ノイズの見せる現実
ザアァァァァ!!!
ザアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
ザアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
ザアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………ブチン!
*
いやまあ、確かに言ったよ。
「それでね。優くんがね……」
確かに言った。愚痴ぐらいならいくらでも聞いてやるって。
でも…、でもなぁ……。
「惚気を聞くなんて一言も言ってねぇっつうのー!!」
旧校舎の階段で外に向けて大きな声を出して、ストレスを発散していた。
「空も、大変だな」
「いや〜、僕だったらストレスで胃に穴が開いちゃうよ」
「気楽でいいよなぁ…お前ら」
昼休みの旧校舎の階段で俺と一緒に飯を食べるこいつらは、気楽そうにそんな事を口にして思わず殴りたくなる。
「・・・なぁ、お前ら誰だっけ?」
「えぇ…まさか忘れちゃったの?」
メガネをかけたヒョロヒョロな奴がとても残念そうに呟く。
忘れてちゃったって…そもそも、俺はお前らのことなんて……
ザアァァァァ!!!
「っ!」
「? 空?大丈夫か?」
「ほんとだ…大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だよ。坂元、神田」
急に頭痛がしたと思えば、直ぐにそれは収まり、2人の名前を思い出した。
目の前にいる男達は、俺の友達の坂本 洸夜と神田 優雅だ。
坂本は俺達の中では最もイケメンであり、尚且つ空手の小学生全国大会1位を取る程の実力の持ち主である。
校内からの人気も高く、『武道の若武者様』というよくわからない2つ名がつけられている。
そんな坂本とは対照的に神田は黒縁の丸眼鏡をかけ、如何にも『オタク』という雰囲気を醸し出し、近寄り難い人であった。
愛称は『キモオタ』なのだが……。
「・・・」
「? どうしたの?」
ひょい!
「あ! ちょ、ちょっと! メガネ返してよ!」
「・・・これで男なのが納得いかん!」
神田のかけている眼鏡をひょいっと奪うと、神田の素顔をが明らかになる。
その素顔は完璧に出来上がっている女の子顔で、10人聞けば10人とも、可愛いと言わせれる程の素顔の持ち主であった。
「正直、俺もこいつは女なんじゃないかって疑いたくなる」
「でも、以前あったお泊り研修で間違いなくあった筈」
「いや、実はこいつ、一緒に入ろうとした男子がこいつの素顔を見た後、鼻血を出して倒れたから、こいつだけ別の時間に入らされたらしい。だから実際のところはわからない」
「マジで?」
「ね、ねぇ、そろそろメガネ返してよ」
「あ、ああ。悪かった」
もう…っと本当に男か疑いたくなる声を漏らしながら、返したメガネをかける。
「そんなに気にならんだったら、触ってみる?」
「「犯罪になりそうなので遠陵します」」
なんとも意味深な事を言う神田の誘惑(?)に、犯罪の可能性を感じた俺と坂本は、すぐさま拒否した。
こんなやり取りをいつも繰り返している。
この2人とは、1年の時からの付き合いで、流石にこのやり取りにすっかり慣れきっていた。
そんな全く違う2人と一緒にいる俺は、他の奴らから「あ、いたの」程度の認識の男である。
顔が良い訳でも、これといって特技あるわけでもない。本当に何も無い空っぽの人間。それが俺だった。
2人が楽しそうに話しているのを見て、俺はふと持っていた携帯をかちゃった開く。
12:54
「やば! 2人とも、もう昼休みが終わる! 早く片付けて……。なんだよ」
「ああ、いや。相変わらず携帯を使ってんだと思ってな」
「今時携帯なんて使ってる人いないよ。特にそのガラ何ちゃらなんて……。《トランザー》は買わないの?」
「いいの。俺はこれがいいんだ。それよりほら!急ぐぞ!」
片付けが済んだ俺は立ち上がる。それにつられて2人もそそくさと片付け始める。
「・・・? なんだ?」
携帯を俺が着ている制服のポケット仕舞おうとすると、何かに阻まれ、入れることができなかった。
携帯を別の所に直し、阻まれた何かを取り出すと、なんだか見たことがあるような、そんなプレートが出てきた。
そのプレートの中央には馬車の様なものが描かれており、それ以外は何も描かれていないクリアなプレートだ。
「おい空、何してる! 授業に遅れちまうぞ!」
「あ、ああ悪い。直ぐに行く!」
クリアプレートをぼおーっと眺めていると、坂本が俺に声をかける。
俺は急いでプレートをしまって、教室に向かうのだった。
これ一体何なのか。
そして、馬車が描かれたクリアプレートの意味するものとは。




