記憶の声
前回の続きです。
ザアァァァァ!!!
『ふざ……じゃ……!こいつは……おん……だ!ひ……いつが……からこっ……けどな、……もう……ねぇ!』
ザアァァァァ!!!
『……に?あ……の……なもの?』
ザアァァァァ!!!
『・・・ま……あ……?』
ザアァァァァ………。
*
そこはまるで戦場だった。
あちこちで大きな爆発が起き、沢山の血が流れ、そして多くの死体が転がっていた。
そんな戦場で、1人の少年が同い年くらいの女の子を抱きかかえていた。
『どうして!なんで俺なんかを庇った!』
『私が…そうしたかったから…』
女の子の白い服は血で真っ赤に染まり、呼吸をしてるのがやっとの状態だった。
『待ってろ! 今誰がこの傷を治せる人を!』
『ううん…いいの……』
『いいわけあるか! これは俺の…俺のせいで……』
『でも…あなたが生きてる……』
少年は、自分の無力さに涙を流し、悔しさのあまり顔が歪む。
女の子はそんな少年を見かねてか、自分の血で汚れていない綺麗な手で優しく頬を撫でる。
『私が死んでも…あなたはずっと生きていける……。これから先、未来へ繋がっていける……。だから…あなたは、生きて……。私の…分まで……』
『?! ーー!?』
『生きて……。そして…みんなに…あかるい…あしたを……』
次第に女の子の声が小さくなっていき、そして女の子は目を閉じ、触れていた手が俺の頬から滑り落ちた。
『ーー?! ーー!!!』
*
スパン!!
「イッタ!!」
突如頭に強い痛みが走り、現実に引き戻された。
「よくもまあ俺の授業で睡眠学習をやれるもんだなぁ、大空」
「こ、金剛先生……」
目の前にいるむきむきの筋肉男・金剛 力也が、持っている教科書を丸めて目の前で仁王立ちしていた。
金剛先生は近くにある中高一貫校からのやってきた臨時の先生だ。
「いや〜これはその……」
「まあいい。そんなにそのお勉強が楽しいのなら特別に、貴様に出す課題を2倍してやろう」
「そ、そんな?! お代官様! どうか! どうかご慈悲を〜!」
そう言ってクラス中に笑いが巻き起こり、和やかな空気になる。そして、終業のチャイムが鳴り、本日の授業は終了となった。
因みに、宿題の量は結局言われた通り2倍の量だった。
*
放課後
ズゥーーン……
「だ、大丈夫? 大空くん」
「心配しちゃダメよ、曜。授業中に寝ていた空の責任なんだから」
出された宿題に落ち込んでいる俺を心配してくる優しい声と自業自得ときつい言葉をかけてくる声が俺の側に寄ってきた。
「いや〜。優しいな〜、桜井さんは……。それにひきかえ…里美!お前、俺の隣の席なんだから、起こしてくれても良かっただろ!」
顔を上げて睨め付けた先には幼馴染の雪村 里美と俺の顔を覗いてくる桜井 曜が立っていた。
「起こそうとしたよ。でも、いつまでも寝てたのは空の方でしょ?」
「うぐっ!そ、そう言われると返す言葉が無い……」
正論を言われ、言葉を詰まらせる俺。
里美は呆れたように帰り支度を整える。桜井さんは既に帰り支度を済ませ、カバンを持って帰る準備万端である。
「それで? 今日も真っ直ぐ帰るの?」
「今日はちょっと文房具を買いにデパートに行くつもり」
「文房具って何を買うつもりなの?」
「今のところはシャー芯だけだけど…後は見てから決めるかな。何も買わないかもしれないし、何か買うかもしれない」
「そうなんだ…私も一緒に行っていいかな?」
「え?」
突然そんなことを言い出した桜井さんにちょっと驚く。普段はあまりそんなことを言わないのに……。
「・・・確か桜井さんの家って、デパートとは逆の方だったよね?」
「うん。でも、私が欲しいものがデパートにしか売ってないから……。どうせ行くなら一緒に行こうかなって思って…ダメかな?」
「ダメってことはないけど……。そんなこと言われると思ってなかったから、驚いただけだよ」
「ほんと?よかった♪」
桜井さんと一緒にデパートに行くことになり、桜井さん嬉しそうに胸の前で両手の指先をちょんっと合わせる。
そんな桜井さんを見ていると俺の前の席にいた神田が帰る準備を終えて話しかけくる。
「空、今日デパートに行くの? なら僕も一緒に行っていいかな? そろそろ色鉛筆が切れそうだったから、買っておきたいんだ」
「ああ、別に構わないよ。桜井さんも構わないだろ?」
「うん。いいよ」
「そうだ! どうせなら坂本も誘おう!」
神田も同行することとなり、ならついでにいつも一緒にいる坂本にも声をかける為、あたりを見渡す。
見つけた。丁度帰る準備を終えて立ち上がったところだった。
「お〜い、坂本」
「? どうかしたか?」
「これからデパートに文房具、その他諸々をを買いに行くつもりなんだが、一緒に行くか?」
「その他諸々ってなんだよ……。すまんが、今日は空手練習があるんだ」
「あれ? そうだっけ?」
「ああ、だからいけない。すまんな」
「謝ることないよ。誘った俺達が悪かったんだし」
「そうだよ。洸夜は気にすることないよ」
俺と神田は申し訳なさそうにする坂本を諭す。すると坂本は少し驚いたような顔をして俺を見つめる。
「・・・空。デパートには誰と行くつもりだ?」
「え? 神田と桜井さんだけど……」
そう言うと、坂本は隣で里美と楽しそうに話している桜井さんを見る。そして、なんだか含みのある笑みを浮かべると、
「それじゃあまあ、頑張れよ。またな」
「あ、ああ。また明日」
その笑みのまま、颯爽と帰って行った。
「な、なんだ、あいつ……」
「さあ〜……」
颯爽と帰って行った坂本に疑問に思いつつ、帰り支度を整える。
「ゆ、優くん!」
すると、里美が急に大きな声をあげたので、驚いてそちらを見ると、里美が1人の男子の側に近づいて行った。
「あれ、里美? どうしたんだ?」
「い、いや〜その〜。きょ、今日もサッカーの練習に行くの?」
「ああ。僕、サッカー好きだから」
「そ、そうなんだ。お、応援してるね」
「おう。任せとけ!」
里美が話しかけた男子は、坂本と同じく人気がある久遠 優也。
スポーツもできて、勉強もできる。文武両道な上に料理や家事なんかもお手の物。なんでもできる完璧人間。・・・正直、他の打ち所がなさすぎて逆に引く。
だが、持ち前の優しさと、リーダーシップ力故に人気が高い。
「私、あんまり久遠くん、得意じゃないんだ……」
「あら以外。俺はてっきり、桜井さんも久遠のことが好きだと思ってた」
「僕も」
「むう。私にだって苦手なものはあるよ。・・・それに、久遠くんは何かを隠してるように思えるから……」
「ふ〜ん。そうなんだ」
桜井さんのちょっぴり以外なら一面を知った俺は、手を振ってわかられる里美をよそ目に帰る準備を完了させる。
「・・・大空くんは、今の里美ちゃんを見て…どう思ったの?」
「え? いや、別になんとも……」
俺は桜井さんに突然聞かれた質問にいつも通りの口調で答えると、
「本当に? 実は、ちょっと嫉妬してたりして〜」
「それはない」
悪戯そうに笑い、俺をいじってくるが、問答無用で一刀両断する。
そう言うと、桜井さんは口を尖らせながら、
「ふ〜ん……。そっか」
そう言って俺から顔を逸らした。
久遠との別れを済ませた里美は顔を緩ませながら、こちらに戻ってきた。
そんな里美をじぃーっと見つめていると、その視線に気づき、は!っとした後にすぐに顔を引き締めた。
「ご、ゴホン! そ、それじゃあ、行こっか」
「はあ?」
「あのね〜。女の子2人を狼なんかに任せられるわけないでしょう」
「・・・狼?」
「あ、あのう…里美ちゃん。僕…男なんだけど……」
「そんなことするかよ。いくら両手に花だとしても、襲うとか……。そんなことするわけないだろ」
「空……。空もそういう感じなんだね……」
俺達の言葉に、神田はすごく落ち込み、桜井さんはどうして狼?と疑問に思っている。
「とにかく、そんな2人を放っておけないから、私もついて行くから。いいわね」
「りょ、了解で〜す」
「よろしい! それじゃあ、行きましょうか」
ずいっと顔を近づける里美に圧倒されて、ついてくることを了承し、すぐさまデパートに向かうのだった。




