潜入任務
コンコンッ
「入りなさい」
「失礼します、アリエス様。お呼びでしょうか?」
会議が終わり、ある提案をしたアリエスは自身を慕っているレオナを呼び出した。
「ええ。よく来てからだわね」
「い、いえ……」
「最近どう? 忙しくてあんまり話をかけてあげることができていなかったから……」
「はい……。寂しくもありますが、デルタがいつも話し相手になってくれて楽しい日々を送っています。
前までは何を考えているのかわからないからでしたが、ここ最近は言葉に笑顔で返してくれたり、相槌をうって話を聞いてくれることが多く見られてとても楽しいです」
「……そう」
アリエスは自分を慕ってくれるレオナの屈託のない笑みに言葉を詰まらせる。ここまで邪な思いが無く自分をろを慕ってくれている彼女にこれは辛い者ななるのかもしれない。そう思うと言葉が出てこない。
だが意を決したように言葉を続けた。
「……。これからあなたに潜入任務を行ってもらいます」
「潜入任務?」
「そう。詳しくはこの資料を元に話をさせてもらうわね」
アリエスは机の上に置いてあった紙の束を手に取って正面にいるレオナに手渡す。
紙の束を受け取ったレオナはその資料に目を通していく。
「……今回の対象者は『ツバサ・オオゾラ』。そしての家族、親しいもの、他多数よ」
「多数?」
「もしかするともっと少なくなるかもしれないし、親しいものや他多数は監視しなくても構わない。
重要なのは対象者である『ツバサ・オオゾラ』とその家族よ」
「はあ……」
レオナは重苦しそうに淡々と語るアリエスに首傾ける。ただの潜入任務で何故そこまで警戒をしているのかレオナにはわからない。
しかし、
「任務レベルは『ゾディアック』よ」
という一言で一気に気持ちを引き締めた。
十二星宮が出す任務には三段階の任務レベルがある。任務レベルが低い方から、『スカイ』<『スター』<『ゾディアック』。より十二星宮としての形に近いほど任務のレベルが上がっていく。
ソラが今まで受けてきた任務は十二星宮にとって最も敵となりうる強大な者達に対する任務が多く、十二星宮の力をより引き出すために死を伴う過酷な任務が割り振られており、それらの任務が『ゾディアック』に値する任務であったが、ソラ自身はその事を知らない。
知る必要のないものとして、リブラはあえて伝えていなかった。
それ故にレオナは一気に気持ちを引き締める。しかしそれでも何故潜入任務がこれほどの難易度となっているのかわからなかった。
「疑問もわかります……。それも含めて説明しますが、今回の対象は『ツバサ・オオゾラ』としていますが、一番重要なのはその家族の方です」
「家族の?」
「そう。今回の最大の対象はその家族にいる息子。それが一番に対象者よ」
「……その子の名前は?」
「名前は『空』。見た目はそうね……。なんと言えばいいのかわからないけれど、あなたがよく知っている人物よ」
「? はあ……」
変な事を口にするアリエスにレオナは頭の片隅程度で覚えておくことにした。
「そして何故任務レベルがゾディアックかというと、その潜入任務を行う相手が我々にとって敵であるという事」
「敵……。はっきりとその言葉を使われるのは初めてですね」
「そう? まあそれだけ十二星宮である私達を敵に回そうとする者たちはいないから、そうなってしまうのも必然的なことね」
「……。それで、その相手が敵であるのと、そこまでの警戒をするのは関係があるのですか?」
「はっきり言って、最重要警戒人物よ」
アリエスのその一言にレオナは表情を硬らせ、言葉をつまらせた。
「『ツバサ・オオゾラ』。十二星宮の最大の裏切り者。我らが母『オヒュカス』様の力を全て自分のものにしようと山羊座の十二星宮、『カプリコーン』。そのカプリコーンを討伐し、獅子座の十二星宮『レオーネ』を従えた男。それがツバサ・オオゾラ。
そしてその伴侶には『エレナ』と言うものがあり、同じく十二星宮『アクエリアス』を従えている」
「レオーネ様に……アクエリアス様……そして、カプリコーン……ですか……。
レオーネ様は本来、十二星宮を指揮する主であったと聞き及んでおります。
そしてアクエリアス様は強力な盾の力を持ち、カプリコーンは十二星宮の参謀であり、作戦の指示を出すブレーンであったとも……」
「よく調べてありますね。その通り。
我らが母は十二星宮の皆に平等に力を与えた。しかし、中でも凸した者がおり、アクエリアスは強力な守りを、そしてリーダーであったレオーネは強力な魔導の力を持っていた。
故にリーダーとして選出したのだけど……皮肉なものね」
「……」
アリエスは少しだけ遠い目をした。レオナはその姿をただ見つめていることしかできなかった。
「……だから、今回の任務は確実に危険を伴う為、任務レベルが最大に設定されているの。これで、わかったかしら?」
「そ、それはわかりましたが、どうしてその息子が一番の監視対象者となるのですか?」
「キャンサーの話は耳に届いてる?」
「は、はい。星の力を打ち砕かれた聞いています」
「その星を打ち砕いのが彼の息子なのよ」
「!?」
「だから、きちんと情報を集め対策を取りたいの。頼めるかしら?」
「は、はい! そう言う事でしたら、頑張ります!」
レオナはアリエスの期待の言葉に応えるように元気よく頭を下げた。
*
「ーーーという感じに話がまとまったわ」
「そうですか……」
アリエスはこれまでに決まった事を全てを待機していたソラに語った。
「デルタ=Ⅳ。あなたは私になにも指示を出さなかったけど、これもあなたの予想通りの結果?」
「……いいえ。この結果は賭けでした。正直こうなるとは思っていなかったので……」
「……やっぱり、知っていたのね。ツバサ・オオゾラの存在を……」
「はい。翼さんは信頼に足る人物だったので、安心していたのですが、あれがどのような行動を取るのかわからなかったものですから」
「……ツバサ・オオゾラは信頼に足る人物? それだけ?」
「? はい。実力は知っていたので」
「そ、そう……。なら、いいわ」
囁くように呟いたアリエスの表情はとても悲しそうな表情をしていた。
「? ……まあとりあえず、レオナを巻き込んでしまったけれど、一番丸く収める結果にしていただき、ありがとうございます。
これでまだ時間を稼げる」
「……そろそろ話してくれないかしら。あなたの目的を、行動理由を」
「……いいですよ。といっても内容はまだ全然決まっていません。まだまだ勉強不足ですから……」
頭を描くソラの言葉を待つようにアリエスはじっと見つめていた。
「……内容は、ありませんが……約束があるんです! 大切な……とても大切な約束が!
だから、その約束を守る為に自分が今背負っているものを全て片付けたい。そして笑って彼女の元へ帰りたいです」
「……彼女?」
「その為に、申し訳ありませんが、オヒュカスを倒します。そしてもう二度とと俺みたいな人を出さない為に敵対視している十二星宮の人達を止めたいです!」
「……」
この時、アリエスは無理だとはっきり言うことが出来た。
しかし、ソラの瞳はこれまで見てきた中で一番強い意志を持っており、その意思を否定する意思をアリエスは持ち合わせていなかった。
「……難しいですよ」
「出来ますよ。俺は、一人じゃありませんから」
「……」
「手伝ってください。知識のない自分じゃ、何も案が浮かびませんから」
「……一人じゃありません……か……」
アリエスは小さく笑みを作った。
「……ええ。やってみましょう」
「! はい!」
こうしてアリエスとソラは互いに手を握りあり、結束を強めていくのであった……。
次回は12月22日に投稿します。




