レオナの初異世界
相手がツバサ・オオゾラであるため、十二星宮は潜入任務の前に入念な準備を行った。そしてアリエスの誘導のもと、潜入任務を行うレオナを連れて異世界へやってきていた。
アリエスは前回キャンサーが現れた場所とは別の、ツバサ達が暮らす場所からかなり離れた山に降り立っていた。
その後ろをレオナがついて歩いていた。
「あ、アリエス様。なぜ、こうも目的地から離れた場所に降り立ったのですか?
もう少し、近場でもよかったのでは……」
「前回は油断をしていたからまさか街の全域に『円』を広げているとは思ってもいなかったわ。
キャンサーでも感知することが出来なかった円……。さすがは、ツバサ・オオゾラね」
「敵に対して高い評価ですね」
「過小評価なんてしない。ツバサ・オオゾラの実力は本物。
キャンサーもそれは認めている。前回は小さな油断と相手の力量を想定を上回った。予測が甘かったのよ」
「さようですか……」
「それよりも……。この世界の服を用意したわ。私達十二星宮は魔力を持たない者に認識させないようにできるけれど、貴方はそうはいかない。
人間である貴方は他の者に認識されてしまう。
そんな人間が、貴方のような服を着ていると、とても驚くのよ」
「そうなんですか?」
「貴方の服は見るからに入院患者のような服装で、ショーツも身につけていない上にそんな横の隙間からはっきりと人肌を見せるような服を着てはこの世界の衛兵に捕まってしまいますよ」
アリエスに言われ、自身の服を確認してみる。
服は病院服。ただ袖の下や脇の下から下の服に至るまで、前掛けのように頭を入れる部分を中央に折りたたんで着る前掛けのような服で、腰には服が浮いたり跳ねたりしないように紐が巻かれている。
しかし、それ以外はまったく止まっておらず、袖の下や脇の下に布はなく、さらに脇の下から胸部、腹部、太ももから脚先にかけて一直線に布がない為、完全に露出状態。横から服を覗けば胸の形や諸々がはっきりのわかってしまうほど露出度が高い服を着ていた。
「……そんなに変ですか?」
「正直、かなりね……。そんな服ばかり着ていると、デルタ=Ⅳに嫌われてしまうかもしれませんよ?」
「そういえば最近、デルタがあまり目を合わせて話をしてくれないんですよね……。関係あると思いますか?」
「……まあ、彼も男の子だから……」
「はあ……」
レオナはよく意味がわからず首を傾ける。純粋なレオナの眼差しに目を逸らしたアリエスはすごく心を痛めた。
アリエス前に一度なぜレオナと目を見て話さないのかとソラに尋ねたことがあった。
返ってきた回答は、
「目のやり場に困る」
なんとなく予想通りの回答でなおかつとても正しい回答であった為、何も言い返すことが出来なかった。
この世界の服を受け取ったレオナは何も気にせず服を脱ぎだし、受け取った服へ着替えようとし始めた。
「ちょ! お待ちなさい!
どうしてこんな道の、しかもこんなまま隠せるところが少ないところで着替えようとしているのよ!」
「どうして……と、言われましても……。
早く着替えようと思いまして」
「それにしたって、若い女の子が堂々と日の下に全ての肌を晒す者ではありません!
そこに茂みに身を隠して、着替えてきなさい!」
「ですが、ここで着替えた方がはや、」
「いいわね!」
「は、はい! わかりました!」
ここまで言われてようやく茂みに隠れるレオナ。
こんなことでは幸先が不安になっていくアリエスであった……。
*
服を着替えたレオナは森の出口までアリエスと共に行動した。
そして、
「これより先は彼のサーチ能力の範囲となるわ。ここから先は貴方一人で行きなさい。
ここから真っ直ぐに進んだ先に目的の家があるわ」
と言われ、レオナは真っ直ぐにと道を直進していった。
レオナにとって周りのものはとても見慣れないものばかりで目移りしてしまうが、今は任務が優先と気を引き締めて、目的の場所に向かっていった。
そしてその目的の近くに到着して、上を見上げた。
正面には先程……とは違うが、同じような山道が続いており、先程も歩いていたようなとても長い坂道が続いていた。
レオナは目の前にある薄暗く、どこまでも続くとても長い長〜い道を見上げてぐったりと俯く。
しかしいつまでもこの場で立ち続けていても何も変わらない。
それにこれは任務だ。自分の主人であるアリエスが期待してこの任務を任されたのだ。
故にこんなところで挫折するわけにはいかないと思い、気持ちを切り替えて目の前にある山を登り始めた。
そこから数分が経過し、レオナは疲れ果てて膝に手を置きながら、肩を大きく揺らしながら、呼吸を整えていた。
「どうして……こんなに、長いの、ですか……」
荒い呼吸でそう呟くレオナ。現在ある地点はこの坂道のおよそ半分の程度の地点であった。もう半分を登り切れば、レオナが目指している目的地なのだが、今は疲れて歩けなくなっていた。
実の所、現在いる道は少し道が荒く、急斜面だが真っ直ぐにこの先にある家にたどり着く道であり、時間をかけて登るのであるなら、少しだけ遠回りすれば、緩やかであまり疲れず、登りやすい坂道があったりする……。
そんな道の端で今にも座り込んでしまいそうなのを我慢して休憩をしていると、休んでいるレオナを追い抜いて軽々と坂を登っていく真っ白な女の子が視界に飛び込んできた。
「お兄ちゃん! はやくはやく!」
「そんなに急がせるなよ……。僕は義母さんから頼まれた荷物を持ってるんだよ。そんなに早く歩けるわけないでしょ」
真っ白な女の子は一度背後に振り返るとさらに後ろにいる人物を呼ぶために声を出す。
後ろにいる人物は白い少女に文句を言いながら早足で坂を駆け上がってきた。
レオナは背後から聞こえてくる声に息を詰まらせた。
聞き覚えのある声。とても身近な、ほぼ毎日聞いているとてもよく知っている者の声……。
疲れなのか、それとも何かを確かめたいのか、心臓がとても煩く、激しく跳ね上がりながら、ゆっくりと背後を振り返った。
「まったく……。そんなに急ぐ必要は……?」
「ーーー」
背後から、真っ白な少女に追いついた男がレオナの存在に気がついて、視線が重なる。
レオナは言葉を発することが出来なくなった。
目の前にいる人物は、自分がよく知っている。とてもよく知っている人物……デルタと、まったく瓜二つの姿をしている男の子であったーーー。
*
その頃アリエスは、とある公園で遊びまわる子供達を見守っていた……。
『……』
ただ静かに見つめるその目にはとても慈愛の心を持っていた……。
『ーーー二人の敵である十二星宮の一人が、こんなところで何をしているのかしら?』
『……あなただって、元々は十二星宮の一人だった。違うかしら、『アクエリアス』』
子供達を見守っているアリエスの背後にいつのまにか元十二星宮であり、現在、大空 エレナの心獣であるアクエリアスが優しく語りかけてきた。
『あなたの目的を答えなさい。家族であり、友人でもあるあなたを、こんな形で失いたくはないわ』
『……ええ、そうね。話すわ。
私達目的をね……』
次回は12月29日に投稿します。




