!)
それは金色の毛並みに身を包み、何百年も前に行方不明となった、十二星宮を1番最初に裏切ったあの者に!
「お前だけは、絶対に僕が倒す!!!」
その言葉を放った瞬間、ソラの魔力が突然膨れ上がり、ソラが放っている威圧を飲み込んでいく。そして、威圧と魔力が完全に混ざりあった時、放たれている二つが、一つの形を取り始める。
それは地面に真っ白な二本に足が着地すると、すぐに後ろの方に足が着く四足歩行。まるで白銀の様な真っ白な毛並みで全身を覆い、全てのものを喰い尽くしてしまいそうな強面の顔で大きな雄叫びを上げる。
『Gararaaaaaa!!!』
その地響きにも似た咆哮を上げるそれに、恐怖を浮かべる者、驚く者がいる中、たった一人…たった一人だけが、驚くことも恐怖する事もなく、嬉しく、そして安堵した表情をコレットは浮かべていた。
「レオーネ?! やはり貴様、レオーネか?!」
咆哮が終わり、一番最初に口を開いたのは、驚きの声を上げているスコーピオンだった。
スコーピオンは怒りをぶつける様に睨め付け、今にも襲いかかろうとする姿勢をみせる。
しかし、睨め付けられたそれは全く気にした様子を見せず、それどころか、
『おい、テメェ。誰と勘違いしてやがる』
「何?」
『俺はレオーネなんかじゃねぇ! 俺の名前は『ソルガ』だ! 二度と俺を誰かと勘違いしてんじゃねぇぞ!!』
ソルガと呼ばれたそれは、スコーピオンに対して『Gurururu…!!』と唸りを上げて睨め付ける。
全員が膠着状態になり、誰もその場を動けずにいた中、一番最初に口を開いた者は最も強い威圧と魔力を放ちながら、この状況に最も似つかわしく無いなんとも抜けた言葉を放つ。
「・・・そっか…ソルガって、お前のことだったのか……。というか、やっぱりあったんだな、名前」
『あるに決まってるだろうが偽物。俺はお前と違って、生きているんだからな』
「僕にもソラって名前があるんだけど……。まぁいい。とにかく、僕はあいつを倒す。ソルガは……」
『お前が俺の名前を呼ぶじゃねぇ。なんだ?力を貸せってか?』
「別に貸さなくてもいいよ。君から無理矢理奪うだけだから」
『大きく出たな偽物。俺からそう簡単に力を奪えると思ってるなんてな』
「あいつを倒す為だ。どんな力だった使ってやるさ」
隣り合う2人は、互いに喧嘩腰で語り合い、睨みを効かしている。そんな2人がゆっくり歩幅を合わせて少しずつ前に出る。
『どんな力…か……。グフフ』
「何がおかしい?」
『いいや、別に……。ただ、今回は特別に力を少しだけ貸してやろうと思っただけだ』
「どういう風の吹き回しだ?」
『別に、特に理由は無いさ。お前がここまで成長し、俺を具現化する程までに至った記念と、俺の事を誰かと勘違いしやがったあの毒虫野郎をぶっ潰すお前に、少しぐらいなら力を貸してやろうと思ったな』
「へぇ……。まぁ、理由なんてなんでもいいよ。力は借りる。ありがとう……」
『・・・。礼なんで言う! 気持ち悪い! 今回はお前の方がまだマシだと思っただけだ、このうつけが!』
「礼を言ったんだから素直に受け取っとけばいいんだよ、このアホ動物!」
本格的に睨み合いを始めた2人に、思わず全員が唖然となる。
『チッ!まぁいい。ところで、俺の力をどう使えばいいのか解ってるのか?』
「さあね。どうにかすれば使えるようになるだろう」
『それじゃあ、何千年経っても使える様になるのは夢のまた夢だな』
「何〜!」
『はぁ……。リボルバーの銃口部分を持って真ん中を折る様に山折りにしろ』
「「?!」」
「山折り…こうか?」
持っていたリボルバーを両手で持ち、ソルガ言われた通りにリボルバーをギギギ!っと折り曲げていく。
その中で、ソルガがやろうとしていることに気づいたスコーピオンは飛び出して、ソラ達を止めようとする。
「やめろ!!!」
『うるせぇ!!!』
が、それをソルガの咆哮が再び響き渡り、突撃してくるスコーピオンを吹き飛ばした。
スコーピオンは尻尾を地面に突き刺して、吹き飛ばされる勢いを抑える。
一方ソラは、リボルバーにどんどん力を加えていくと、ガチャリと外れ、銃の中心がずり上がり、中心の断面が露わとなる。
その断面には、銃の弾丸を通す為のバレルとその下に通常の銃にはない二つの差込口があった。
「・・・何これ?」
『持っている十字架野プレートがあるだろ?』
「え? ああ…これか?」
ソラが取り出したプレートを見せると、ソルガはうんうんと頷いて、次の支持を出す。
『そうそう、そいつだ。それを差し込んだみな。ぴったりはまる筈だ』
言われた通りに取り出したプレートを左側の差込口にプレートを差し込むと、ガチャっとぴったりに差し込むことができた。
「お〜」
『よし、後はそれを戻して、弾を撃つ時と同じ感覚でそこのトリガーを引け。それでうまくいく』
「これを戻して、トリガー…これだな」
ソラはバレル部分を元に戻し、グリップを握りしめていた人差し指を、引き金…トリガーにかける。
「よせ! やめるんだ!」
「いや、どうして敵の言う事を書く必要性があるの?」
『奴の言葉なんて気にするな。早くしろ』
「わかってるって」
ソラは銃を両手で持ち、引き金を引こうとすると、
「やめなさい、ソラ」
それを止める者がもう1人。
「引いてはダメよソラ」
「・・・カンナ……」
「それは危険な物なの。それを引いてしまったら、あなたはもう、戻れなくなるわ」
カンナが何かを知っている様に、制止をかける。スコーピオンにとっても、それは好都合であるが為に、彼女の邪魔はしない。
『チッ! おいソラ! さっさと撃て!』
「黙りなさい! ソラ、絶対撃ってはダメよ!』
「・・・」
2人は正反対の事をソラに支持する。
そしてしばらく考えたのち、
「ラベンダー、済まない」
「?!」
「俺は撃つ! レインさんの思いを、未来を、願いをゴミ扱いしたあいつを俺は許せない! でも、今のままじゃあ、あいつを倒す事は出来ないから!」
「・・・」
カンナはわかっていた。自分が何を言っても、もうソラは止まる事はないということを。
『絶対に僕が倒す!!!』
以前、トーラムが襲ってきた時と同じように、自分の心に決めた事を、ソラならきっと死ぬまでやり通すだろうと思っていた。
だから、その覚悟を決めたソラに、カンナはたった一言だけ言葉を口にした。
「・・・後悔しないように、死なないように、頑張りなさい」
「! ああ!」
ソラはカンナに強く返事をし、スコーピオンに対して引き金を引いた。
ドパンッ!
*
引き金を引いた瞬間、ソラの隣いたソルガが猛スピードで駆け出し、スコーピオンに向けて突撃する。
スコーピオンは尻尾や腕でガードの姿勢を取るが、ソルガ徐々に光の粒子の様な姿になると、丸みのあったスコーピオンの尻尾の一部を噛み千切り、その部分が消滅した。
粒子となったソルガは、スコーピオンの一部を噛み千切った後、その脚で空を駆け、その周りに次第何か二つの物が作り出されていく。
何かを作り出したソルガは空を駆けたのち、ソラに向かって飛来した。
しばらくソラの周りを光の柱が覆い、周囲を明るく照らした。そして直ぐに、その光の柱が弾け、ソラの姿が露わとなる。
その姿は、先程着ていた服の上にかなり黒よりの青い長いコートをなびかせて、両腕にはコート袖の上から青色の小手をつけ、白い手袋を付けている。両足には黒色のそこまでゴツゴツしかない鎧ブーツを履いていた。
周りにはコレット達が以前見たソラが武器として戦っていた盾が二つとなって、ソラを守る様に浮かんでいた。
《魔装》
それは魔導の中で唯一にして絶対の魔法。
1人の人間の全てを鎧として身に纏い、その人本人の力を100%引き出ことができる、魔導の中で唯一、未完成の完成系魔法であった。
黒い髪となったソラは、その青い瞳でスコーピオンに視認し、宣言した。
「スコーピオン! これから、お前ぶっ倒す!」
魔装について補足します。
魔導の中で魔装という魔法は既に完成されている。
しかし、人によって属性やスタイル、特徴などがバラバラとなっており、さらには、際限なく変化や進化を行う為、魔装そのものを未完成と位置付けつつ、一つの完成された魔法である。




