ゴブリン討伐クエスト・2日目と緊急事態
朝食を終えた後、テントを片付け、出発の準備を整える。
当然、野宿である俺はもちろん片付けなんてものはない。片付け終わるまで休憩時間だ。
俺は持っていたタオルでずぶ濡れになって冷えた左腕をゆっくりと拭いて温める。
左腕を拭いていることに気付いたギルドから派遣されたこのクラスのお目付役のケインは何かあったのかと話しかける。
「それ…何かあったのか?」
「これですか? いいえ、何もありませんよ。ただ濡れてしまったので、しっかりと拭いておこうと」
ケインは最初は嘘だと疑ったのだが、タオルもしっかりと湿っていることから、本当に濡れてしまったのだろうと思った。
「そうか。なら、しっかりと拭いておくんだぞ」
「わかりました」
ケインはそう言って、その場を立ち去ったのだが、ソラから感じ取れる他の生徒たちとは違う何かがケインを恐怖させていた。
*
次の野営地までの道のりは順調だった。
とりあえず、大量の荷物をソラに背負わせることはあまりにも酷いので、それら全てを自分自身に持たせることにした。
だが、それに多くの殆どの生徒達が反対した。
「彼は今日まで自分達と共に協力して準備することはありませんでした。荷物持ち程度は正当な正当な罰だと思います!」
そう言ってきたのはクラスのまとめ役のライト。クラスの代表の様な彼がここまで言うのだ、仕方ないな。
と、そんなことになるはずもない。確かにクラス、そして王立の学校は協調性を唱える場であり、誰かに合わせることは大切だが、ギルドは違う。
ギルドとは自由主義だ。上下関係が少しはあるかもしれないが、基本そう言うことには囚われない。そして最大の特徴は個人の主張や才能をどの様に伸ばすことができるのかという場所である。
その為、たった1日だが、ギルドの面々はソラのことを理解することに時間はかからなかった。
ソラという者は、生徒達と行動するより、1人行動の方が力を発揮できる。
そう判断したギルドのメンバーは、ライトの主張を断り、周囲の監視を頼んだ。モンスターが現れ時、対応がし易いように。
最初は断られるかと警戒したいが、
「はい、いいですよ」
二つ返事で了承された。
その返事は自分は軽々とやってのけれるという証明であった。
それに納得のいかない生徒達はもちろん拒否を示した。何でこんな奴に守られなければならないんだと。
そんな生徒達に言った言葉は、
「ソラより力も体力無く、ここまで来るまでに疲れ果てて次々と倒れていたのに、そんなこと言える立場か?」
その言葉に生徒達は返すことができず、渋々納得した。
ソラが見張りを行なっている間、生徒達は昨日のように倒れることはなかった。倒れそうになる生徒いる者の、どうにか踏ん張って地面に休憩する場所まで歩き続けた。
倒れてしまうということは、誰かに助けてもらうことを指す。では誰が助けるのか…もちろんソラである。
他の生徒達も自分のことで精一杯だ。だがソラは違う。他の生徒達よりも余裕がある。その為、ギルドの人は生徒のサポートをソラに任せるのであろう。
散々落ちこぼれと言い続けたソラに助けられることは、自分がそれ以下の存在だという証明であり、何より優秀な自分が落ちこぼれに助けられたということが彼らのプライドが許さなかった。
生徒達はソラに助けられないようにする為、必死になって次の休憩所、次の休憩所へと進み、そして2日目の野営地に予想より早めに到着したのだった。
*
野営地に到着し、昨日と同じようにテントを建てる。
和気藹々とテントを建てている中、ああー!!っと驚きの声が上がった。
「どうした?! 何があった?!」
「そ、それが……」
「お前がやったんだろ!?」
「・・・何の話しだ?」
突然呼び出させれたと思えば、いきなり犯人呼ばわりをされた。
「惚けるな! お前以外に誰がいるんだよ!」
「だから何の話だって聞いてるんだよ!」
全く聞く耳を持たない奴らに苛立ちを覚えるも、取り敢えず話を聞かなければ先に進まないので合計1回は耐える。
「うるせぇ! とにかくお前は俺達に殴られればいいんだよ!」
次第にクラスの連中が集まってきて、その中の1人の男が拳を振り上げる。
2回目の攻撃なので、俺は腰に下げていた剣の柄を握り、反撃の体制をとる。
「お〜い。何やってるんだ?」
「?!き、キッドさん」
男が拳を振り下ろそうとする寸前、生徒達の後ろから話しかけるキッドの声が聞こえた。
振り上げてた男は、声の主がキッドだと気づき急いで振り上げた手を下ろし、自分の背後に引っ込めた。
こちらの方に向かってきているキッドの口には何かを咥えており、よくよく見てみると、どうやら肉の骨のようだった。
「で? 何があったんだ?」
「それが……」
「こ、こいつが悪いんです!」
「だから何をだって言ってるだろうが!! 主語を言え、主語を!」
いい加減にしてほしいほど続かない会話に、そろそろ本気で怒ってしまいそうなのを我慢して話を尋ねるが、誰1人して俺の言葉に答えようとするはいなかった。
「おい、テメェら…ほんっといい加減に!」
「まあ、落ち着けって。・・・話してくれないか?」
「・・・ギルドが管理していた食料がなくなったんです」
「食料が?」
生徒が怒っていた理由が食料だとわかると、キッドは難しい顔をして頭を悩ませる。食料が尽きたということは旅や遠征では死活問題であり、これから討伐するゴブリンに対し、空腹でロクに力を使うこともできない状態を指していた。
「それがどうして俺が犯人ってことになるんだ?」
「巫山戯るな! お前以外に誰がいるだよ!」
「そうだ!」
「誰がいるってんだよ」
こいつら……。
決め付けにも程ある!
殴り飛ばしてやろうと拳を握りしめるが、キッドがいる手前、その気持ちを必死に押さえる。
「そんなことするかよ。というか、周囲を警戒していた俺にそんな余裕があると思ってるのか?」
「じゃあ、誰だって言うんだよ!」
そう言われると、返す言葉もない。
こいつら空腹で野垂れ死のうと俺的には別に構わない。寧ろいなくなってもらえた方が平和に学校生活が送られるのだが…後々それが俺の所為だと騒がれるのは面倒だし、まじめに考える。
キッドも同じように頭を悩ませ、持っていた肉を手に取ってそれを口に運ぶ。
・・・肉?
「・・・」
「う〜ん……? どうかしたか?」
俺は肉を食べているキッドに視線を向けると、それに気付いたキッドはその視線を疑問に思い、尋ねてくる。
「・・・なあ、キッド。聞きたいんだけど」
「?」
「何食ってるの?」
「何って…干し肉だけど……」
「それってどこから持ってきたの?」
「そんなもん荷物の中にあったに決まって…あ」
・・・
この場にいる全員の空気が凍りついた。キッドもその理由に気付き、顔を真っ青になった。
キッドが食べているその干し肉は、ギルドが管理していた荷物の中あり、それを食べていたらしい。つまりその干し肉はギルドが管理していた生徒達の食料であり、それを食べていたのだ。
「お前の仕業か!!!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁあああ!!!」
一瞬の無言の後、俺はキッドに対して古代人のスポーツ技『コブラツイスト』をかける。両手をクラッチさせて脇腹を痛めつけられ、悲鳴をあげるが自業自得ということもあって、誰も助けず、成り行きを見守るのだった。




