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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
目覚めの獅子
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照らされた希望

第3章、開・幕!

 ゴブリン討伐に出発してから1週間が経過した。


 討伐に向かった多くの生徒達はその喜びの余韻に浸り、楽しく互いにあったことを語り合った。


 そんな中、彼らの元にある1つのクラスと共に出掛けた者達が帰還した。

 そのクラスは、彼らが通う魔法学院で、たった1人を除いて最も優秀な者が集まった優秀なクラスだった。


 彼らも当然、このクエストをクリアしているに違いない。そう思っていた生徒達は、彼らを喜んで受け入れた。


 しかし、帰還した彼らはとても消沈しており、それがこのクエストの失敗を告げていた。


 話によると、野営して所にゴブリン達が襲撃してきたらしい。

 突然の襲撃に誰も対応することできず、なすすべもなくやられていたところをギルドの人達が駆け付けてもらわなければ全員殺されていた。

 そして、緊急の為に撤退しようとした時、ゴブリン達が大きなテントを吹き飛ばした。


 そんな話を聞いた生徒の誰もが嘘を疑った。しかし、襲われた本人達の様子からそれが本当であることを物語っていた。


 討伐した生徒達は、沈んでいる生徒達を必死に慰めた。突然だったんだ。仕方ないっと……。


 しかし、気付かない。いや必死になって伝えようとしていた者達はいた。


 だが、彼らはそれを聞こうとも、認めようともしなかった。


 このクエストでただ1人だけ戻ってきていないことを……。



 *



王城


「・・・それは本当か?」

「ええ。あの河原から()()()()()()()()事からも、これで納得がいくかと」

「うむ……」


 カンナは、この1週間でまとめられた資料を元に、国王であるクロスフォードに報告をしていた。


「それで、これからどうするつもりなのだ?」

「・・・とりあえず、これから()()に報告してきます。彼女にはこの事を知る権利がありますから」

「そうか。下がって良い」


 そう言って、カンナはクロスフォードがいた部屋から退室して、真っ直ぐにある場所に向かった。



 *



 ・・・私…私は…どうしてこんな所に来てしまったんだろう……。


 私が…私がこんな所に来なければ…もっと色々な事が出来た…出来るはずだった……。


 古代学者にも、料理屋のオーナーにだってなれる人だった……。


 なのに…私と…私と…出会っちゃったから……。


 私と…出会って…しまったから……。


 ・・・ソラ……


「ごめんなさい……。ごめんなさい…ソラ……」




 コンコン




 *




 あの日…ソラと共に出掛けたメンバーが帰還した日から、コレットは塞ぎ込んでしまった。


 生徒達が帰還した話を聞いたコレットは一目散にギルドに向かい、ソラの無事を確認しに行った。


 話しかけられた生徒達の殆どは、彼を無いものとして扱い、さらには彼女を食事やデートなどのナンパに誘う者もおり、操作はかなり時間をかけてしまったらしい。


 どこにも見当たらないソラに諦めかけたその時、1人の女子生徒がこう言った。


「ソラはここにはいないわ」

「へ?」

「私達が…私は! 彼を! ソラを…ソラを見捨てて帰って来たのよ!」


 荒れた感情のまま、その女子生徒はとても悔しそうな声で言った言葉に、コレットはまるで糸が切れた人形のようにペタンっと地面に座り、そしてポロポロと涙をこぼし始めた。


 コレットはしばらく涙を流した後、


「・・・私、せいだ……」

「コレット?」

「私せいだ…私の…せいで、私のせいでソラは?!」

「コレット!落ち着いて!」

「いやぁぁぁぁあ??!!」


 そして壊れた様に泣き崩れ、魔法で無理矢理眠らせたのち、城へ運び込んだ。


 それ以来、すっかり塞ぎ込んで一度も部屋から出てこない……。


 私は、国王に報告を済ませた後、コレットのいる部屋にやって来て、扉を叩く。


 中にいるコレットは、すでに目を覚ましており、泣きながら彼の名前を呼び、謝っている声が聞こえてくる。



「起きているなら、そのまま聞きなさい」


 返答はない。話を続ける。


「明日。私達は少人数で皇国に向かう。あなたの目的だった魔族に会うために」


 わかっている。それは私が考えて考えて、そして彼と決めた目的なのだから……。


「ついてくるのなら準備しておきなさい。でももし、ついてこないというならそれを止めるつもりはないわ。でも、これだけは聞きなさい」


 私は、今塞ぎ込んでいる彼女に何かを許容するつもりはなかった。何かをするなら、彼女自身の意思で取り組んで欲しかったから……。


 でも、これだけは言わなければならない。


「クエストで行った最後の野営ポイントでソラの死体は()()()()()()()()わ」


 ピクッ!


  「テントがあった場所は真っ黒になって、テントの影も無かったものの、その近くではテントを燃やしたであろう魔族が、全身氷漬けで発見された」

「・・・」

「氷漬け…ソラが使っていた近距離の最終手段ね。自分の命諸共、敵を氷漬けにしてトドメをさす方法。あなたが、絶対にしてはならないと言っていた技よね」

「・・・・・・」


 中からの返答はない。だが、さっきと違って中からは発せられる空気が変わった。


「敵に対してぴったり密着させて自分も巻き込んで氷漬けにする。その為、氷漬けにされて発見された死体から敵と共にソラの死体も発見させてるはず……。でも、その死体から、ソラは発見されなかった」


 私は必死にカンナさんの言葉に耳を傾けて、一言一句逃さない様にする。


「そして、皇国を見張らせていた者からこんな内容の伝書が届いた。『皇国内にソラによく似た少年が運び込まれた』。河原からソラが発見されなかった事から、ソラは今、()()()()()可能性が最も高いわ」



 *



 私はすっかり締め切った部屋のカーテンを開き、数日ぶりのその光を浴びる。


 綺麗な月明かりが照らせて、星が輝く空を見上げる。



『ついてくるというなら、朝早く、太陽が昇る前に北門に来なさい。太陽の光が照らされた時点で出発します。いいわね』



 お昼頃、カンナさんに言われた言葉が繰り返される。


『悩んで、考えて答えを出していけばいい』

『言っただろ、力になるって』


 目を瞑れば、ソラの言葉が蘇る。ソラとの楽しかった日々が脳裏に浮かぶ。


 たったちょっと小さな言葉。それだけで私は救われた。だから、今度は!


 私は手に持った小さなナイフを握りしめた。



 *



 明け方

 私達は北門に集まり、準備を整えていた。


「カンナ様!出発の準備、完了いたしたました!」

「ご苦労様です」


 兵士の1人が知らせると、カンナは辺りを確認する。


 集めたメンバーは、ギルドに所属しているキッド。魔法学院からキッド姉であり、ソラが唯一信頼している先生・リシア。学校でも実力は高く、ソラの家族であるエリーゼと学校で最も優秀な生徒で、次世代の勇者とも言われているライト。それに後1人を除いた私を含めた者達が今回のメンバーだ。


 本来は3人で向かおうと考えていた。


 私にキッドがいれば、殆どの者は敵じゃなく、滅多な事では負ける事はまず無いだろう。それに、着実に実力を伸ばしているコレットのサポートがあれば問題はないと考えていた。


 しかし、キッドは姉であるリシアを誤魔化すことができず、そこから学校に漏れ、学校の優秀性をアピールする為に最優秀の生徒であるライトを同行させることで、学校の有能性をアピールさせる為に同伴することとなった。


 最初は断ろうと考えていたカンナだが、今後の学校との関係を考えたら断ることが出来なかった。


 そしてエリーゼちゃん。彼女は他の人達よりもシンプルに、頭を下げて同行を頼んできた。


「私は、家族を…ソラを守ることができなかった。だから、仇を取りたいんです!私の家族を奪った、魔族に!」


 お願いしますと頭を下げてきたエリーゼちゃんの姿は、以前同じ様に頭を下げた、ソラの姿によく似ていた。


 私は彼女の同行を了承した。


 そして、キッドを捕まえたリシアも、2人の保護者代行として同伴することとなった。


 そして、メンバーのうち、エリーゼちゃんだけにはこの遠征の真意を伝えた。皇国が魔族に乗っ取られている事、それを知っているのは国王と私、そして助けた皇女様とごく一部の人間。そして、その皇女様を助けたソラだけであること。


 そしてあの日、死んだとされているソラが、皇国にいる可能性があるということを……。


 エリーゼちゃんは、驚きのあまり言葉を失い、理解が追いついていない様だった。


 ただひとつわかることは、


「そっか…ソラは、生きているですね……。よかった。本当に、よかった」


 エリーゼちゃんは涙を流して喜び、救出ミッションであることを伝えると、より一層気合を入れていた。


 そんなことを思い出していると、もうすぐ太陽が顔を出そうとしていた。


「・・・後1人、来ませんでしたね」

「・・・仕方ないわ。もう待てません」


 私は別れの挨拶をしている者達を集めようと声をかけた。


「みなさん、集まってください!これより出発いたしま」

「すいません!」


 私の声に被せる様に背後から大きな声が響き渡る。


 振り返ると、多くの者が見慣れない服装で彼女が特訓で扱っていた弓矢を背負い、内股に膝をついている。


 彼女のそんな格好を知っている私や、見慣れているエリーゼちゃんは彼女のその格好に驚きつつも、他の者達よりは冷静であった。


 だが、それ以上に驚いた事は、彼女の綺麗で長かった髪がバッサリと切られ、その姿に合った可愛らしくも、動き易そうな服装をしていた。


「はぁ…はぁ……。お待たせ致しました。コレット、ここに到着いたしました!」


 少し荒れていた息を整えて、真っ直ぐに私を見つめる。私は彼女から見つめられる瞳から覚悟の様なものを感じ取った。


 もう、大丈夫みたいね……。


 彼女姿を背に、集まったメンバーの方に振り返り、


「メンバーは揃った! これより、皇国に向けて出発します!」

『はい!』


 私は集まったメンバーに出発の合図を出し、それに大きな返事で答える。


 そして用意された馬車に全員が乗り込み、皇国に向けて出発するのであった。



 *



皇国


 魔族に乗っ取られているこの国の大きな城。


 その地下には、手足を縛られ、牢獄に幽閉されてからも()()()()()()()()()()少年の姿があった。

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