それぞれの
風呂から出た俺をずっと待っていたのか、レインさんが着替え終わった俺の首根っこを引っ張って地下牢に連れ戻された。
まあ元々こっちの戻ってきて、また再開しようと思っていたから、別に構わなかったのだが……。
戻ってきた地下牢では、先程まで、すっかりと冷え切っていたのに、今ではかなり暖かくなっていた。
よく見てみると、いっぱいの焚き火があり、冷え切っていたこの地下牢を暖めていた。
俺は、自分が入っていた牢獄に戻され、再び特訓に取り掛かろうとすると、
「あ、そうだ。忘れておりました。ソラ様、今から少々お休みになってください」
「え? いや、俺ならまだやれる」
「消費している魔力を回復させるためでございます。ですので、しっかりとお休みください。こちら、毛布になります」
「あ、これはご丁寧にどうも…って、そう言うことではなくてですね」
「それでは失礼いたします」
「え、あ、ちょ、ちょっと待って! ねぇ!」
淡々と休憩を言い放つレインさん。上に戻る際、地味に特訓で使っていたカップを持っていたので特訓を続けることができない。
俺はレインさんからいただいた毛布に包まり、体を冷まさないように横になる。
「・・・残り時間は、僅かか……」
俺は特訓の残り時間を考える。
朝日までということは、それまでに終われば、それなりに時間があるはずだ。
サウナであったあの男の人。
あの人はきっと、コレットのお父さんである皇王様だ。
操られている可能性を少しでも考えて、尋ねることはしなかったが…というか、色々怖くて聞けなかったが、おそらく操られたいはないだろう。
ならば、特訓が終わったら確かめればいい。そのくらいの時間ははあるだろう。
・・・それに、確かめなければならないこともあるしな。
そう思いつつ、重くなった瞼を閉じ、しっかりと体を休ませるのだった。
*
皇国間近なところで、かなり早い野営を取ることにした。
エリーゼとはすっかり仲良くなったものの、やっぱり迷惑はかけられないから、私の名前は伏せておくことにした。
現在は、リシア先生に魔法のわからないところを聞いて、勉強をしている。
ホプキングさんも同じように、キッドさんに剣術を習っている様だった。
「明日、皇国内に入ったのち、すぐに城へ向かいます。その為には最大の問題をクリアする必要があります。それは……」
「私をうまく隠し通せるか、ですよね?」
「・・・はい、その通りです」
4人から少し離れたところで、明日の予定についての話をしている。
どうやって、城内に侵入することについての話となり、悩んでしまう。
その最大の問題は、私自身である。
皇国から犯罪者として追われている私が、自らその中心に向かうことは自殺とも取れる行為だ。
でも、そうでもしないと、彼を助けることはできない。
河原で凍りついていた場所にいなかった彼。カンナさんから聞いた話だと、皇国にいると聞いた為、私自身が直接確かめたい。
その為にはまず、騎士達の検問を突破しなければならない。
そのことを考えると、あの日のことを思い出す。逃げ出した私に襲いかかるあの騎士の姿が……。
「・・・?!」
「・・・」
・・・こわい……。
怖くて怖くて、思わず体が震えてしまう。
こわい。
こんなこわいのに…自分が死んじゃうかもしれないのに……。君は、私を、そしてエリーゼ達を守る為に戦ったの……。
君は、こんなのにこわいのに…どうやって立ち向かったの……。
『・・・にぁ〜〜……』
「え? にぁ〜?」
「そ。こうやって、にぁ〜って気の抜けた声を出すとね、緊張が途切れるのか気持ちが楽になるんだ」
緊張していた私は、少し前にソラとそんなことを話していたのを思い出す。
そういえば、そんなことを言ってたっけ……。
「・・・ふふ、ふふふ」
そんなことを思い出して気が抜けたのか、思わず笑みが漏れる。
緊張で張り詰めていた糸がゆっくりと解けていき、苦しかった心がどんどん晴れていく。
「・・・もう大丈夫みたいね」
「はい!」
柔らかな表情で尋ねてきたカンナさんに、大きな声で返事を返した私には先程の様な恐怖はない。
私達は中断していた作戦会議を再開するのだった。
*
「・・・私ができる手は全てうった」
「だがやはり、最後の手段は、死をもって完成させるしかない」
「それが、最後の術式となれば良いが……」
様々な思いが交差する。
様子を伺う者、救おうとする者、目的を果たそうとする者。
そんな彼らに待ち受ける結末とは……。
『それでも、あの者達が死ぬことは避けられない。さてさて、君は未来にどんな影響を与えるのかな、ソラ』
全てを見通した様に布を被った男が鼻歌を交えながら空をポン、ポンっと跳ねる様に闇に消えていくのだった。




