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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
形となる思い
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ゴブリン討伐クエスト・夜戦

 テントの外から聞こえた叫び声に、ライト、そしてトム兄弟はすぐさまテントから飛び出る。


 そして目の当たりした光景は大量のゴブリンに囲まれた先程外に出て行った生徒達であった。


 3人はすぐさま生徒達を助け出そうとするが、ゴブリンの見事な連携でそれを阻まれる。


 囲まれている生徒達は怯えきっており、魔法を使う所か戦闘をする気力すら完全に消え去っていた。


 喚き散らし、泣き叫び、パパ!と父親に助けを求める人までも現れる始末だった。


 ゴブリン達はGishi Gishiと笑い声を上げて、囲んでいる生徒達にゆっくりと迫っていた。まるで怯えている生徒達で遊んで楽しんでいるかの様に……。


 ライト達は急いで男子達に駆け寄ろうとするが、ゴブリンが道を塞ぎ、近く事が出来なかった。


 そしてゴブリンが悲鳴をあげる生徒達に持っていたボロボロで錆びついた剣を振り上げ、男子達に迫る。


 その行動に男子達の顔は完全に恐怖の色に染まる。それを見てゴブリン達は喜んでいる様な声を出す。


 それをしばらく見た後、振り上げている剣をゴブリン達は楽しそうに振り下ろした。


「ああぁぁぁあっ?!ああぁぁぁぁああっ??!!」


 振り下ろした剣は、そのゴブリンの最も近くにいる男子生徒の太腿にズシャッと突き刺さり、血しぶきをあげる。


 刺された生徒は痛みに悶え、泣き叫び、地面にのたうちまわる。それを見た生徒達はもう正常な判断ができなくなった。


 ある者は持っていた剣を振り回し、辺り構わず振りまし、意地でも逃げ出そうと試みる者。またある者は怯え逃げたし、剣を振り下ろしたゴブリンとは逆の方へ逃げ出すが、それに失敗してゴブリンに捕まってしまった者。ある者は精神が壊れ、その場に座り込み涙を流しながら力無く笑っていた。


 それを見たゴブリン達はさらに声を高々にあげて喜ぶ。

 そして再び別の剣を振り上げる。


 それを見た生徒はまた絶望の色に染まり悲鳴をあげる。それを見て楽しんだゴブリンは笑みを浮かべながら剣を振り下ろした。






「やめろぉぉぉお!!!」


 その強い声をあげながら、ゴブリンの間を掻き分けて、青い髪の男が現れた。



 *



 ギルドのテントに残る様に言われた俺は、もどかしい気持ちを必死に抑えて、待機していた。


(おそらく、キッド達はもう既に悲鳴をあげたであろう男子生徒達の元に辿り着いて全体の指揮をしているはず……)


 その予想通り、キッド達は既に男子達の元に辿り着いており、ゴブリン達を退ける為の指示を出していた。


 なら俺に出来ることは、これから起こり得る可能性を潰すことだ。


 相手は野生といえどゴブリンだ。知性はかなりあるはずだ。ならばその知性でなにをしでかすのかを模索すればいい。


「・・・ゴブリンが人を襲う理由は…食料調達…娯楽を得る為…短期増殖の孕み袋……()()()?」


 ゴブリンがやりそうな思考をトレースして、襲う理由を考えると、あることに引っかかった。


 現在、ゴブリンに襲われているのは男子生徒()()。だがもし、ここのギルドのテントにもゴブリンが現れたとしたら何が目的なんだ?


 襲われたとなると、最も手薄になるのは……。


「ソラ!ここもゴブリン達に襲われた!手伝ってくれ!」

「フラグ回収が早いよ!!」


 思わずツッコミを入れるがそれどころではない。


 今襲われたということはゴブリンには何かしらの目的があるはずだ。


 例えば…時間稼ぎとか! ・・・何の?


 ザアァァァァ……


「・・・は!な、なんだ、今の?」


 突如頭の中に流れた大きな波の音が聞こえたと思ったら、一瞬にしてその音が聞こえなくなった。


「・・・って、そんなことより!」


 今は襲われている()()()()を助けないと!


「あ!おいソラ!」


 俺は背後から聞こえる制止を振り切って、エリーゼさんがいる女子側のテントに向かった。



 *



 テントに向かっていると、暗くて見辛いが遠目でゴブリンがテントを襲っている。


「いやぁぁぁあぁあっ!」

「やめてぇっ!」

「離してぇぇぇっ!」


 女子側のテント辿り着くと数名の女子達がゴブリンに引き摺られて外に出てきた。


 ()()()少し遅かったか!


「た、たすけて!」


 引き摺られている1人の女の子から、そんな声が聞こえた。



 *



 ゴブリンに訳もわからず襲われて、何もできないまま無理矢理外に引き摺り出された。


 ゴブリンに引き摺られている私達はこのままゴブリンに殺される。そう思って恐怖で悲鳴をあげる。


 恐怖で何もできない私の視界に、1人の男の子がこちらに向かってくるのがわかった。


「た、たすけて!」


 私は思わず声を出して助けを求める。


 だけど気付いた。こちらに向かってきている人はソラだった。

 学校で散々酷いことをして、孤立させてしまった少年だった。


 そんな子にたすけてなんていない。今まで散々酷いことをしてきたのに、都合がいい時だけ助けてもらうんて……。





「はああああああせいやああっ!!」


 ソラは咆哮を上げて、私達の方に向かってきた。


 その咆哮に気付いて、ゴブリンは立ち止まり、振り返ろうとするが、その前にゴブリンの首が切り落とされた。


 いとも簡単に切り落とされ、私達は一瞬何が起こったのかと目を疑った。


 ゴブリン達も同様で、動くことができず、声をあげることなく固まっていた。


 一瞬の静寂ののち、いち早く復帰したソラは次のゴブリンに向けて踏み込む。

 それにゴブリンは反応できず、隙だらけの胴体に剣を入れて貫く。貫いた剣を引き抜くと、他に捕まっている子を引き摺っているゴブリン達を睨め付ける。


 睨め付けられた1匹のゴブリンは、引き摺っている生徒を盾にして自分の身を守ろうとするが、死んだゴブリンが持っていた小さな斧を投げて、生徒を盾にする前にゴブリンの頭に直撃し、そのまま止まるだろか貫通し弱まった勢いで、斧は地面に突き刺さった。


 それを目の当たりにしたゴブリン達は掴んでいた子達を話すと、一目散に森へと逃げ出した。


 ソラは逃げ出したゴブリン達を追うことはなく、ただ…


「・・・よし! お前ら、大丈夫か?」


 ただ私達を心配して、そう聞いてきたのだった。

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