皇国への道のり
あれから私達3日かけて王都の国境を越え皇国の領土に入っていた。
空気はかなりギスギスしている。私が原因で……。
1日目
旅立った初日は、馬車の移動ということもあり、かなりの距離を進むことができた。
その日の晩、堅苦しさを無くす為に自己紹介を使用とライトと呼ばれる人が言い始めた。
「俺はライト・ホプキング。王都魔法学院5年の1組のクラス委員をしている。困ったことがあったら気軽に声をかけてくれ」
「え、えぇ。よろしくお願いします……」
ホプキングさんが自分の自己紹介か終わると、おそらく私に対して、手を伸ばしてきた。私は嫌々手を握り返すと、持ち前の笑顔で笑う。
「それじゃ、次は私かしら。私はエリーゼ・フィーリス。魔法学院の理事長であるアリシアの娘です」
そういう風に挨拶を済ませると、私の鯖まで来て、ホプキングさんと同じように手を差し出した。
「・・・よろしく」
「・・・はい、よろしくお願いします」
手を握り返し思ったことは、この人とはなんだか仲良くなれそうだと思った。
「ではキッドの前に私が。リシアです。学校で先生をしています。エリーゼさん、ライトくん。不甲斐ない弟が迷惑をかけてしまって、ごめんない」
「不甲斐ないってなんだよ!」
「不甲斐ないと言ったら不甲斐ないのです。聞きましたよ。あなた、みんなの2日目の食料を食べそうじゃないですか?」
「な?! どど、どうしてそれを?!」
「皆様から聞いたのです。全く、あなたという人は!」
そこから弟へのお説教が始まり、重かった空気が緩和され、みんなから笑顔が溢れる。
そして、キッドさん。何故かこの人はあまり自分を語らなかった。
そして私の番となり、
「私は、こ」
「ゴホン!」
名前を名乗ろうとして、カンナさんの大きな咳でそれを中断される。
しばらくこちらを見ていたカンナさんと見つめ合い、危なかったと自覚する。
皆さんは、現在の皇国の状況を知らない。だからこそ、皆さんにこれから向かう皇国のことを知られてはならない。
況してや、魔族に侵略されたなんてこと…知られてはならない。
「え、えっと…どうしたんですか?」
「・・・いえ、なんでもありません。自己紹介の続きでしたね。私の名前は《こなん》です。よろしくお願いいたしますね」
「あ、ああ。よろしくね、こなんさん」
私が笑顔で返すと、ホプキングさんは顔を横に晒し、私と視線を合わせないようにする。
(ソラ曰く、ホプキングは殆どの女の子を一目惚れ落とす『魅了人』なんて呼ばれているけど…これは逆に落とされたかな……)
カンナさんが手で口元を隠し、何かを考えているのがわかるけど…何を考えているんだろう……。
そして、カンナさん番となり、今度は全員と数秒間の握手して、自己紹介は終了となった。
そして、今日は早く休む為に、就寝した。
その時に、
「ホプキングには、ソラが言っていたように《無自覚魅了》という最低なスキルが備わっていたわ」
という最低なことを聞いた。私は、彼に対して強い嫌悪感を抱き、怒りを露わにする。
でも、今ここで怒ってもどうにもならないので、落ち着く為に眠りにつくことにした。
「・・・でも、そんな魅了が効かないなんて……。もしかして、誰か好きな人がいるのかしら……」
耳元で私にだけ聞こえる声で言った言葉に、先程とは逆の理由で眠ることができなくなり、真っ赤になったであろう顔を手で覆うのでした。
2日目
正直、かなり眠いです。
あの後、なかなか寝付けることができず、今も油断してしまうと眠ってしまいそうになります。
私は、カンナさんを睨め付けると、カンナさんは少し申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げていた。
馬車で移動していると、今日は昨日と違って魔物に襲われた。
魔物は、スライムやゴブリンと言った、強くはないが、危険な魔物達だった。
この中で誰よりも怯え、怖い表情を浮かべたのはエリーゼさんだった。
「あいつが…あいつらがいなければ……」
そう呟くも、ものすごく怖いのか、体はすごく震え、目はかなり血走っていた。
私は立ち上がると矢に手をかける。
「こなんさん! ここは俺に任せてくれ!」
そう言って飛び出して行ったのは、誰であろうホプキングさん。馬車の後ろでは既にキッドさんが降りて、戦闘準備を完了させて対応していた。
私は前の方に行って周りを確認する。
「スライム:前方および後方に1。
ゴブリン:前方に1、後方に2。
後方に対しては、既にキッド対応中!ホプキング、ゴブリン及び、スライムに苦戦中」
馬車の手綱を握っているカンナさんが自分の足に肘をつけてそう言った。
私は持っている弓矢を構え、前方にいるスライムとゴブリンに向けてな矢を放つ。矢は見事にスライムとゴブリン直撃し、2体は見事に動かなくなった。
私が見事に射抜いた2匹にホプキングさんは腰を抜かし、地面に座り込み、近くにいたエリーゼさんとリシア先生は目を丸くして、私より早くゴブリン2匹とスライム1匹を倒してしまったキッドさんはおお!っと驚きの声が上がる。
そんな中、カンナさんだけはさも当然と言うように移動を再開する為、外にいる2人に声をかけ、馬車を動かした。
乗り込んだ2人から質問責めにあったり、褒めちぎられたりされたが、全然心に届かなかった。
『すげぇ…これが才能の差って奴か……。でもいつか、必ず追いついてやるからな!』
『うん!』
ソラとのそんな約束が懐かしい……。
よくよく考えてみたら私、ソラと出会ってまだ1ヶ月しか経ってないかったんだ……。
気持ち的には、一年くらい一緒にいるように思った。
もし、そんな風に思ってたら…嬉しいなぁ……。
しばらくすると、討伐クエストでソラ達が野営した場所に到着した。
あまり汚れていないギルドテント、下流にはボロボロになったテントがあり、そしてテントがあったであろう真っ黒焦げになった地面があった。
その時の状況をホプキングさんが説明しようとするが、それ以上に別の物を探した。
それはソラが着ていた鎧だったり、剣だったり、ローブなどであった。
しかし、そこら中を探しても、全く見当たらない。服どころか、カバンすらない。
大丈夫かどうかすらわからず、諦めかけたその時!
「こなんちゃん! あっちに何かあるみたいだよ!」
エリーゼさんが私に声をかける。私達は急いでその場所に向かう。
その場所には、他のみんなも集まっており、何かを中心に囲んでいた。
遠目に見えるその囲んでいるものは、何かを凍らせているようなものだった。
嫌な予感がした。
私は徐々にそれに近づいって、それがやがて確信に変わる。
それは、完全に凍りついた魔族さん。凹んでいるお鼻から誰かと戦闘していと思わせる程の怒り表情で凍りついている。
ではその相手は誰なのか。
決まっている。ソラだ。
ギルドや生徒達が逃げ帰る中、ソラだけはこの人と戦い続けたのだ。
きっと、みんなを守る為、最後の手段まで使って……。
鼓動がどんどん早まっていく、呼吸が荒くなり、耐え切れず、足が崩れ落ちてしまいそうになった。
いや、もしかすると崩れ落ちてしまったのかもしれない……。
「落ち着きなさい。コレット」
耳元でカンナさんに話しかけられなければ……。
「あの魔族をよく見てみなさい」
「よく…見る……あ!」
「そう。魔族の彼のどこを見たって、ソラの姿は何処にもない。ということは……」
「ソラは、無事なんですね!」
「ええ。そういうことよ」
魔族さんに引っ付いて倒すこの魔法。でも、その魔族さんの何処にも、ソラの姿はなかった。
ソラは生きている。それだけで心が軽くなり、気分が晴れやかになる。
そして、安心したのか、突然足の力抜け、立っていられなくなる。カンナさんはそんな私に寄り添って支えてくれた。
私はその時、異様に眠く、とても目を開けらていられなかった。
カンナさんに身を預けながら、私は静かに目を目を閉じていくのだった。
3日目
眠ってしまったのはおおよそお昼前。
私は昨日、殆どの時間を眠ってしまっていたらしい。
でも、目を覚ました朝は、昨日と比べてとても晴れやか気分だった。
あんなことを言われなければ……。
「こなんさん」
「はい? ホプキングさん、どうしましたか?」
「ソラみたいな奴と関わるのは、もうやめた方がいい」
カンナさん曰く、この時、空気が完全凍りついたと思ったらしい。
「・・・どうして、そんなこと言うの?」
「そんなの当たり前だ。君みたいな素晴らしい人は、あんな落ちこぼれでなく、もっと優秀な」
「落ちこぼれって何? 優秀で何? 優秀って言うのは、私の友達に痣ができるまで、骨が折れるまで痛めつける人たちのこと?! 落ちこぼれって言うのは、それを必死に我慢している人のこと?!」
強まっていく力強い声に、ホプキングさんはどんどんと萎縮していく。
「い、いや、そう言うことではなくて……」
「じゃあどう言う意味、答えて!」
「そ、それは、あいつとは違って、魔法が使える……」
「ソラだって魔法を使える。ううん、この1ヶ月間、一生懸命特訓して魔法を使えるようなったの!」
「な! あ、嘘だ!」
「嘘じゃない! じゃあ、あの凍りついた人はどう説明するの?」
「あ、あれは、きっとギルドの人が……」
「あなた達と一緒に王都帰還したのに、そんな暇あると思うの?!」
どんどんと言葉がなくなっていくライトを見て、エリーゼとキッドの2人はソラに論破された時のことを思い出していた。
「あなたにわかる? 痛めつけられて、ボロボロになる人の気持ちが…彼の気持ちが!あなたにわかるの?!」
「・・・」
「それにね、ソラがどれだけすごいことをしたのか、あなたにわかる?」
「な、何を言っているんだ? ソラも無事、王都に帰還した決まって……」
「ライト」
「エ、エリーゼ? どうした?」
「ライト、実はソラだけは違うのよ」
「違うって…何が……」
「ソラはね、残ったの。私達を逃がすために、逃げ切れるまでの時間を稼ぐためにわざと残ったのよ」
「この事はここにいるメンバーとギルドの奴らとソラが一人で助け出した女子生徒達しか知らない」
「あなた達は、守られたの。いっぱい、い〜っぱい怪我をさせられたのに、命を懸けてあなた達を守ったの!」
その言葉を聞いて、ホプキングさんは完全に喋らなくなった。
でも、これだけは言わなければならない。
「いい。もう2度とソラを…私の、大切な友達に「みたいな奴」とか、「落ちこぼれ」なんて言わないで!」
*
あれから、私達は殆ど口を開いていない。あるのは必要最低限の会話だけだった。
散々言われたホプキングさんは隅の方で凹み、カンナさんとキッドさんは今後のルートについて話し、リシア先生は「これも人生勉強です」と、傍観の姿勢を突き通していた。
私はもう口も聞きたくない為、カンナさんの隣でただ遠くを見つめていた。
別に、まだ怒っているわけでも、怒ったことを後悔しているわけでもない。でも、もし誰かと話をすると、思わす嫌味を言ってしまいそうなってしまう。だから誰かと話すのを避けたのだが……。
じぃー……。
・・・先程から何故か、エリーゼさんに見つめられていることがずっと気になっていた。
*
皇国にかなり近い場所までやってきた私達は、月明かりに照らされながら野営を行なっていた。
「あの…さっきから何ですか?」
私はずっと気になったエリーゼさんと話す為に、みんなから少し離れた2人っきり話をすることにした。
「・・・こなんさんは、ソラのことをよく知っているみたいだったので…少し気になって……」
少し俯きながら言った言葉を聞いて、ソラの言葉を思い出した。
ソラは目の前のエリーゼさんと理事長さん、料理屋の亭主のおやっさんとたまに来ると言っていた叔父様と呼ばれる人。そして、あそこにいるリシア先生にはかなりの信頼を寄せていた。
なら…私のことを話しても……。
「わかった。私の知っている限りのことを教えてあげる。その代わり……」
「その代わり?」
ソラはこんな時こんな言葉を言っていた。
『ギブアンドテイク』と。
「学校や家でのソラのことを教えてくれませんか?」
その言葉に互い沈黙するも、すぐに笑い出す。
「わかった。それじゃあ、何から話そうかしら」
「時間はいっぱいあるよ。だからいっぱい話をしよ」
月明かりに照らされて、私達は1人の男の子について話をする。
同い年の子とお話しするのは初めて。
楽しみ♪




