ピンチ
トーラムと呼ばれた男は、俺が魔族と呼ぶと、一瞬慌てたように頭を確認する。
おそらく、人化の魔法的なもの使っていたのだろう。耳やツノを確認すると、舌打ちをしてこちらを睨む。
「きさま、よくも!」
トーラムは杖を構え、魔法を放とうとするが、
「動くな!」
それをさせまいと、ウィザードがトーラムに向けて杖を構える。
「貴様にこれ以上、我が国の民を傷つけさせる訳にはいかない!手を頭に付けて投降しなさい!」
ウィザードはトーラムに投降するように指示をする。トーラムは指示に従うようにゆっくりと両手をあげていく。
投降する気になったのだなっと油断すると、トーラムはあげた手でパチン!っと指を鳴らす。
俺はすぐさま警戒するが、トーラム自身に何かが起きることはなかった。
ホッと安心すると、周りからガチャン!ガチャン!っと大きな足音を立てて、近づいてくるのがわかった。近づいてくる足音はどんどんと増えていき、その音の正体が姿を現した。
兵士だ。俺が暮らしている王都の鎧を身に纏った王都の兵士達が続々とこの場所に集まってきた。
恐らく、こちらの増援が来た…というわけではないだろう。
「も、もしかして、味方でしょうか?」
「なわけあるか!」
「残念ながら、それはないでしょうね」
思わず聞こえてしまったボケとも取れるコレットの発言についついツッコミを入れ、ウィザードも同じように指摘する。
トーラムが指を鳴らし、兵士達が集まって来た、ということは……
「このガキは俺が殺る。お前達は、小娘を連れてこい。その女は殺しても構わん」
「は!」
そんなことだと思ったよ畜生!
兵士達は剣を構えながら、ウィザードとコレットに迫っていく。兵士達の足取りはおぼつかないが、しっかりとコレット達に近づいている。
「か、カンナさん…!」
「姫様は後ろに。私から離れないでください!」
コレットは怯えながら、カンナと呼ばれたウィザードの側に駆け寄る。カンナもそれに答えるように、コレットの身を隠しながら前へ出る。
あのウィザードは、他の兵士達と違って操られてはいない…なら!
「おいあんた!確か、カンナとか言ったな!」
「何?こっちは忙しいんだけど!」
「コレットのこと、任せるぞ!」
「言われなくても、そのつもりよ!」
よし!言質はとったからな!
俺は目の前にいるトーラムに集中する。と言っても、今の俺ができることはたった1つ!
とにかくかわして逃げ続けることだ!
・・・心で言い放ったものの、呆れて涙が出て来そうだ。
と言っても、今の俺には足以外には武器になるよなものはない。ただひたすら逃げて、隙を見て攻撃!これだけだ。
「トルネード・ハンマー!」
いざ覚悟を決めて走り出そうと踏み込んだ瞬間、魔法が放たれ、再び壁に叩きつけられる。
しかも、それだけで終わらず、壁に当たっても魔法の勢いは収まることがなく、そのまま壁が抜け、叩きつけられた壁を抜け、壊れた窓ガラスから家の中に叩き込まれる。
叩き込まれた俺は、相変わらず弱ぇな、俺…っと思いながら三度立ち上がろうとした。
・・・力が全く入らない。
ここに来てかなりまずい状況になった。立てないならまだしも、指1本にも力が入らない!
どうにか呼吸も出来ているし、意識もはっきりしてる。それなのに、必死に体を立ち上がらせようとするがいうことが効かない!
恐らく、死ぬかもしれないという思いと、2回連続で壁に叩きつけられたことへのダメージが蓄積されていたのだろう。まあ、意識があるだけまだマシ…いや、残念と言っておこうか。
「やはり、貴様のような下等生物に上位魔法を使うのはもったいなかったか」
俺が叩き込まれた場所から遅れて入ってくるトーラム。そして俺を見つけると、再び手を俺にかざす。
「まあいい。どうせ貴様ここで終わりだからな」
見下しように睨みつけ、手の平に炎が集まっていく。
どうせ、俺ここで死ぬんだから……。




