ゴブリン討伐クエスト・理由
ふ〜…っと息を漏らす。
何体か逃したが、どうにか助けることは出来たし、深追いするのは辞めておこう。
手にはゴブリンを貫いた時吹き出した青い血がべっとり付き、同様に剣にも血がべっとりとこびり付いている。
これも特訓の成果…だと思うことより、首を切り落とした感触や胴体を貫いた時に動いていた何がどんどんにゆっくりとなっていき、次第に動かなくなっていった。その生々しい、断命の感触と殺めたことへの嫌悪感が未だに残って特訓の成果だと感じることを気にしている余裕すらなかった。油断すると、立っている脚が崩れ落ちてしまいそうだ。
「・・・よし! お前ら、大丈夫か?」
倒れてしまいそうな体に喝を入れる。そしてそれを悟られない様に引き摺られていた女の子達の安否を確認した。
「は、はい。大丈夫です」
「そう…なら良かった…」
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「あ、ああ。どういたしまして?」
安堵の息を漏らすと、突然お礼を言われると思っていなかったので思わず疑問系で返す。
「・・・みなさん。立てますか?」
「は、はい」
「大丈夫です」
「それなら、これから全力で走ってギルドのテントがある中央に向かってください」
それを聞いた女の子達は顔を青ざめて俺を見る。
「俺はこれからあのテントに向かいます。ギルドのテントも襲われていましたが、おそらく時間稼ぎ。ここやあの中よりは安全です。ですので……」
説明をしながらテントの方を見て、ギルドの方が安全というのを話し終える前に、女の子達は俺の服を引っ張っていた。その目には薄っすらと涙を浮かべていた。
それを見た俺は大変困った。
まともに動かないとなると…正直足手まとい……。でも、そんな所で放置しておくわけにはいかないし……。
「あ、あの、ソラさん」
「・・・え?は、はい。何ですか?」
「ソラさんは、どうして私達を助けてくれたのですか?」
「え? 理由なんているの?」
「!?」
いきなり訳の分からない質問された俺がそう返すと彼女達はを目を丸くした。
生徒達は自分が助けてもらえるとは微塵も思っていなかった。今まで酷いことをしてきたのだ。当然といえば当然だ。
だがソラに本人には助けないという選択肢はなかった。
ソラは引き摺られている彼女達を見て『助けないと!』そう思ったソラは、それに従っただけ……。それはこの1ヶ月間で最も変わった所であった。
1ヶ月前、死に近い恐怖を知り、その時に守りたいという思いを、生徒達の中で唯一知っているソラだからこそ、そんな行動をとることが出来た。
俺は彼女達の問いかけに疑問に思いつつも、中にいる人とゴブリン達に思考を向ける。
「それよりも…ここには6人。残りは中か……」
しかも、彼女達の中にエリーゼさんとミンの姿はない。おそらく中で抵抗しているのだろうが、それも時間の問題だろう。
「・・・仕方ありません。私はこれから中に突撃します。あなた方はどういたしますか?」
俺は、彼女達が付いて来るのなら一応は守るつもりでいた。こんな所で死なれても寝覚めが悪いし……。
「わ、私達も一緒に……」
「私たちも連れていってください。」
「おねがいします」
「わかりましした。ですが、緊急時は必ず私の指示に従ってください。それまでは、絶対にあなた達をお守りします」
付いて来ると言った彼女達はすごく不安そうな表情をしていた。怖いのはわかる。俺も同じだから……。
だからこそ、付いて来る言った彼女達の不安を少しでも和らげようと、いつもなら言わない言葉を口した。
その言葉を聞いた彼女達は一瞬にして不安な表情が消えた。だが、同時に先程とは全く別の表情を浮かべる。
「・・・それでは行きますよ」
その表情が気になったものの、今は中にいる2人の救出に集中する。
だが、女子生徒達は先程のソラの真剣な眼差しに、自分達の鼓動が早くなるのを感じていた。




