ソラの魔法
レインさんが戻ってくるまでに、もう一度脱出を試みる。今度はだだ無理矢理抜け出すのではなく、付けられている枷を外そうとする。
しかし、いつまでたっても枷を外すことができず、時間だけが過ぎて行く。
「・・・ピッキング……必要ないかとタカをくくってたけど…こんなことなら、覚えとけばよかった!」
「何をしているのですか?」
枷を外すことばかりに集中していた為、プレートを取りに行ったレインさんが戻って来ていることに気付かなかった。
話しかけられ、俺は顔を青くする。
「いや、あの、えっと……」
「・・・まあ、いいでしょう。どうせ、その枷から抜け出すことはないのですから」
レインさんは、俺が付けられている枷は外れないと公言した。それを聞いた俺はムッとなって尋ねる。
「それはどういう意味ですか?」
「言葉通りです」
「いやいや、抜け出す以外にも方法はあるはずだよ。例えば、この腕を引きちぎったり、氷像と同じ様に枷をつけられている手足を凍らせて、そこを砕けば、枷をつけられている手足を分離させて、脱出することだってできるよ」
「ならばやってみるといいでしょう。どの道、無駄で終わるでしょうがね」
「・・・いいぜ。やってやる」
ふぅ……っと息を吐き出し、魔力を体全体に駆け巡らせる。そして、その駆け巡らせた魔力を練り上げてく。
ラベンダーの話では、ソラの魔法の使い方は変わっているらしい。それはコレットも同じ様で、聞いたところフィーリングを軸に多種多様の形を作るらしいが、ソラのは少し違うらしい。
ソラの魔法は常に知識から得た情報を魔法に変換させている。
多く記憶量や知識を持ち得ないソラにとって、《独自解・習》というスキルはかなり扱いの難しいスキル。
だが、一度記憶してしまえば、その力を十二分に発揮できる才能は持ち得ていた。
*
「う〜ん。火の魔法は全く反応がないわね……。まあ、いいわ。ソラ、次は水魔法の方を使ってみて。自分が思っている通りでいいから」
「はあ…はあ……、わ、わかった」
発動させたであろう強化魔法と思い当たったラベンダーは、俺に属性魔法を使わせようと試みていた。
ソラのスキル《独自カイ・シュウ》が発動している以上、魔力を使うそれ以外の力は決して発動することができないと、そう考えていたカンナ。
しかし、ソラは体を鍛えるという考えのもと、魔法を発動させたということは、もしかすると、スキルの範囲内でならば魔法を発動することが可能なのでないかと思い至った。
だが、その考えも違ったのか、火属性の魔法を発動させることは出来なかった。
(目論見が甘かったのかしらね……)
カンナはそんなことを思っている中、ソラは水魔法の発動準備に取り掛かっていた。
(えっと、水を作り出すには確か…原子論…だったかな)
水は元々、空気中にある目に見えない程ごくごく小さい粒子の粒が無数に合わさって水という形になっているんだから……。
俺は水が入った大きな鍋とその蓋をを思い浮かべた。思い浮かべた大きな鍋に火をかけて蓋をする。しばらく時間を置いていると、鍋から白い湯気が上がり始め、蓋をあけると、鍋の水はブクブクと泡を立てる。そして開けた鍋の蓋の裏側には、いっぱいの汗をかいていた。
そんなことを考えていると、掌の上で徐々に魔力が重なり、合わさっていく。しかし、俺はそれを無視してイメージを続ける。
裏側に引っ付いた水滴は、一体どこからやってきたのか考えるがすぐに答えにたどり着く。鍋に入った水からだ。
ブクブクと沸騰させた水から発せられた湯気が鍋の蓋の裏側に引っ付いたのだ。
そういえば昔、鍋から出でくる湯気が不思議でずっと当ててたら、すごく熱かったけど、何故か触れてた手が濡れていたっけ……。
つまりあの湯気は水が熱く熱しられていた為、霧状に変化したものだと考える。
ということは、熱しられた水は、やがて霧状になり空気中に撒き散らされた。ならばそれを集めることで、水を集めることができる。
閉じていた目をゆっくりと開け、掌の上を見る。掌には、重なり合い、練り上がった魔力が、水の球体の様にふわふわと浮いていた。
「よし!」
*
あの時、完成された水魔法は原子論で言う水素と酸素を集め、球場にイメージしたものだった。
簡単に言えば空気に散った水を球体のとして集め直したといった感じだ。
そのイメージが完成してからは、水魔法に対して似たようなイメージと現実に存在する盾などをうずしお?とか言うものを組み合わせた魔法なんかも作ることが出来た。・・・まあ、完成された魔法を2人が真似をすると、俺以上の強力なものが出来上がって、少し凹んだのだが……。
風も似たようなもので、風力と、風の速度を表すノットという言葉を理解し、思いっきり魔力を込め、それに速度を追加することで、強力な風が吹き荒れた。
なら後は簡単だ。まず、水で体を包み込むするイメージを保ちつつ、強力で、そして速度のある風を用いて、空気中の気温を低下させていくイメージを頭の中で固めていく。
戦闘では、攻撃をされる為、そのイメージを維持し続けるのには限界がある為、風を使って少しずつ現実の方の気温を下げていく。
現実の方でそれを成功させるのにはかなりの時間とそれが見抜かれないことが最大の点となる。
見抜かれたが最後、確実に回避され、破れていたことだろう……。
しかし、それをしたガルドは自分に絶対の自信を持っていた。だからこそ、油断したのだ。自分は強いと、負けることはないと。
故に敗北した。
渦巻いていた周囲の風の範囲をどんどん狭めていき、大気の温度がかなり低くなっているのに気付かなかったからだ。
体が凍り始めたのはかなり気温が下がり、イメージのしていた凍りつくイメージを魔法で形にしたからだ。吹き荒れた吹雪も、下がった気温が魔法で凍りついた副産物だ。
だが、今はそんな面倒な手筈を踏まなくていい。
ここの気温は元々低く、イメージを固めてしまえば!
しかし、そこでイメージしたのはいつものように凍りつくイメージではなく、生き物のように縦横無尽に駆け巡り、襲いかかってくる氷山だった。
「へ?」
ビィィィィィイイイイ!!!
疑問とともに大きな警報のような音が首元から響くと、強力な電流のようなものが流れた。
「?!?!??!!!」
体が痺れ、言葉にならない悲鳴をあげる、電流は治まり、自由になった体は、痛みとともに地面に倒れる。
「・・・なんだ。今のは……」
「あなた様に付けられている首輪ですよ」
「首輪?」
そう言われ、よくよく首元を見てみると、他の枷とは違うごてごてとした機械のような首輪をしていた。
「なんだ、これ……」
「『魔封じの首輪』でございます。魔法を使おうとするものな電流を流し、発動を阻害する首輪でございます」
「電…流……。なる…ほど……」
痺れるような電流がなぜ発生したのかを理解すると、繋げていた意識失い眠りについた。
「・・・しかし欠点もあり、Sランク以上の魔導師の魔法は全体の8割程度しか抑え込むことができず、魔導師たちは、その2割で首輪の鍵を外します」
気絶したソラに対して淡々と説明するレイン。その顔には必死に冷静を保とうと、顔を真っ青にして、汗をダラダラとかいている。
はあ…とため息を漏らす。そのため息はかなり気温が低くなっているのか、真っ白になっている。
「・・・それ故、次に同じ様にすればあなたは間違いなくここから脱出できるでしょう。これ程の実力を備えているのであればね」
少し顔を横に向ける。
そこにはソラが入っている牢屋から伸び正面、そしてその右隣の牢屋をソラが使おうとして邪魔をされた、中途半端な氷魔法が牢屋越しに貫いて生活できるスペースの半分以上を飲み込んでいた。




