ゴブリン討伐クエスト・出発
3日後
今日は学年でゴブリン討伐クエストに出発する日であった。
とある家では、とある少女が忙しく家中を駆け回り、落ち着かないご様子だった。
「エリー。少しは落ち着いたら?」
「わかってるけど……」
落ち着かない様子の少女エリーゼは、母にそう言われるも、未だ不安を募らせている。
「というか、まだソラは降りてこないの?!」
そして、未だ部屋から出てこないソラに怒りを込めてそう言った。
「よっぽど疲れているのでしょう」
「だけどあまりにも遅すぎるよ!」
ソラは昨晩の就寝の時間、普通に帰ってきた。帰ってきたソラの着ていた服は余りにもボロボロで、エリーゼ達にもわかる程疲れ切った顔をしていた。
ソラは眠い頭を引っ張って今日の準備を済ませ、そして死んだように眠りについた。
エリーゼが朝起きた時、家にあるバスルームから暖かさを感じたから、早く起きてお風呂に入ったと思われるのだが…1時間だった今でも、部屋から出てこない。
「・・・!ちょっと呼んでくる!」
「あ、エリー!」
耐えきれなくなったエリーゼはアリシヤの制止を振り切ってソラの部屋に向かい、そして扉を蹴破った。
「〜〜〜??!!」
「あ、ごめ〜ん」
だが、扉は半分ぐらいしか開かず、ガンッ!!と何かにぶつかり、勢いよく開く扉が止まった。
中を覗いていると、ソラが扉の側で蹲り、必死に頭を抑えていた。
その姿はあまりにも必死に、そして涙目になってエリーゼを睨め付ける。エリーゼはその姿に思わず笑ってしまった。
*
「・・・」
「ごめんって…ね?」
家を出た俺とエリーゼさんは集合場所である王都のギルドにやってきていた。
だが、俺は家を出る前のことで笑っていたエリーゼさんに対して怒っていた。笑うことはないだろうっと
エリーゼさんもそれを理解してか、申し訳なさそうに必死に謝っている。
「・・・次からは気をつけてよね」
「うん。ほんと、ごめんね」
いつまでも怒っていても始まらないので、気を緩め注意を促し、謝罪を受け取った。
俺とエリーゼさんの空気が和やかになり、この3日間ことを尋ねようと口を開く。
「やっときたか!落ちこぼれ!」
緩んでいたエリーゼさんの表情が一瞬にして強張った。呼ばれた俺も、きっと嫌そうな顔をしているのがわかる。
振り返るとそこにはいつも俺にちょっかいをかけてきて、いつも返り討ちにあう、トム、カイ、ミンの『ズッコケレミュート三兄弟』だった。
「おい、落ちこぼれ!いくら一瞬にクエストに行くからといって調子にのるなよ!」
「そうよ!調子に乗るじゃないわよ!それに…エリーゼさん!あなたもよ!」
「「は、はあ……」」
ズッコケ三兄弟の次男、カイが俺に指差してそう言ってくるのに便乗してか、長女のミンもエリーゼさんに向かって指を差した。
この三兄弟は長男と次男は双子らしいことを聞いた。だが当然いつもくっついている長女のミンはどういうことなのか。しかし案外簡単な理由だった。ミンは早生まれで、同じ学年らしい。
そんな面倒くさい三兄弟に捕まった俺とエリーゼさんはとても困った表情を浮かべ、実際に困っていると、勢いよく話す2人を止めて、最も鬱陶しい奴が現れた。
「やあ、おはよう。麗しき姫君」
エリーゼさんにとって最も苦手で、俺も2番くらいには苦手な男。レミュート家長男トム。
「今日も実にお美しい……」
「は、はあ…どうも…」
トムの反応から見て、きっとエリーゼさんに好意があるのだろうと考えている俺。その証拠に、トム弟であるカイは、俺とエリーゼさんの仲を引き離そうと色々な方法をとった。
・・・まあそれが、他の生徒からのいじめの始まりだったんだが……。
まぁともかく、俺にしては、珍しくそこまで嫌いな人物でないの人である。
トムは少し自分のことを美化し過ぎている傾向があり、自分の周りのものを美しいと思う傾向があった。
そんなレミュート三兄弟の良いところは、やはり兄弟愛だ。
俺をいじめるカイに仕返しをしていると、必ずと言って良いほどトム、そしてミンも参戦してくる。
そんな兄弟愛は、称されるものだと考えている俺は、いじめてはくるが、そこまで嫌いではない奴ら。程度には覚えていた。
「・・・そして我が好敵手よ!久しいな!」
これさえ無ければ……。
こいつは、エリーゼさんとよく一緒に行動している俺をライバルしており、俺はそれを鬱陶しく思っていた。
「あ、アハハ……」
「ふむ。実に元気そうでなによりだ。互いに主力を尽くして頑張ろう!」
「あ、ああ……」
「ではまた会おう!あーハハハハハ!!!」
レミュート三兄弟はそう言って俺たちから離れていった。離れている時、弟達はこちらに向けて舌を出していたが、俺とエリーゼさんはすっかりトムの勢いに呑まれ、呆れ惚けていた。
しばらく無言の時間が続き、
「・・・並ぼっか……」
「・・・そうだな……」
俺たちは会場の列に並んだ。
*
集会が始まり、ギルドの人が続々と俺たちの前に立ち、自己紹介やらギルドやクエストの説明をしていた。
「そ、そりぇでは、これからクエストに向かおうと…向かおうと思います!」
そして驚いたことに最後に話したのはキッドだった。
キッドはすっかり緊張して、ガチガチに固まっていて、思わず吹き出してしまいそうになり、それを堪えるのに必死だった。
全員が立ち上がり、1学年数十名の人数をクラスごとに分けてクエストに向かう。
俺のクラスもクエストに向かおうとしていると遠目でキッドが誰かと話しているのが目に見えた。
目を凝らして見てみると、
「・・・リシア先生?」
俺は聞き耳を立てながら少しづつ話し込んでいる2人に近づいていった。
「それじゃあ、クラスのみなさんを頼みましたよ」
「わ、わかってるよ…姉ちゃん」
「・・・姉ちゃん?!」




