お姫様の「信」
「指示は出してない?嘘つけ!あんなに大勢の鎧の足音が聞こえたのに、連れて来てないわけないだろうがか!」
ウィザードの言葉に1番反応を示したのはソラだった。あの視線は明らかにこちらを捉えており、まるで舐め回すような気持ち悪さから動物でなく、人であると考えていたソラは、その正体はこいつが連れて来た兵士達だと当たりをつけていた。
「嘘じゃないわ。もし連れて来るなら、私個人に、護衛の1人や2人はつける!」
「信用ならない。理由は簡単。敵同士だからだ」
ウィザードをの言葉を否定し、簡潔に理由を説明する。その簡潔な理由だけでも、瞬時に理解し押し黙るウィザード。
「あんたは敵に対して、『武器は持っていませんよ。安心してください』なんて言われて信じられるのか?」
俺の問いかけに、ウィザードは完全に沈黙した。だが、信じられないのも当然のことだ。
兵士や騎士は何より、王の身の安全を第一に考えて行動する。兵士達がいい加減な行動すれば、王はすぐに討ち取られ、国の壊滅を意味する。
ウィザードはきっと、それを理解して何も言えなくなったのだろう。この人はすごいウィザードだ。きっと、王都の宮廷魔導師になれるくらい、凄腕の魔導師だ。
そんな人だからこそ、信用がどれだけ大事なのか理解できる。安心するという意味がわかるのだろう。
でも、そんな人だからこそ…
「あの〜」
突然、小さく声が俺とウィザードの耳に届く。声のした方を見ると、コレットが手を上げながらこちらを交互に見ながら、
「えっと、私は、信用してもいいと思います」
そう言ってきた___って…え?
「・・・す、すまん。もう1回言ってもらっていいか?」
「えっとね。私は、この人なら信用していいと思うの」
聞き間違いかと思い、聞き返すとやはり、聞き間違いではなかった。
それに頭を抱えようとするが、それをどうにか耐えて、ウィザードの方を見ると、逆にウィザードが頭を抱えていた。
「・・・コレットさん?あなた、それがどういう意味なのかわかっているの?」
「はい!」
「・・・そう。あなたはきっと優しい子なのね」
ウィザードはそう呟きながら、コレットに近づいていった。
俺はすぐさま逃げるように言うが、大丈夫とそれを遮ってコレットはウィザード見据えた。
「でも、その優しさはいつか後悔するわ。辛いことや悲しいこと。たくさん。それでも、あなたは誰かを信じるの?」
ウィザードは重く問いかける。まるでそれを体験したことがあるように。自分の心配でなく、紛れも無い、コレットのためを思って……。
「・・・信じます」
その言葉に驚きの表情を浮かべる。彼女も予報だにしていなかったのだろう。
それは俺も同じだ。涙を流し、苦しんでいた彼女の姿を知っている。悩んでいた彼女を知っている。
「辛いこともあると思います。信用して裏切られることもあると思います」
そんな彼女が、
「でも、誰かを信じないで見捨てるぐらなら、私は裏切られる方がいいです!」
しっかりと答えを出した。
俺はそれが嬉しくて、眩しくもあった。
「・・・そう。・・・羨ましいわ……」
小さく呟いた言葉にコレットはえ?っと反応するが、俺は聞き取ることができなかった。
「・・・辛いことは必ずある。でも……」
ウィザードが何かを伝えようと、コレットに手を伸ばす。コレットはそれに怯えることはなく、ただ、真っ直ぐにウィザードを見つめていた。
だが、ウィザードが何かを伝えることなかった。
急に空から黒い影が俺たちの中心に舞い降りた。




