魔の極意
部屋を出たソラたちは、城の廊下を走る。
その途中で、多くの兵士達が姿を現わすが、その殆どをキッドが薙ぎ倒し、そのお零れをソラの魔法で凍り付かせる。死なないように、首から上は凍らせていないが、さして支障はないだろう。
「それにしても、いつの間にそんなに魔法が使えるようになったのかしら?」
「さあね、俺もいつのまにかとしか言えないからな。取り敢えず、目が覚めてから威力が上がったんだ。今も、威力をかなり抑えているけど、十分でしょう」
「かなり…抑えている…ね……」
その言葉を聞いたカンナは、正直言葉が出てこなかった。
かなり抑えている。人の体を完全に凍り付かせて動くことすらままならない絶対零度を、実力の半分も使っていないということにもはや呆れて言葉が出ない。
「でも、この力のコントロール…調整にに時間がかかってな」
「・・・コントロール?」
「そ。水が入った3×3に並べられたカップの内、真ん中とその右隣、左下と左下の4つを凍らせる特訓。いや〜、大変だった」
そんなことを言いつつ、うまくいかなかった時のことを思い出して思わず苦笑いが出てしまう。
「あなたねぇ……」
「面目無いっす……。でも、心構えみたいなものは教えてもらったから」
「心構え?」
カンナは言葉の意味がわからず、問いかけようとするが、前の方からキッド吹き飛ばしたの兵士が飛んでくる。
それに気づいたソラは兵士を壁の方に押し、そのまま兵士を他の者達と同様に凍り付かせた。これで何度目かの光景である。
「なんだか、手馴れてるね」
「今日初めてやったんだが、思いの外上手くいってるから正直気味が悪い」
「それ、自分で言う?」
「アハハ……」
「もう…ところで、心構えってどんな事?」
「はあ? そんなのお前らがいつも魔法を使う時にやってる『魔法に心を込める』っていう工程だよ」
「え?」
「はあ?!」
ソラが言った言葉に2人は驚いた。
「? 俺、変なこと言ったか?」
「い、言ったというか…その〜……」
「・・・まず、魔法を使うのにそんな心構えは必要ないわ」
「え? そうなの?」
「魔法はそもそも、人が認識した自然や現象を人の心を通して魔法という形で構築されたもので、そこに人の心を込めたところで魔法が発動されることはないわ」
「でも、俺は発動出来てるよ。それに、古代都市にあったマンガだったか? あれにも、感情の高ぶりによって強いもの、弱いものがあるけど…それも違うってこと?」
ソラの魔法知識は、学校で習うったとカンナから教わったことともう一つ、古代都市にあった二次創作と呼ばれるものが魔法に対する地盤となっていた。
その知識から、コントロールが可能となった魔法は他の魔法とは比べ物にならない程、強力なものとなっていた。
「ソラのそのやり方がなんなのか、私にはわからない…けどそれは、この世界で魔法と呼べるものでないわ」
それはこの場の空気、そして俺達の歩みを止めさせるのは十分な理由だった。
「・・・じゃあ、俺が使ってる魔法って何なの?」
「・・・今あなたが使っている魔法は、全ての魔法の到達点であり、完成された魔術。指で数えられる程度しか知らないそれは、『魔導師の完成された魔法』という意味を込めて《魔導》と呼ばれている伝説上の魔法よ」




