ピンチと思いを
盾が横っ腹に直撃したトーラムは、盾の勢いに体が浮き上がり、回転しながら宙を舞う。そして回転したまま地面に激突した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
トーラムを吹き飛ばしたソラも自身も、もうかなり息切れをしており、見るからに汗が滲み出ていた。
「よ、よかった、無事で…。もしかして、このまま魔族さんを!」
「それは無理でしょう」
爆発に巻き込まれたソラを見て安堵の表情を浮かべる姫様。そしてトーラムに勝つことを期待していた姫様に現実を突きつける。
「ど、どうしてですか?」
「少年をよく見てください」
そう言ってコレットはソラを見る。
ソラの呼吸がかなり荒れており、ひどく汗をかきながら足元がふらついている。
「おそらく彼は今、もう既に限界で、立っているのもやっとの状態だと思われます」
私は驚いて、隣いるカンナさんを見る。カンナさんは横目で自分を見ているのを確認すると、どうしてなのか説明を始めた。
「まず、彼について。ここにくる前に彼、ソラについて調べました。彼は学校で魔法を使うことができない落ちこぼれと言われているそうです」
「で、でも!今まさに彼は魔法を発動させています!」
「はい、その通りです。ですが、もしそれが本当だったのなら、いきなり発動した魔法に勢いよく魔力が消費され……」
「・・・その魔力の消費に体がついていかなくなる……!」
「そう。今彼が疲労はしているのは、魔法を受けたことへの疲労ではなく、彼自身が魔力を使い続けているための疲労なのです」
それを聞き、不安が頭をよぎる。すると、どうにか立っていたソラの膝が崩れ落ちる。
「おそらく、もう魔力の消費に体が限界を訴えているのでしょう。あの盾をみてください。もう十字架の部分は砕け散りもう盾の部分しか残っておりません」
膝を地面につけているソラの手の盾は、もう十字架は崩れ落ち、円盾も十字架と同じ様に崩れ落ちていた。
コレットは慌ててソラに駆け寄ろうとするが、それをカンナに止められる。
「カンナさん!」
「・・・よくみて見なさい」
カンナの言葉に従って、ソラの様子を伺う。
ソラはコレット達を見ておらず、真っ直ぐにトーラムを見ていた。
俺は、体が明らかに悲鳴をあげているのを理解しながらトーラムを吹き飛ばした方をある種の願いを込めて見つめる。
だがしばらくして、その願いが裏切られる様に動き始める影。
それを見て、あ〜あ…っとため息が漏れる。
まぁ明らかなフラグを立ててしまったことを理解してしまったので、なんとなく予想していた。
というか、起き上がるなよって思った時点で、もうダメだよなぁ…。
動き始めた影がトーラムであることを確認すると、悲鳴をあげている体に鞭打って立ち上がる。もう体はガタガタで、既に動くことができないのはわかっているのはわかっている。
でも…
「何故だ!!!」
立ち上がったトーラムは、まるで叫び声の様な大声をあげる。俺は踏ん張って立ち上がっている中、その声が聞こえたので、俯いていた顔をあげてトーラムの方を見る。
「何故貴様はそこまでして立ち上がる?!何故そこまで戦う?!貴様とあの子娘とは何の関係もないだろうが!!!」
トーラムの叫び声を聞き、考える様に俯く。そして重苦しくその口を開いた。
「・・・確かに、関係はないのかもしれない……」
「?!」
俺の言葉を聞いて、トーラムは嬉しそうな笑みを浮かべ、それを聞いたコレットはとても悲しそうな顔つきに変わる。
「そうか。それなら、俺達と一緒こい!実力主義の魔族でも貴様程の奴ならば、魔族でもやっていける。欲しいものならばいくらでもくれてやろう!望むものはなんでも手に入る。どうだ?悪くない条件だろう?」
トーラムはこちらに手を伸ばしながら俺を勧誘してくる。
実力主義。もしそれが本当なら、それも悪くないだろう。人族の世界では、俺はいじめや落ちこぼれ、害悪の対象だ。むしろ、そっちの世界の方が俺にとっては生きやすいのだろう……。
「でも…理解してしまったんだ……」
俺は踏ん張って立ち上がり、目の前にいるトーラムではなく、カンナの隣にいる悲しそうな表情をしているコレットを見つめる。
「・・・俺は、一緒にご飯食べたり出かけたり、しょうもないことで言い合ったり喧嘩したり、俺を普通の人として普通に接してくれたたった1日が、俺は好きだった」
「ただ一緒にご飯食べるだけで、意見が食い違っただけで喧嘩したり、出かけるだけで振り回されたりして、ごく普通のことが、俺にとっては、すごく嬉しかった。暖かかったんだ……」
俺が言った言葉に思い当たり、は!ッとした表情を浮かべるコレット。それはコレットが、ソラと過ごしたたった1日にあった出来事だった。
だから…。
俺はコレットから視線を逸らし、正面にいるトーラムに視線を移す。
「だから俺は、暖かくて、そして大好きだった、そんな時間を守るために、お前に、コレットを殺させはしない!!!」
ソラが自分が立ち上がる理由を言い放つと、少しだけ顔を下げてそうか…っと呟き、酷い笑みを浮かべこちらを見た。
「せっかく後ろから刺し殺してやろうと思ったんだがなぁ!!」
その酷い笑みにびくりと体を強張らせる。やっべ〜。怖ぇぇ……なんて考えられるだけまだマシか……。
「だが、もういい。俺は、お前を確実に殺すことにした」
殺すと宣言したトーラムに指を指され、俺は崩れかけている盾を三度構える。
「貴様の願いも!時間も!何もかも!この俺が破壊し尽くしてくれる!当然、あの子娘もだ!」
トーラムはコレットの方にも指を指し、それにコレットもびくりと反応する。
「そんなことさせない!やらせるもんか!俺の友達を、コレットを、絶対に殺させはしない!」
「ならば、俺を止めてみせろ!!!」
そう言って、トーラムは手を高々と掲げると、炎の魔法を無数に発動させた。




