断片の姿と布の男
6/22・一部編集しました
学校を出た俺達はデパートに向かう。
かなり遅い時間故か、会社がありのサラリーマンや買い物帰りの主婦達がちらほらと見える。
そんな中、大きなビルのてっぺんの方に見える大きなモニターに、とある女の子が映り込む。
その女の子は、俺と同じような年齢の女の子で、可愛らしいふりふりの衣装に身を包んで、大きなステージの上に立ち、ダンスを交えて歌っていた。
「あ! 青花 音姫のライブコンサートのPR映像だ!」
「本当だ!」
「可愛いよね。青花ちゃん」
里美達もモニターに気づき、同じようにモニターを見上げる。
青花 音姫とは2年前に現れた人気アイドル歌手である。
その人気は2年経った今でも衰えることなく。
歌って踊れることはさることながら、容姿も良く、優しく明るい性格からその人気は衰えることを知らない。
「はあ〜。私もあんな風に、綺麗な衣装を着て大きなステージで踊ってみたいなぁ……」
「里美ちゃん。それは難しいと思うよ」
「そうかな……」
「そうだよ。それにそんな理由でアイドルになれた苦労なんてしないと思うよ」
「・・・やっぱり、そうだよね…アハハ……」
楽しそうに話していた3人から急にどんよりとした空気が流れ始める。
自分達が勝手に話し始めて、すぐにどんよりとするのはやめてほしい。
正直、ほっといてもいいが……。
「・・・なくは無いんじゃないか?」
「へ?」
俺の言った言葉に全員が注目する。
「どんな理由や動機あったって、結局のところ、頑張ったり努力したりするのは自分だ。だから、自分がやりたいと思えるのなら、全力でやってみる価値はあるじゃないか?」
俺がそんな事を言うと、3人はしばらく俺を見つめた後に、楽しそうに笑い始めた。
「大空くん。そんなこと当たり前だよ」
「それに、今アイドルを目指している人達だって、その事をわかってて努力してると思うよ」
「・・・それもそうだな」
アハハハハ!!!
「・・・そうだよね…そーくんはそういう人だもんね……」
「? 里美? 何か言ったか?」
「ううん、別に何も。ただ、当たり前の事を当たり前のように言った空にちょっと呆れてただけよ」
「相変わらず、容赦ないな」
そう言ってみんなで笑いあい、そして立ち止まった足を再びデパートに向けて歩みを進める。
そこでふと、近くにあった窓ガラスに写り込んだ自分の姿を見る。
初めて…いや、何度も見た自分の姿……。
黒い髪に青色の瞳……。どう見てもハーフですと思わせる、いつも通りの自分の姿に、何の疑問も抱かない…
ザアァァァァ!!!
「っ!」
そんな事を思っていると、突如頭に激痛が走り、その痛みに頭を抱える。
頭に響く痛みに地面に膝をつけ、必死にその痛みを押さえる。
頭を押さえて痛みを耐えていると、途切れ途切れで断片的ではあるが、何かの映像のようなものが流れ込む。
その断片的な映像はとても短く一瞬のものだったが、とても輝かしく、そして楽しそうに笑う女の子と一緒になって笑っていた茶色い髪の少年の姿だった。
そして、その少年の姿は、とても自分によく似た少年であった。
「今のは…一体……?!」
頭を抱えながらも、再び窓ガラスに映る自分の姿を見る。だが、その姿は先程流れた映像に出てきた少年と全く同じ姿だった。
「な、何で、一体どういう……」
『やっと見つけたよ。ソラくん』
突如聞こえた響き渡る声に思わず身震いする。
背後から聞こえるその声の方に勢いよく振り返ると、道路の真ん中に大きな布を頭から被り、佇む者がいた。
あたりに多くの人達がいたのだが……。
今は人っ子一人もいない。右を向いても左を向いても誰もいない。車も走ってなければ空を飛ぶ鳥達の姿もない。
空に浮かぶ雲はまるで時間が止まったように動いていない。
「見つけたって…あんたは俺を探してたのか? それと、これはあんたが?」
『探していたのは事実。突然中身が居なくなったのだから、探すのは当然さ。それと2つの体は、そうだとも言えるし、そうじゃないとも言える。所詮は体感の違いだよ』
「体感?」
『誰もいない。何もない。止まった時間のまま……。今この場所は君のようじゃないか』
「・・・何が言いたいんだ?」
いきなり訳の分からない事を言ったと思えば、まるで、俺の心を読まれたような…そんな感覚だった。
『さあ、何だろうね。言わなければならない事はたくさんあるのに、その全てを伝えるには、あまりに不安定すぎる』
「・・・意味がわからないのだが……」
『う〜ん。何と言ったものか……。これを一言で全てを説明するにはあまりのも無理だし、長くなってしまう……。取り敢えずは、うちの存在を明確にする為に、ミーの名前を名乗るとしよう。・・・そうだな、ここはいつか出会う事になるであろう者の名前を借りて、《ソルガ(仮)》とでも名乗っておこうか』
本当に…本当によくわからない奴と知り合ってしまった。『言わなければならない事』や『いつか出会う事になるであろう者』という言葉から、まるで未来を知っているような…そんな言葉を口にする。
「・・・ソルガ」
『ノンノン。ちゃんと(仮)まで言って貰わないと。『ソルガ』という名前は彼の名前なんだから』
「・・・あんた、一体何しに現れたんだ?」
ソルガ(仮)は少し悩んだのちに答える。
『・・・救う為…要は人助けだね。その為にはソラ、君の存在は必要なんだ』
「どういう意味だ?」
『それを答えるには君は不安定すぎる…まあ、それはこっちも同じなのだけれど』
ソルガ(仮)は大きな手振りで応答する。だが、次第に手を下ろし、こちらを見つめる。
『まあ、答える云々は置いといて……そろそろ、自分の体に戻ったらどうかな?』
謎の男登場。
この男は一体なのものなのか。
次回、謎の現実パート、完結です




