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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
目覚めの獅子
76/246

成長の速度

6/27・一部編集しました

「・・・なあ」

「何ですか?」



「どうして、牢屋で特訓なんてしてるわけ?」



 俺が目を覚ました深夜。


 首輪を外されたと思えば、何故かいきなり、魔法についての特訓をすることになった。


「あなた様は魔法をただ力任せに使っている…最近まで、魔法を使えなかったのでしょうか?」

「?! な、なんでそれを?!」

「見ていればわかります」


 何も知らないレインさんにあっさりと言い当てられ、動揺を隠せない。


 確かに、俺は魔法を覚えたばかりで、使い手から見たらまだまだだけど…それでも、1回見ただけでそれがわかるって…ひょっとしてこの人、ラベンダーと同等、もしくはそれに近しい人ってことか?


 そして思い出されるコレットの話。


 コレットは言っていた、宮廷魔導師さんがコレットのお父さんに魔法をかけていたと……。


「・・・」

「・・・?」

「♪」


 持っていた本に目を落としていたレインさんが、俺の視線に気づき、こちらに視線を向けるが、険しい表情から気持ち悪いほどのキラキラとした笑顔に変わる。


 その表情を見たレインさんは少々引き気味に笑い、身を寄せている。


「と、とにかく、あなた様には魔力のコントロールを学んでいただきます」


 そう言いながら取り出し始めたのは3×3に並べられた9つのカップだった。


「・・・カップ?」

「今から行っていただくのはこのカップの中身を凍らせていただく特訓でございます」

「それって、結構簡単なんじゃないの?」

「いえ、これ全部を凍らせるのでなく、この中身だけを凍らせていただくのです」

「中身を?」


 そう言いつつ、レインさんはカップに水を注ぎ始める。


「あなた様に凍らせていただくのは、この水でございます」

「この水を?」

「はい。ただし、凍らせるのはこちらの4つでございます」


 レインさんが刺したのは9つの中心とその右隣、左斜め上とその列の1番下である。


「・・・これだけですか?」

「はい。これだけでございます」


 それを見た俺は正直、やっぱり簡単だと思った。


「ですが、まぁありえないと思いますが、簡単に終わっても特訓になりませんので、2つだけルールをつけましょう」

「ルール?」

「1つ目は、この4つに触れることなく、同時に凍らせること。そして2つ目は制限時間。始めてから2回目の朝日までにこれが出来るようになる。それがルールです。この2つのルールを守り、クリアすることが出来たなら、この牢獄から解放させてあげましょう。すでに、王からの許可は、得ているので遠陵なく取り組んでください」


 その話を聞かされて、少し気持ち的にも楽になった。

 レインさんが言ったルールでも、やはり出来そうだなっと思って、縛られている両腕で体を伸ばす。


「それでは準備が出来次第、お好きな時に始めてください」

「・・・よっしゃ!」


 気合いを入れた俺は、早速特訓に取り掛かる。


 しかし、わかっていなかった。


 この特訓がどれ程大変な特訓であるのかを……。



 *



 地下牢に響く足音が俺のいる牢屋に向けてやってくる。


「かれこれ数時間。夜が明けてしまいましたが…いかがですか?」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 言葉を返しきれない程、ガタガタと体が震え、魔力を消費し、疲弊していた。


 特訓を開始して早数時間。朝日が昇ったらしく、残り時間が後1日に迫る中、全くと言って進展がなかった。



 *



 何から何まで、全てに進展がなかったというわけではない。開始した当初に比べれば、少しはマシになった程度である。


 最初に水を凍らせようとした時、カップを含め、その辺一体を凍りつかせてしまった。その威力にドギマギしてしまうが、すぐにレインさんが喝を入れられ、落ち着きを取り戻す。


 そして凍ったカップをレインさんが溶かし、特訓を再開する。


 が、またカップを凍りつかせてしまい、再び溶かしてもらった。


 3度目の挑戦をしようとすると直前、3度目も同じようになるのではないかと思い、何かコツのようなものがあるないのかレインさんに尋ねてみるも、「流れを理解して、力の入れ方を工夫したください」と言われるだけでそれ以上のヒントはない。


 その為、やはり3度目も失敗して、その後の4回目、5回目も当然失敗。


 こうなったら、魔力が尽きるまで何度もやってやろうと思った俺は、とにかくやり続けた。


 そうやって繰り返していくうちに少しづつ変化があった。それが謙虚に現れたのは何十回、いや、もしかすると100回目に到達しようとする少し前だったかもしれない。


 先程比べてそこまで凍っていない。その一面を凍りつかせていた俺の魔法が、現在は並べられた9つのカップだけが凍りついていた。


 それを見た俺は、最初に魔力が尽き始めたと思った。その為、その次は少し時間をかけて魔力を練り、先程と同じ様に凍りつかせる。


 だがやはり、凍りついたのはカップだけ。しかも今回はカップの表面から内側の中心のみが凍りついていた。


(・・・ありえない。なんだこの成長力は……)


 この特訓を見続けていたレインは、ソラが見せる異様な成長スピードに驚きを隠せずにいた。


 力任せに魔力を使い、コントロールのコ文字も出来ていなかった奴が、だった4、5時間程度でここまでのコントロールをできると思っていなかった。


 ここまで出来るまで、正直()()()はかかると踏んでいた。


 だがどうだ。結果は予想以上。このままいけば、あっという間に……。


「少し席を外します。わたくしが戻ってくるまで、続けていてください」

「は、はい」




 もしかすると、このまま成長していけば、あるいは……。


 城内を歩くレインは、そんなことを思いつつ、ある場所に向かう。その表情は真剣そのものだった。


 そして目的の場所の扉の前までやってきて、その扉を叩く。


「入れ」

「失礼いたします」


 そうして入室した部屋には、この国の皇王と、その奥方が、椅子に腰掛けていた。


「・・・まだ、起きてなさったのでね」

「いや、早く目が覚めてしまってな。今し方起きて、話を弾まじていたところだ」

「もしかしなくても、濃密なお時間のお邪魔でしたか?」

「そんなことはない」

「それにそれは、今日の夜に濃密で()()夜を過ごすわ〜」

「あはは……。ほどぼとに……」


 凛々しい顔をした皇王は美しいもほんわかした皇后様のとんでも発言に顔を赤くする。

 レインはその様子に慣れている様で、少々呆れ気味に言葉を返した。


 和やかな雰囲気の中、皇王の大きな咳き込みで場の空気が引き締まる。

 そして大きなため息を吐いて本題に入る。


「それでは報告を」

「は!」


 レインは片膝を地面につき、敬う様に報告する。


「牢獄に捕らえている少年、ソラは、やはりこの城のこと…我々、魔族の者達のことを知っていると思われます。そして、それを悟られまいとしています」

「この城の事情を知っており、それを知られまいとする少年か……。()()()()であるガルドくんを討ち取ったと聞いた時は少々興味が出たが…この国の事情をそこまで知っているとなると……」

「やはり、あの子が?」

「はい。おそらく、行方不明とされているコレット様から聞いた者だと思われます」


 それを聞いた皇王は少し悩み、


「ではやはり、()()()()()()()()()()()



 *



 そこからかなりの時間が経ち、地下牢に戻ってきたレインが目の当たりにしたのは立つことも動くこともできず、ガタガタと震え、凍傷となりかけて倒れているソラの姿だった。


 呼吸も魔力切れからか、かなり荒く、返事も返すことができない。


 レインはそんなソラ近づき、身につけていた剣を引き抜き……




 ズシャ!




 そのまま倒れているソラに突き刺した!

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