特訓開始
本日から第2章が始まります。
「さあ!特訓を始めるわよ!」
「「・・・はぁ〜い……」」
「元気がないわよ!」
「何時だと思ってだよ!?」
「ふぁ〜……」
あたりはすっかり暗く…いや、未だ暗い。
現時刻は古代時間午前4時…ぐらいだろか……。
王城の中庭で眠そうにしている俺とコレットとは対照的に、凄まじいほど元気なカンナに対し、思わずツッコミを入れる。
まだ太陽は登っておらず、あたり一面真っ暗である。
「特訓してほしいと言ったのはあなたよ?」
「確かに言った。ああ言ったさ!でも、昨日の今日で、しかもこんな時間にやるなんて一言も言ってないだろが!」
あの後、コレットが目を覚まして再びカンナがやってきた。
カンナは少しニヤついた笑顔でコレットを見る。コレットもそれに気づき体を少し縮こまり、ほんのりと顔を赤くなるのを確認すると、満足したようで、今度は横になっている俺の方を見る。
するとすぐさま俺に回復魔法をかけた。体の傷や痛みどんどんと無くなっていき、みるみる回復していった。
そして、俺の怪我が完全に完治すると、
「帰れ」
「は?」
そう言われ、あれよあれよ帰宅。
帰宅して待ち受けていたのは、理事長のアリシヤさんと娘のエリーゼさんの説教だった。
2時間にも及ぶ2人の説教を終え、俺は力尽きるように眠った。
そして翌日の今日。今から約30分前。
「さあ、特訓の時間だ」
「頼むから、もっと説明をくれ〜??!!」
眠っていた俺を突如現れたカンナにロープでぐるぐる巻きされて、街の屋根を駆け抜けていった。
そして現在。
着替える時間すら与えられず、結局部屋着のままこのやり場のない怒りを必死に堪える。隣いるコレットも、こくりこくりと船を漕いでいる。だが、俺と違って部屋着のネグリジェではなく、動きやすい服を着ているのだが……。
「・・・なんでブルマ?」
古代人が命名していた太ももが丸見えのスポーツ用パンツ・ブルマ。どういうわけかコレットはそれを履いていた。
「おいそこのラベンダー。これはどういうことだ?」
「ラベンダー?」
「俺があんたを呼ぶ時、『ウィザードの人』が主だったからな。あんたの特徴のその髪の色をそのまま呼ばせてもらう。で?ここにいる船を漕いでいるお姫様のこの格好はなんだ?」
「髪の色…か…。まあ、いいとするか。それでその格好のことね。簡単なことよ。私が以前着ていたのを渡しただけよ」
なるほどっと納得するも、俺はコレットとラベンダーのある一点の違いを見つめる。
見つめているとあることに気付く。コレットが着ている上の服が少しぶかぶかであることに。
「・・・趣味が悪い上に、鬼畜」
「何か言ったかしら?」
「いえ別に。なんでもありませんよ」
思わず口に出した言葉に機敏に反応するラベンダーに誤魔化すような手振りをする。まあ、実際誤魔化しているのだが……。
「それで、特訓と言っても一体何をするんだ?」
「う〜ん。とりあえずはこの中庭を走りなさい。それがしばらくの間の特訓よ」
話を晒すように特訓の内容を聞くと、なんとも基本的で簡素なものだった。
「そんなのでいいのか?だったらすぐ終わらせて……」
くる。という言葉を最後まで続けることは出来なかった。
そう言おうとすると、突如俺の横を何かが通り過ぎるのを感じ、頬を触って見ると、ぱっくりと頬が切れ、そこからツゥ〜っと血が滴り落ちる。
「とりあえず、私が良いというまで走り込み。それが少年の特訓だ……」
そう言うとラベンダーは杖を強く握りしめて俺の方を…というか俺を標的に目を輝かせている。
・・・もう嫌な予感しかしない。変な汗まで湧き出てくる。
「・・・おい、まさか…」
「安心なさい。あなたを殺すようなことはしないから。ただ、死ぬ気で逃げないと、怪我だけじゃ済まなくなるから」
「ふ、ふざけんな!!!」
俺が走り出すと同時に、カンナからたくさんの魔法が放たれる。
俺はそれに追われながら、必死に駆け抜けるのだった。




