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6/27・一部編集しました。
「居たか?」
「いや、こっちには居ない」
「向こうを探せ!」
彼らは先程まで追いかけていた者達が突然いなくなり、兵達は慌てて捜索を開始するが、見つける事が出来ず、さらに捜索範囲を広げ、再び捜索を開始した。
「・・・案外バレないもんだな。咄嗟に近くにあった部屋に隠れただけだってのに」
「人というのは、心理状態が不安定であればあるほど、周りには目がいないのよ」
「へぇ〜」
扉の隙間から外の様子を伺いつつ、ゆっくり、音を立てない様に扉を閉める。
俺達がいる部屋は王城にしては少し手狭であるが、ここにいる全員が余裕で入れる程、かなり広い目の部屋である。
この部屋に入る直前に、コレットとエリーゼさんに泣きながら抱きつかれたの言うまでもない。
その時に1つだけ約束をしてこの部屋に入った。
この部屋にいる者は、各々別々のことをしている。
エリーゼは余程疲れたのか、地面に座り込んで休憩を取っている。
ライトは休息を取るよりも、俺がここにいることの方に驚き、驚愕の表情をさっきからずっと浮かべている。
その顔をしてる方が疲れないか?
何故かいるリシア先生は、氷漬けにしたものの、そのまま置いておいたら怪しまれると思って一緒に連れ込んだ名も知らない魔族に見て、ブツブツと独り言を呟いている。
確かに、以前から研究熱心な人で、優しいと人気のある先生でもあるけど、その研究熱心さで恋愛の方はトントン、いやマイナス方面に補正がかかり、このまあ行けば結婚も……。
「頑張ってください! 先生!」
「え?! は、はいてない頑張ります?」
思わず言ってしまった言葉に先生も驚きながらも律儀に答える。
その後、すぐさま隣にいたラベンダーが俺の頭を殴り、全員から不思議がられた。
そして、コレットは背中を切られたキッドの容体がかなり良くなったのか、起き上がって話ができるまで回復している。
「それじゃあ、あんまり時間もなさそうだし、ソラが今日まで何があったのか、話してくれないかしら」
「ああ、いいよ。俺も、聞きたいことがあったからな。情報交換といこうや」
ラベンダーが今日まで何があったのかを尋ねて来たので、俺は口角を上げて、話し始めるのだった。
*
「はあ〜〜〜……」
話を聞き終えたソラは、大きなため息を吐いて深く後悔する。
それを見ている者は呆れたり、苦笑いを浮かべている。
「上の方がやけに騒がしいから、もしかして敵襲?!って思ったから牢屋から飛び出してみれば、まさかそれがお前らだったとは……」
「だ、大丈夫だよ! 人間誰だって勘違いするんだから気にすることないよ」
落ち込んでいるソラをコレットは励ます。カンナからすればいつもの光景ではあるが、それを羨ましそうに見つめる約2名と、呆れている役3名。
「ゴホン。では、話をまとめます。事の発端は1ヶ月前、こなんさん…いえ、コレット様が魔族に襲われている皇王を目撃し、身の危険を感じ逃走。それをソラ君が救出した」
「同性愛者疑惑浮上」
「やめなさい」
「・・・2日間の安静の後、カンナさんと出会い、姫様を捕まえようとしていた魔族と接触。それを撃破した」
「その後は、1ヶ月の特訓ののち、ゴブリン討伐クエストで魔族と再び接触、これを相討ち覚悟で撃破したんだが……」
「何故か生きていると」
「そ。で、俺が1週間眠っている間に無事に王都へ帰還。皇国にいるという情報を得てこっちに来たという訳だな」
「ええ。そしてあなたの方は、何故か特訓をする事になった…ということね」
「まあ、そういうことだな」
経緯と状況について語り、そして互いに納得
「するわけないでしょ! 私達が大変な目にあってるってのに、何呑気にお風呂なんて入ってるのよ!?」
「俺が知るわけないだろ! 俺だって、気絶してる間に勝手に投げ込まれたんだぞ!」
「ま、まあまあ、ソラも、エリーゼも落ち着いて」
「そうだ2人とも、今は喧嘩をしている場合じゃないだろ」
ソラとエリーゼが互いバチバチと睨み合い、それをコレットとライトが止めるように諭し、落ち着かせる。
大人達はソラ達を止めるどころかそれを無視。大人達でさらに会議を進めていく。
「やはり、気になるのはレインと呼ばれる男でしょうね」
「そうですね。おそらく、実力は宮廷魔導師クラスでしょう」
「やっぱり、そう思います?」
「ソラ! まだ私の話は終わってないわ!」
「なんだと!」
「2人とも落ち着いて!」
徐々にヒートアップしていく2人をコレットは一生懸命止めているが、ライトは既に諦めていた。
「でも、なんで特訓なんてさせる必要があったのでしょう」
「そこが1番の謎なのよね。ソラ、何が知ってる?」
カンナは先程まで喧嘩をしていたソラ達の方へ振り向く。
「メ!」
「はい…ごめんなさい」
・・・今の数秒の間に何があったのか、先程まで喧嘩をしていた2人は地面に座らせ、コレットに可愛らしく叱られていた。
私達は何があったのかと呆れつつ、ソラに事情を聞いた。
「ああ、特訓? まあ、俺もその理由まではわからなかったけど、何が狙っているようではあったよ」
それだけ聞いたも、カンナ達にはレインの目的はわからない。余計に頭を悩ませてしまう。
「まあとにかく、俺も牢屋から抜け出したら色々やりたいことがあったし、ちょうどいい」
「やりたいこと?」
「ちょっと、気になることがあってな」
そう言いつつ思い出されるのは、特訓を始める前のことだ。
『……2回目の朝日までにこれが出来るように……』
(あの野郎、こうなることがわかっててああ言ったな……)
ソラは、特訓のルールとアンノーンの事だけは皆に伝えなかった。
理由は、特訓に失敗したということと、何者かよくわからない奴のことを話して、混乱させる訳にいかないと判断したからだ。
その事を考えると、自分の力の無さに、少し凹んでしまう。そう思っていると、部屋にあった棚の上のあるものを発見する。
「確かに、あなた達はともかく、私と姫様にはここに来る目的があった。これ以上巻き込む訳には」
「俺はいくぜ。ここまで来て除け者は無しだ」
「なら生徒達は私と一緒にここに残って、3人の帰りを待ちましょう。3人の実力なら、すぐに戻って」
「俺もいく」
その言葉を言ったのは誰であろう、今この部屋にあったある戸棚の近くにいたソラであった。
ソラはでどういう訳か戸棚の上にあった水を9つに並べて注いでいる。
「俺が特訓をしてたのは、ここに来ることが第一目的だった。だから、俺としてはこのままラベンダー…カンナ達と行動している方が都合がいい。たとえ、こいつが俺を出し抜こうと思っていてもな」
その言葉に反応したのは、カンナであった。
カンナは元々、ソラをこの皇国には連れて来るつもりはなかった。
ソラ本人の才能の高さ、成長速度は眼を見張るものがある。が、それでも実践経験が足りない。だからこそ、ここに連れて来るつもりは元々無かったのだ。
「俺はあんたらに付いていく。そこは譲れない」
「・・・わかった。いいわ」
「カンナさん?!」
「ただし、勝手なことは絶対にしないこと。そして、姫様を必ず守りなさい」
「了解!」
キリッと敬礼すると、こちらに向けていた視線を棚の上に戻した。
「だ、大丈夫なんですか? 彼が付いて行って」
「今のは、何故以前より実力がある。ある程度のものならソラでも対処できるでしょう。ですので、残りの2人をお願いします」
「そ、それは構わないのですが……」
「ダメですよ! あんな奴を連れて行っても足手まといですよ!」
リシアはソラが付いて行くことに、不安ながらも納得するが、それを否定したのはライトであった。
ライトはこの中で先生やキッドには劣るが他の2人よりは役に立つことのできるとそう思っていた。
だからこそ、納得がいかない。
自分でなく、何故ソラを連れて行き、コレットを守る事が出来ないのかを…。
「あいつより、俺の方がずっと優れてる。魔法も、剣術も、あんな奴を連れているより、俺の方がずっと役に立ちます!」
「・・・本当に?」
「はい!」
「怯えて動くこともできなかったのに?」
ライトはその質問の意味を理解できず、首を傾げる。
「さっき、私達の前に立って、彼から私達を守ろうとしたわね」
「そ、そんなの、当たり前じゃないですか」
「でも、自分が死ぬと思ったら怖くなった」
「?!」
「キッドが斬られ、倒れた。あなたは咄嗟に前に出て私達を守ろうとした時、今度は自分が殺されるのではないかと考えたら、怖くなった」
「・・・」
「殺される。そう思った君は恐怖で体が動かなくなり、戦意が完全に喪失した。だからこそ、あいつはあなたを襲う価値すらなかった。そんな意思のないあなたに、背中は任せられないわ」
実際にその通りであったが故に、その言葉を否定する事ができなかった。
だがそれでも食い下がる。
「ならソラは? 何故彼を連れて行くことは許すのですか?」
「ソラはあなたと同じ状況になっても、臆さず戦ったからよ。あなたとは違う、力も何もないソラはね」
カンナはその言葉とともにあの日のことを思い出す。
怖くて、震えながらも必死に立ち上がったあの姿を。
「力が無くても、あの子きっと戦えるのよ。死ぬことに恐怖して動けなくなったあなたと違ってね」
そう言われたライトは棚の前にいるソラを睨め付ける。
「・・・よし。やっと出来た。・・・? 何かようか?」
何かに喜んでいるソラは睨み付けられていることに気づき、疑問感じつつ言葉を返す。
ライトはソラを睨みながらぎりっと歯をくいしばる。
「・・・俺は」
「ら…カンナが何を言ったか知らないが、俺に文句を言うのはお門違いだろう」
「!」
「お前らはいつも言っただろ。力の無い落ちこぼれだと。今回はお前がそれを言われる立場ってだけの話だ。良かったな。命を奪われるまでの心配はしなくていいんだから」
ソラは、目の前にいるライトをこれは報いだと思いながら見ていた。ライトは、ライト達は自分より下の者の事なんてこれっぽっちも考えてなかったのだろう。
下の者の気持ちや、そんな暗闇から這い上がろうとする者の気持ちなんて考えた事がなかったのだ。
だからこそ容赦なんてしない。
「後悔しろ。どれだけお前らに虐げられてきた人達がいたのか、惨めに思っていたのか、しっかり考えて、後悔してろ。この偽善者共」
その言葉は、多くの者が低脳な存在として扱われ、怪我をして、殺されかけて、それでもなお這い上がったソラだからこそ、言える言葉だった。
それを言ったソラは、もうライトに目すら合わせる事なく、ライトを横切って、扉に向かった。
落ち込んでいるライト。だが、ソラの気持ちを理解出来る為、全員が全員、どの様に声をかければ良いのか、戸惑ってしまう。
「ホプキング。聞くだけ聞きなさい」
「・・・」
「ソラはいつも、学校や学校外でも、今のあなたと同じ…いえ、それ以上の仕打ちを受けてきたわ。その中には、命を奪いかねないものまであった」
「?!」
「でもね。あの子はそれでも、それに立ち向かって、それで学校外の人達から少しずつ認められていったの」。だからこそ、今の言葉には重みあるのよ。それを理解して、深く考えなさい。あなた達、魔法を使える人と、魔法を使えない人がどんな思いで暮らしているのかをね」
カンナはライトの肩に置いていた手をそっと離し、部屋の外に出る準備を整えるのだった。
「・・・チクショ……」




