強く
6/26・一部編集しました
真っ赤になった顔を手でパタパタと仰ぎ、熱を逃がしているコレット。
だが暑いからといって襟元もパタパタさせるのはやめてほしい。
自分でもなかなか大人の感覚を持っていると思うが、チラチラと見える鎖骨になんだかドキドキしてしまう。
俺はコレットに向けている視線を逸らし、見えてしまわないように気をつける。
しばらくして、やっと冷静になったのか、ふぅ〜っと息を吐き、
「・・・ソラ。聞いてくれる?」
「・・・わかった」
覚悟を決めたように話し始めた。
「私は、ずっと考えてた。お父様を助けたい。でも、それだと宮廷魔導師さんを倒さなきゃならない。そう考えると、私はとても辛い気持ちになの。宮廷魔導師さん…スノウさんとの楽しかった思い出もあったから……」
宮廷魔導師…スノウと呼ばれる人…いや、魔族の人との思い出があるからこそ、辛い気持ちにも、悲しい気持ちにもなったからこそ、答えを出すのは辛いことだろう。
俺はそれを許容した。悩むことを。
「だから…ううん!だからこそ!直接あって話がしたい!我儘かもしてない、何も考えてないって言われるかもしれない。でも!ちゃんと話して、聞いておきたい!それが、今の私の理由…じゃあ、ダメかな?」
どんどん声が小さくなっていき、最後はもう呟くような弱々しい声を出す。そんなコレットを見て思わずため息を出してしまいそうになり、少し呆れてしまう。
「・・・ダメだ」
俺がそう言うと、とても暗い表情で俯いてしまう。
俺は痛みが走る体を無理矢理に動かして起き上がる。起き上がるのに気づいたコレットは、すぐに手を伸ばして俺を支えようとするが、手振りでそれをやめさせる。
体を起こし、ベットの上座ると、
「そんな弱気じゃダメだ。決めたことならもっと強気でいけ」
そう言うと、少し目をパチクリさせ、こちらを見てくる。
「言っただろ、力になるって。流石に変なことだったら止めるつもりだったけど、『話がしたい』ってなら俺でも力になるよ」
それを聞いたコレットは、こちらを見て動かなくなり、どうした?と首を傾げようとして首からくる痛みを感じて、そちらに意識を向けると何かが俺に抱きついてきた。まあ、ここにいるのは俺とコレットをだけなのだから、誰なのかはわかるが……。
正直、色々やばい。女の子特有の匂いが鼻をくすぐるのだが、それ以上に俺の体がやばい。痛い!すごく痛い!触れている部分とか、抱きしめている場所とかが砕けてしまいそうなくらい痛い!
俺は抱きしめているコレットを退かそうとするが、
「ありがと…。ありがと…」
聞こえてしまった呟きに俺の動きは完全に止まる。よく見るとコレットは少し震えており、それに気づいた俺は少し考えた後、落ち着くまでそっと頭を撫でるのであった。
*
「大変いいご身分だな」
「そ!・・・んなわけあるか……」
話しかけてきたのは部屋に入ってきたウィザードのカンナが早々にそう言ってきたので大きな声で否定しようとしたが、声を押し殺して否定した。
カンナの目の前では、ボロボロになって倒れていた上半身を包帯で巻かれている男が起き上がり、その男に抱きついている姫様の姿があった。
「それで?どういう状況?」
「悩みを聞いた。抱きしめられた。寝た」
「簡潔な上に何故片言?」
返答には沈黙で答える。
うるせぇ…俺だってよくわからないんだよ。
そんな現状をよそ目に、俺を抱きしめている張本人は、
「すぅ〜。すぅ〜」
なんとも可愛らしい寝息をたてている。
まあそのおかげで俺は未だに激痛を味わっているだがな……。
「・・・お邪魔そうだし、席を外すわ」
「あ、ちょっと待て」
部屋から出て行こうとするウィザードを俺は呼び止める。
「何?」
「頼みがある…あります」
いつもの口調から外れ、真面目なしゃべり方をするソラにドアノブに手を伸ばしていた手を引き、こちらを振り返る。
「コレットから話を聞きました。助けていただきありがとうございます」
「いえ、私は私の出来ることをしたまでよ」
「・・・それに甘えるような形になるかもしれませんが…お願いします。俺を強くして下さい」
体の痛みや抱きしめられている故、体を動かすことはできないが、自由動ける首で頭を下げる。
「最後は気絶して、守ることが出なかった。俺に力があれば、もっと早くあいつを倒すことができた」
「・・・」
「結局は悔しかったんです……」
そう言うと、毛布を強く握りしめ歯がゆい気持ちが溢れ出てくる。
もっと早く倒せていれば、この子に怖い気持ちをせることなかった。不安させることなかった。そんなことばかり考える。
「だから今度はちゃんと守れるように…後悔しないために!」
「・・・」
「・・・お願いします」
俺はもう一度頭を下げる。話をまとめれば、自分が嫌な気持ちをしないために強くなりと言っているようなものだ。
でも、頼れるような人はこの人しかいない。俺は頭を深く下げて、頼み込んだ。
「・・・私の特訓は厳しいぞ」
「?!・・・はい!」
カンナの了承を得て、俺は声を押さえながらも、力強く返事をした。
*
「・・・似た者同士め」
部屋から出た扉越しにいる2人を思い出しながら、そんなことを呟いた。
『カンナさん!』
昨晩、王城の廊下を歩いているとソラが眠っている部屋にいるはずの姫様が私を呼び止めた。
『いかがなさいました?』
『お願いします。私にあなたの知識を授けて下さい!』
姫様の言葉に何事かと目を丸くすると、
『もう見ているだけは…守られているだけは嫌なのです。今度は、私がソラを…みんなを守りたいんです!』
そう言って姫様は、ソラと同じよう頭を下げた。全く同じような2人に頬を緩ませる。
「・・・さてしばらく忙しくなるわよ〜」
これからのことを考えて、カンナはいつも以上に気合を入れるのだった。
これにて一章完結です。




